SDGsなプロジェクト

九州の企業が取り組むSDGsプロジェクト

すべては「健康な体ときれいな水を守る」ため。50年も前からずっと伝えてきたこと、いま私たちが学ぶべきこと。

Last Update | 2021.10.25

シャボン玉石けん株式会社

シャボン玉石けん株式会社
住所:福岡県北九州市若松区南二島2-23-1 
TEL:093-791-4800
https://www.shabon.com

  • すべての人に健康と福祉を
  • 質の高い教育をみんなに
  • ジェンダー平等を実現しよう
  • 安全な水とトイレを世界中に
  • エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
  • 働きがいも経済成長も
  • 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 住み続けられるまちづくりを
  • つくる責任つかう責任
  • 気候変動に具体的な対策を
  • 海の豊かさを守ろう
  • 陸の豊かさも守ろう
  • パートナーシップで目標を達成しよう

生活者一人ひとりのSDGs

 SDGsについてよく言われる5つの原則は、「普遍性」= 全世界で取り組むこと、「包摂性」= 誰一人取り残さないこと、「参画型」= 積極的に参加すること、「統合性」= 社会・環境を守りながら経済発展をすること、「透明性と説明責任」= 成果を確認しながら取り組むことである。そのため、国や自治体、企業だけでなく、私たち生活者一人ひとりが積極的に参加して、社会・環境を守りながら生活することが求められている。日々の暮らしの中で社会的課題の解決につながる消費活動を行う「エシカル消費」などが代表例で、私たちは日々、何を「学び」何を「選ぶ」かが問われていると言える。
 福岡県でSDGsに積極的に取り組む企業と言えば、必ずその名が挙がるシャボン玉石けん株式会社。およそ50年前から、化学物質や合成添加物を一切含まない無添加石けんの製造・販売を続けてきた中で、培われてきたものとは? そして今、どんなメッセージを社会に発信しているのか? その取組みから、私たちは多くのことを学ぶことができる。

シャボン玉石けん株式会社 本社

健康な体ときれいな水を守る

 シャボン玉石けん株式会社の創業は1910年まで遡る。雑貨商から石けん卸売業となり、1961年には合成洗剤の製造・販売を始める。ちょうど電気洗濯機が一般家庭に普及し始めた頃で、合成洗剤の売上は好調だったそうだ。1971年、国鉄 (現JR) からの依頼で無添加石けんを試作。当時社長だった森田光德前会長が自宅で使ってみると、長年悩んできた原因不明の赤い発疹が治ったことから、その発疹の原因が合成洗剤であったことに気付かされる。会社の業績を支える合成洗剤だったが「体に悪いとわかった商品を売るわけにはいかない」と一大決心し、無添加石けんの製造・販売に切り替える。これが1974年のこと。しかし無添加石けんは合成洗剤より割高だったこともあり、販売店からも消費者からも不評で、売上が一気に100分の1まで激減。100人いた従業員もわずか5人になるなど、苦難の時代が続いた。しかし「体に悪いと思った商品を売るわけにはいかない」という信念を貫いた森田前会長は、無添加石けんへの理解を広める活動を続けた。

シャボン玉石けん株式会社 代表取締役社長 森田隼人さん

 シャボン玉石けんの企業理念は「健康な体ときれいな水を守る」である。「おそらく無添加石けんの製造、販売に変えた頃くらいに生まれたもので、私の父 (森田光德前会長) が作ったんだと思うんですが」と語るのはシャボン玉石けん株式会社 代表取締役社長 森田隼人さん。一般的には、企業理念を掲げてはいるが、社員一人ひとりにどのくらい浸透し、具体的な行動につながっているのか? と悩む経営者が多いと言われるが「弊社の場合はその悩みはあまりありません。『健康な体ときれいな水を守る』という理念は、シンプルな言葉だし事業内容に直結しているので、社員一人ひとりの行動指針としてわかりやすいんです。私が代替わりでポンと若い社長になった時 (2007年3月) も、企業として進むべき方向性が社内に浸透していたので (経営が) やりやすいと感じました。企業が目指すべきものと現状が乖離していると理念は浸透しにくいと思うんですが『弊社は“健康と水を守る”から無添加石けんを作るんだ』って、それはスっと入るんです。実際に無添加石けんの良さをアピールするときは『肌にやさしいです。環境にやさしいです』ってそれを言わなきゃ売れないし、それが企業理念ですから」。

そもそも「無添加石けん」とは?

 「1990年代に入って社会的な環境意識の高まりがあり、2000年代頃からは企業の環境保全活動の高まりがあり、ようやく私たちの無添加石けんへの理解と『健康な体ときれいな水を守る』取組みの認知が広がってきました。こうした追い風もあり、業績も上向きになり今日に至ります。おかげさまで“シャボン玉石けん = 肌と環境に良い”という認知は少しづつ高まってきたとは思いますが、企業にしろ一般の方々にしろ、具体的な行動が大きく変わってきているわけではないと感じています」と語る森田社長。「無添加石けんが (合成洗剤に比べて) まだまだ売れていないのはもちろんですが、石けんと合成洗剤の違いも知らない方がほとんどだと感じています。バターとマーガリンが違う [註1]、ビールと第3のビールが違う [註2] ように、石けんと合成洗剤が別モノだということを知ってほしいのです。今は健康や環境意識が高いので、巷には『お肌にいい〇〇』『天然由来成分配合の〇〇』などと謳う商品が多いのですが、そのほとんどが実は合成洗剤です。食品を買うときは、表示をしっかり確認される方は多いのですが、洗浄剤の分野では成分表示を確認する方はまだまだ少ない。『お肌にいいから〇〇を選んでます』という方でも、実際はその商品が“そうじゃない”場合が多いんです。『香りが好きだから』とか『価格が手頃だから』という理由で合成洗剤を選ぶのはわかりますが、『体にも環境にもいいから』と合成洗剤を選ぶのは間違っている。せめて妊娠から授乳期間中は石けんを使うのが当たり前という世の中にしていきたいと思います」。
[註1] バターは牛乳からクリームを分離して撹拌し乳脂肪を凝集させて作るので成分のほとんどが乳脂肪分。マーガリンは食用油脂に水、食塩その他乳成分などを加えて混合乳化し冷やし固めて作るもので、バターの代替品として開発されたもの。
[註2]ビールは大麦を発芽させた麦芽を、ビール酵母によりアルコール発酵させる製法が一般的。第3のビールは麦芽を使っていなかったり発泡酒に麦由来のスピリッツなどを合わせたりして酒税率を低く抑え販売価格を安くしたもの。

 そう語る森田社長の言葉そのままに、シャボン玉石けんのホームページには、商品紹介コンテンツよりも、石けんに関する理解を深めたり「健康な体ときれいな水を守る」取組みに関するコンテンツが圧倒的に多い。その中の一つ『「石けん」と「合成洗剤」の違い』について見てみよう。石けんも合成洗剤も、モノや肌を洗う洗浄剤として用途は同じだが、原料や製法、成分が異なる。石けんは、天然油脂 (もしくは天然油脂由来の脂肪酸) を原料に「ケン化法」もしくは「中和法」という製法で作られる。シャボン玉石けんでは、天然油脂に含まれる保湿成分が残る 「ケン化法」 で製造している。一方、合成洗剤は石油や天然油脂を原料に複雑な化学合成を経て“合成”界面活性剤を作り出す。 最近では「植物由来」という天然油脂を原料にした合成洗剤も存在するが、同様に複雑な化学合成を繰り返し自然界には存在しない合成界面活性剤を主成分としている。商品名やキャッチコピーの影響で、石けんと合成洗剤との見分けがつきにくい状況が生まれているが、実は「成分表示」を見れば簡単に見分けられる。① 洗濯用・台所用の製品は品名表示に 「石けん」もしくは 「合成洗剤」 と明記されている。② 化粧品系商品 (シャンプー、ボディソープ、ハンドソープ等) では、成分表示に「石けん」の文字がなければ、ほぼ合成洗剤と言えるのだそう。

石けんと界面活性剤について

 一番の大きな違いは、洗浄成分である界面活性剤が、合成洗剤では、石油由来の“合成”界面活性剤である点だ。界面活性剤は、油と水など、混ざり合わない物質の間にできる境界面 (界面) の性質を変え、混じり合わせることができるようにする物質で、水だけでは落とせないワックスやヘアスプレー、皮脂などを包み込んで剥がしやすくするもの。石けんの (自然由来の) 界面活性剤は、洗ったあと水で洗い流すと界面活性作用が無くなるので、肌への負担が少ないと言われている。また生分解性 (物質が微生物などの生物の作用により分解する性質) が極めて高く環境負荷が低いこともわかっている。だからこそ森田社長の言う「『体にも環境にもいいから』と合成洗剤を選ぶのは間違っている」のである。

シャボン玉石けんの工場の様子 (釜炊き用の釜)
  • 工場で立ち仕事の多いエリアは足腰の負担を和らげる板張り仕様
  • 機械での検品後は人の手で最終チェックされる

 またシャボン玉石けんは、自社で作る石けんを「無添加石けん」と呼称している。近年“無添加”の表示をする化粧品や洗顔料が増加しているが、合成界面活性剤が主成分で、香料や着色料など何か添加物が1種類入っていないだけで“無添加”と謳う商品が多く存在するそうだ。生活者のイメージする無添加とはギャップがあることから、新聞広告で「無添加を疑え」というメッセージを発信したこともある。シャボン玉石けんの成分は石けん成分のみ。シャボン玉石けんだから発信できるメッセージと言える。(詳しくは公式HP「私たちがこだわる無添加とは」参照)

SDGsを上手に活用するという視点

 シャボン玉石けんの公式HPには、自社のSDGs推進の取組みが「SDGs宣言」としてまとめられている。「SDGsについては、2017年頃に初めて社内で話題になったと記憶しています。私たちの取組みと17のゴールがどんな感じでマッチングするか、少し議論になりました。その後次第に、SDGsは企業が取り組むものだという認識が広がったり、北九州市が『SDGs未来都市』に選定されたりする中で、2019年、弊社もいわゆる『SDGs宣言』をしました。広報業務を担当するマーケティング部主導でまとめたものです。正直なことを言うと、SDGsについては『弊社がずっとやってきたこと』という感覚でした。私たちは健康と環境の分野をずっとやってきた。ただ、それ以外の部分、たとえば貧困問題、女性の社会進出、教育問題など、我々が触れていないテーマもあって、“できていること”と“できていないこと”が明確になり、より良い世の中を目指していくならば、これまでの活動も含めてより積極的に企業全体として取り組もうということでSDGs宣言を出しました」と森田社長は言う。

シャボン玉石けんが取り組むのSDGs (シャボン玉石けんHPより抜粋)

 たとえば上図のように、シャボン玉石けんの『SDGs宣言』はとても分かりやすい。SDGsを推進するというよりも“上手く活用している”印象だ。「おっしゃる通りですね。(SDGsは) 私たちが続けてきた取組みを外部に発信するためのツールとして活用している感覚です。弊社の『SDGs宣言』で公開している図も、私たちの取組みを積み上げて整理して図解して、社外に発信していく中で作成したもので、おかげでSDGsに関する講演依頼や取材依頼も増えて、一緒に、無添加石けんをPRできる機会が増えました。社内でも理解が深まり、自分たちがやっていることを体系立てて理解できるようになってきたと感じています。弊社の社員は、基本的に“世の中に良いことをしたい”人が多いんです (笑)。こうしてSDGsを使って整理することで、弊社のやっていることを社内外にうまく共有できるようになったと思います」と語る森田社長。SDGsを経営戦略に実装する手法は、個々の企業の業種や特性、事情で異なるとは言え、世界が共有できる価値の指標=SDGs17のゴールと捉えて、シャボン玉石けんのように“上手く活用して”企業価値を高める手法は、大いに参考になるのではないだろうか。

北九州市とのSDGs包括連携

 シャボン玉石けんが『SDGs宣言』したことで、社内外でさまざまな新しい動きが生まれている。その好例の一つが、2019年12月に実施した北九州市との「SDGs包括連携協定」の締結だ。2018年6月、全国で初めて (他28自治体含む) の「SDGs未来都市」に選定された北九州市と、2019年1月にSDGs宣言をしたシャボン玉石けんが、SDGsの達成を共通価値としてさまざまな取組みを実施するものだ。森田社長によると「実は、それ以前に単発でのコラボレーションはあったのですが、新しく“包括連携”という枠組みを作ることでお互いにメリットがあればと、弊社から北九州市に提案をしました」とのこと。SDGsの啓発活動、工場見学や出張授業などの地域貢献、ふるさと納税への貢献など、さまざまな具体的な取組みを行う中、シンボリックな事例が「石けん系泡消火剤の研究・開発」だ。これは、シャボン玉石けんが開発した「石けん系泡消火剤」を北九州市消防局が採用し、域内での消火活動に使用すると同時に、両者が協働で研究・開発を続け、商品そのものの改良や運用方法の改良をしているという事例である。その具体的な内容を教えていただくべく北九州市消防局を訪ねた。

北九州市消防局 総務部総務課 消防司令 坂本正明さん

 「シャボン玉石けんさんとのプロジェクトは、2001年頃から始まったもので、他の消防本部ではあまり例のない取組みです」と教えてくれたのは北九州市消防局 総務部総務課 消防司令 坂本正明さん。「私たちが民間企業の方々に『○○を作っていただけますか? 』と相談することはあります。たとえばホースのノズルだったり消防車だったり。それはメーカーさんがユーザーのニーズに応えて商品開発するのと同じですよね。一方でシャボン玉石けんさんと私たちのプロジェクトは共同研究になります。石けん系泡消火剤そのものの開発はシャボン玉石けんさんが、現場での運用方法は私たちが、それぞれの施設やノウハウ、人材を生かして環境にやさしい石けん系泡消火剤の開発と研究を重ねていってる感じです」とのこと。

環境にやさしい石けん系泡消火剤

 では、そもそもこのプロジェクトはどういう経緯で始まったのだろうか? 「いわゆるA火災 (一般火災) に対応した泡消火剤の使用を始めた頃は、海外からの輸入品を使っていました。現場で使うと、たしかに火は消えるけれど泡が消えないんですね。鎮火した後、現場の側溝とか付近の畑とかに、ずっと泡が残っていて、地域住民の方から『環境に悪いんじゃないか? 』という不安や苦情が寄せられるようになりました。実際に成分を調べてみると、合成洗剤が主成分だったので、決して環境に良いとは言えないとわかったんです。じゃあ、どうしようか? 地元には無添加石けんを長年作っているメーカーさんがあるじゃないか…というわけでシャボン玉石けんさんに相談に行ったのが始まりです」と言う坂本さん。そこから何百種類ものサンプルを作っては試し、改良を重ねて、ようやく2007年に一般火災用石けん系泡消火剤が完成する。

北九州市消防局 警防課 消防司令補 樂滿敬之さん

 苦難の末誕生した石けん系泡消火剤の特徴とは? 北九州市消防局 警防課 消防司令補 樂滿敬之さんに運用上のメリットを教えていただいた。「石けんが主原料なので環境負荷が低いのと、泡消えが良いのが特長です。泡が消えていく速さは、目で見てわかるほどです。石けん由来なので生分解性が高く、当初の課題であった住民の方々の不安を取り除くことに寄与していると感じています。また消火時の水の使用量が少なくて済むのも特長です。水は優れた消火剤ですが、水を大量に使うと“水損”という水による損害が出ます。たとえば集合住宅の火災の場合、火元の階下の住宅には水濡れの被害が出ることがあります。石けん系泡消火剤を混ぜて使うと、消火実験では通常時の1/17の水量で消火できたというデータもあります。火災の種類や状況で変わり、実際の火災では、感覚的にはやはり1/2〜1/3くらいの水量で対応できているのではないでしょうか」とのこと。そもそも泡消火剤は、洗浄剤の持つ界面活性効果により水の表面張力が失われ、燃えているものに水がより“浸透”して冷却する効果と、燃えているものを泡で包んで“窒息”させて消火する効果とがあり、消火に使用する水の量を減らすことができる。その泡が石けん由来で環境にやさしいというのが、石けん系泡消火剤の大きな特長なのである。

シャボン玉石けんと北九州消防局の、石けん系泡消火剤の共同研究の様子

 さらに「石けん系泡消火剤を使用することで (消火の) 戦術が変わりました」と樂滿さんは続ける。「以前は、出動要請があると、火災現場に一番近い消火栓めがけて、近隣の消防隊が一斉に駆けつけ、早く到着した隊から消火栓に消防車を繋いで、次々とホースを延ばし消火活動をしていました。今は、まず現場に一番早く到着した消防隊は、消防車を消火栓に繋がず、火災現場にできるだけ近づいて石けん系泡消火剤を使い、そこに消火栓に繋いだ別の消防隊がペアとなって消火活動を行います。少ない水で活動できるので消防車が積んでいるタンクの水だけで初期対応します。その後、消火栓に消防車を繋げた消防隊から水を供給しながら消火活動を続けます。火災は初期→中期→終期と時間の経過によって状況が異なります。初期は、燃えている場所が局部で、まだ建物全体に火が回っていない状況なので、この時に石けん系泡消火剤を使って消火すれば、火災の被害や水損を少なくできます。中期になると建物全体が燃えている状態なので、大量の水で冷却しながら消火を進めることになり、水をたくさん使うし水損も発生しやすくなります。そこで石けん系泡消火剤を使うことで、機動力を持って初期対応が行えるようになり、火災による損失をできる限り少なくできる可能性が高まりました。石けん系泡消火剤を使うと、隊員が持つホースの重さが、水だけを使う場合に比べて格段に軽いというメリットもあって、隊員の機動力を高める一因になっています。また、一度消えたように見えて、時間が経過して再度燃える『再燃火災』を防ぐことにも効果があります」。ちなみに北九州市消防局で使っているホースの口径は、全国の消防局が採用しているものよりもひと回り小さいそうで、それも水の量を減らし機動力を高める効果を狙ってのこと。樂滿さんの話からは、少ない水で消火し、消火活動までを含めて火災による損害を可能な限り少なくしようという、強い使命感があふれて出てくる。

 シャボン玉石けんと北九州消防局が共同開発している石けん系泡消火剤は、次の可能性も模索している。「石けん由来なので環境負荷が低く少ない水で消火ができる、この特長は林野火災に適しているんじゃないかということで、北九州市立大学さん、シャボン玉石けんさん、北九州市消防局の3者で研究を続けています。さらにインドネシアの泥炭地 (枯死した植物が水中で炭化し、蓄積した地層) 火災にも、環境にやさしくて、土に染み込みやすい石けん系泡消火剤が有効なのではと研究が進んでいます」と語る坂本さん。私たちの毎日の生活で使う無添加石けんが、火災の現場でも大きな役割を果たしているー それはシャボン玉石けんが掲げる「健康な体と水を守る」という社会課題を、それぞれの立場で読み解き、共有し、それぞれの視点で行動し課題解決へと向かう具体例、つまり、SDGsが掲げる5つの原則そのものを具現化した好例と言える。

北九州市消防局 本部

シャボン玉石けんにしか言えないこと

 2018年6月5日、国連が定めた「世界環境デー」に合わせて、シャボン玉石けんは朝日新聞と毎日新聞の大手2紙に15段カラーの全面広告を掲載した。"日本に新しい公害が生まれています。その名は「香害」"というメッセージと共に、洗浄剤や柔軟剤のボトルからモクモクと吐き出される“合成香料の煙”が描かれている。「香害」とは、合成香料の人工的で過剰な匂いが原因でさまざまな体調不良を発症することを象徴した造語であり「化学物質過敏症」の症状の一つである。合成香料などのさまざまな化学物質に反応して体調が悪くなり、重症化すると日常生活がままならないほどの深刻な症状に悩む人もいるほどだ。

シャボン玉石けんが掲載した「香害」に関する新聞広告

 きっかけは森田社長宛に届いた一通の手紙だったそうだ。「札幌で行った私の講演を聴いてくださった方のお子さん (小学生) から『柔軟剤が臭くて学校に行けない』という手紙をいただいたんです。合成香料を原因とする健康被害については、すでに多くの人が苦しんでいて、日本消費者連盟では『香害110番』という取り組みをされていたり、そういう状況は把握していたんです。ただ、この手紙をいただいて『この問題は、シャボン玉石けんがなんとかしないといけない』と強く思ったんです。香害に関する問題を考えるときに大切なのは、合成香料を含んだ洗浄剤や柔軟剤を使っている人が『誰かを困らせてやろうとして使っているわけではない』ということなんです。なので、まずは合成香料で苦しんでいる人たちがいることを知ってもらうことが大事、こういうことこそ自分たちがやるべき、むしろシャボン玉石けん以外の企業では言えないことだと思ったんです」と森田社長は振り返る。シャボン玉石けん株式会社の広報機能を担う、マーケティング部の川原礼子さんは「もともと弊社のお客さまの中には化学物質過敏症の方もいらっしゃって、弊社のSNSや会報誌などで情報発信を行っていました。また、2016年からは毎年アンケート調査を行い、その結果を公表 (プレスリリース) してきましたので、弊社としても問題意識を持っていました。たしかに、無添加石けんにこだわってきた弊社だから発信できるメッセージだと思いますし、強い意思を持った広告出稿でしたが、一方でネガティブなご意見がたくさん来るんではないかという心配もありました。特に、香り付き柔軟剤を愛用している方々からお叱りを受けるのではないかと。でも、実際は『本当に困っていたんで、よく言ってくれました』とか『この紙面をデータでもらえませんか? 勉強会に使いたいので』など、好意的なお声がたくさん寄せられました。直接電話でお問い合わせいただいたのが300件以上、SNSの記事に『いいね』が合計1万件以上と、私たちが想像していた以上に、(香害が) 潜在的な社会課題だったのだと思い知らされました」と語る。

シャボン玉石けん株式会社 営業本部 マーケティング部 川原礼子さん

化学物質過敏症とは何か?

 それでは化学物質過敏症とは何か? 認定NPO法人化学物質過敏症支援センター 事務局長 広田しのぶさんから教えていただいた。「化学物質過敏症 (Chemical Sensitivity 以下CS) は、発症のメカニズムが明確でなく、原因も症状も人によってまちまちなので、医師ですら理解が進んでいない状況です。でも発症者は増加していて、ようやく2009年10月に厚生労働省が病名を登録したばかりで、まだまだ社会的認知も低いと言えます。私たちNPO法人化学物質過敏症支援センターは2001年に設立後、相談窓口を設置し、啓発のためのブックレットや会報を出版するなどして、CS発症者の支援をしています。シャボン玉石けんさんのように民間企業が声を挙げてくれるのは本当に嬉しいことです」と広田さんは言う。「お医者さんの定義でいくと、CSは『環境中の極めて微量な化学物質に反応して自律神経系の症状を中心とした症候群』となります。日本では人口の約7.5%が対象者という報告がされています。原因となる『化学物質』は、代表的なものだけでも、家庭用の殺虫・殺菌・防虫剤、香水、衣料用洗浄剤、家庭用洗浄剤、防臭剤、芳香剤、柔軟剤、タバコの煙、灯油、油性のペン、印刷物のインキなど、つまりは身の回りにあるさまざまな化学物質です。『自律神経系の症状』とは、代表的なものだと、頭痛、目のかすみや痛み、視力の低下、鼻水や鼻づまり、下痢や便秘、吐き気、頻尿、呼吸不全、皮膚の発疹や痒み、精神的な不調などが挙げられます。人によって原因物質も症状も違うし、しかも自律神経系の症状なので、周りの人はもちろん、本人でさえも「気のせいじゃない? 」と思う場合が多いのです。気のせいだと思っていたら症状が長い期間続いて良くならない。じゃあ病院に行って診てもらっても、医療現場でのCSの理解が進んでいないので、更年期障害、精神疾患、うつ病などと診断され、飲む必要のない薬を飲み続けて、肝心の症状は改善しないままの方も数多くいらっしゃいます」。

化学物質過敏症の症状について

 広田さんは続ける。「CSはアレルギー疾患と言われていますが、原因となる化学物質をできるだけ遠ざけて生活することで発症を抑える、対症療法を行うことになります。自分自身はもちろん、家族や職場、公共施設や交通機関、よく行く近所のお店など、社会全体でサポートすることが大事です。特に多いのが“においに過敏”な人で、衣類用合成洗剤や柔軟剤が放つ合成香料の匂いや、防虫剤や殺虫剤、消毒液などの匂い、整髪料や化粧品の匂いなどがトリガーとなって、頭痛やめまい、吐き気や動悸、呼吸困難などで苦しむケースが数多く報告されています。それは“その匂いが嫌い”という話ではなくて、体調が悪くなる具体的な原因になる人がいるということを、ぜひ知ってほしいのです。知ることで、合成香料の分量や使い方を考えたり、香りを楽しむために使うモノを選ぶ基準を考えたり、そうすることで症状が軽減されて生きやすくなる人がいることを知ってほしいのです」。アレルギー疾患は、よくコップの水に例えられる。コップに水をいっぱいに張った状態で、そこに新しく水を注ぐと許容量を超えて水があふれる (発症する) 。許容量は人それぞれなので、ある人にとっては“良い香り”であっても、ある人にとっては“刺激”となって許容量を超えてしまう。ならば新しく注ぐ量を少なくしたり (合成香料の使用量を考える)、刺激にならないものを注ぐ (合成香料ではない香りを使う) などが考えられる。「子どもたちは、家庭でも、幼稚園や保育園でも、学校でも地域でも化学物質に囲まれて生活しています。でも子どもたちは自分がCSだとは気がつかないので、たとえば『学校に行くと具合が悪くなる』としか言わない。それを“学校に行きたくないだけ”と捉えてしまったら、苦しむのは子どもたちです。CSは、年齢が小さいほど後々その影響が大きく出ると言われています。大人たちがCSのことを知り、しっかり寄り添わねばなりません。CSの方の一番の悩みは『周りの人に理解されない」ことなんです」と語る広田さんの言葉が印象的だ。

 この動画は、シャボン玉石けんが提供する短編ドキュメンタリー映画『カナリアからのメッセージ 化学物質過敏症のない未来へ』だ。化学物質過敏症の存在を知ってもらえるように、子どもたちを化学物質過敏症から守れるようにと制作されたもの。先に紹介した新聞広告もそうだが、これらのメッセージが「だから無添加石けんを使ってください」ではないことが重要だ。「たしかに“広告”として考えれば、香害に関連して自社製品のPRができるかもしれませんが、弊社としては『健康な体を守る』という使命感のほうが大きいです。まずは香害や化学物質過敏症について知っていただき、自分や家族、周りの方の健康のために毎日使うものを見直していただくきっかけになればと考えています。もちろん弊社の商品を使っていただければ嬉しいですが、たとえ弊社の商品ではなくても、一人でも多くの方に人にも自然にもやさしい石けんの良さを知っていただき、石けんを使っていただければと思います」と言う川原さんの言葉には、福岡県のSDGs企業といえばシャボン玉石けんと言われる理由が隠されている。企業と人が自然環境に配慮しながら共有する社会課題の解決を目指す、そのお手本のような取組みなのだ。

企業と社会の関係づくり

 「せめて妊娠から授乳期間中は石けんを使うのが当たり前という世の中にしていきたいと思います」と語る森田社長の言葉が気になって、あらためて訊ねてみた。現代に求められている、企業と社会の在り方とは? 「売れているモノは、お客さまが“欲しい”と思うから売れています。ただ売れているモノの中には、環境負荷の高いモノがあったり社会課題の原因になっているモノがあるのも事実です。これだけモノがあふれていると、モノの機能の違いがお客さまには伝わりにくい。企業も法人と言うくらいだから人格があります。機能で選ぶだけでなく『その企業を支援したい』という見方というか『あの会社のあの取組みは共感できる。だから (商品を) 購入する』という関係性が、ますます大事になると思っています。自社の利益だけを考えている企業と、社会貢献している企業とを比べた時に、商品が良いのはあたりまえで、商品だけでなく企業の取組みとして支持できるか否かが重要になると思います。特に私たちは、もともとどこの家にもあった石けんを売っていて、生活や社会のいろいろなところで接点がたくさんある企業です。ですから、商品だけでなく、シャボン玉石けんという企業が何を考えているのかを、いろいろなシーンで訴求していかなければと思います」。この森田社長の言葉は、逆に言うと、企業が考えていることが、自分の価値観や社会の求めにどうフィットするのか? それを私たち生活者自身が、学び、判断し、選択せねばならないということではないだろうか? SDGsの認知が高まるにつれて、社会・環境を守りながら経済発展を志向する企業が増えてきた。では、私たちの暮らし方はどう変わっているのだろうか。 企業だけでなく、私たち一人ひとりも問われている。