SDGsなプロジェクト

九州の企業が取り組むSDGsプロジェクト

こんな不確実な時代だからこそ、生きることや働くことは、楽しいんだって伝えたい。

Last Update | 2021.10.18

スタートアップポップコーン株式会社

スタートアップポップコーン株式会社
住所:福岡県飯塚市鯰田2525-157
TEL:092-292-7409
https://startuppopcorn.jp

  • 貧困をなくそう
  • すべての人に健康と福祉を
  • 質の高い教育をみんなに
  • 働きがいも経済成長も
  • 人や国の不平等をなくそう
  • つくる責任つかう責任
  • パートナーシップで目標を達成しよう

新しい学習指導要領で子どもの学びが変わる

 新しい学習指導要領が、小学校では2020年度、中学校では2021年度から全面施行されている。学習指導要領は、文部科学省が定める教育課程の基準で、時代の変化などを踏まえ約10年ごとに改訂されてきた。グローバル社会が本格化し、ICTの普及でヒトとモノとの関係性が激変し、人工知能・AIなどの技術革新が急速に進む今日は、VUCAの時代  [註1] と呼ばれるほど変化の予測がしにくい。新しい学習指導要領は、この予測困難な時代で「生きる力」を育むことを目的としている。そのため、子どもたちには、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、自ら判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現することが望まれている。何を学び (知能や技術) 、それを理解し具体的に活用 (思考力や判断力、表現力) しながら、どのように社会や世界と関わりながらより良い人生を送るのかー 学校、家庭、地域など子どもたちの学びを支える私たちの課題は大きいと言える。
[註1] VUCAとは、Volatility (変動性)・Uncertainty (不確実性)・Complexity (複雑性)・Ambiguity (曖昧性)の頭文字を取った造語で、未来の予測が難しくなる状況のことを意味し、今の時代の特性を表している。

学習指導要領 リーフレット (文部科学省) より抜粋

子どもたちに「起業家教育」を

 今回ご紹介するのは、子どもたちの「生きる力」を育む企業のひとつ。2020年11月に創業したばかりのベンチャー企業だ。スタートアップポップコーン株式会社 (以下、STAPO!! ) は、その事業内容を「小学生・中学生・高校生の起業家教育・教材開発及び販売」と定義している。起業家教育 (アントレプレナー教育) とは、次世代の経済産業界を担う人材育成を目的として、おもに大学の教育現場を舞台に取り組まれてきた。最近では、起業家の生き方や精神性 (アントレプレナーシップ) を多角的に学ぶことにより、社会と自分との関係性や困難に向き合う力を学ぶことに、その主軸が移ってきているそうだ。子どもたちと起業家精神教育ー 耳慣れないキーワードの組み合わせから見えてくるものとは?

STAPO!! の福岡拠点事務所の壁面に掲げられている黒板アート

起業するなら早いほうがいい

 「僕は、起業したいと思う人たちには『できるだけ早く、若いうちにした方がいい』って言ってます。起業は、きっとほとんどの人が失敗すると思うんです。カリスマとか天才とか呼ばれる一部の人以外は、基本、みんな何かしら失敗する。そう思っていたほうがいいと思います」と語るのはスタートアップポップコーン株式会社 代表取締役CEO 澤田聖士さん。「早く起業すれば、再スタートする時間もたくさんある。できるだけ早く失敗して、経験して、改善してやり方を変える。起業して成功するかどうかはわからないけれど、成長することは約束できます。それは、僕自身が25歳で起業して、もちろん今でも大変だし、会社存続の危機は過去に何度もあったし、でも、その経験は貴重で、そこがあったから (自分自身が) 成長できたと思うんです。だから、経験は苦労も含めて早いほうがいい、失敗するのも早いほうがいいって言ってます」。子どもたち向けの起業家教育に取り組む澤田さんが「起業はほとんど失敗する」という前提で進めているのは少々驚きである。STAPO!! の取組みの本質を探るために、まずは、起業家・澤田聖士のこれまでを追ってみよう。

スタートアップポップコーン株式会社 代表取締役CEO 澤田聖士さん

 澤田さんは、1989年生まれ。地元・飯塚市内の中学校に進み、卒業時に即席で組んだロックバンドで“ステージに立つ快感”を経験してしまい、高校生になる頃にはバンド活動に没頭。高校卒業後、家業を手伝いながらメジャーデビューを目指して全国的な活動をする日々を送る。「電柱を立てるための穴を3メートル (の深さ) 掘って、17メートルの電柱を立てて、上に登って電話線を張るっていう現場作業をずっとやってました。祖父が経営する会社なので、かなり甘えて働かせてもらってて、バンドの全国ツアーで2〜3週間休むなんてことも許してもらってたくらいでした」と振り返る。
 23歳の頃、主要メンバーの脱退が原因でバンドは解散。澤田さんは転機を迎える。「バンドしかやってこなかったので、解散して『じゃあ自分はどう生きて行こうか』と考えた時に、漠然と“営業をやりたい”と思えたんです。バンドでリーダーをやってたし、人と良い関係性をつくるのが好きだなぁとは感じていたので、高校卒業後5年間勤めた会社を退職し、福岡市にある旅行代理店に転職しました 」。転職後、大学生の就職支援を行う企業に出向。「高卒で、就職活動をしたこともない自分が、大学生の就職支援をするというのは意味が分からなかった (笑) 」澤田さんだが、ここでの経験が起業のきっかけとなる。2014年12月、澤田さんは、新卒採用コンサルティング会社 クリックエンターテイメント株式会社を飯塚市で起業する。資本金は300万円、創業時のオフィスは4坪という船出だった。採用のためのシステム構築やWEB制作を請負いながら「あっという間に資金が底を尽きて幾度か潰れそうになりながらも、お客さまに助けていただきながらここまで来ました」と語る。そう、今回紹介しているSTAPO!! は、2つ目の起業なのだ。

 澤田さんは、自ら「起業はほとんど失敗する」と語るとおり、数々の失敗を重ねてきたそうだ。「これまで3回くらい会社 (クリックエンターテイメント) を潰しそうになったり、裁判沙汰もあったり、移動の車の中で運転しながら何度も泣いていました。それでも経営者を続けてきたのは『成長できた』って実感があったからなんです。歳が20も30も離れた年配の方から、仕事相手ではなく“友人”としてお付き合いしていただいたり、そんな人との出会いが、自分の糧になってきました。裁判沙汰に直面していた本当に苦しい時期に『30歳の成人式2019 飯塚・嘉麻・桂川』 [註2] というイベントの実行委員長を、ボランティアで1年半ほど務めていた頃があって、本当はボランティアなんてやってる場合じゃなかったんですが、飯塚市の片峯市長との約束なので、それは絶対に守りたいと思って。関係者の皆さんに助けられなんとか無事開催することができたんです。それを西日本新聞社の筑豊総局 髙木総局長が記事に取り上げていただいて、またその記事をきっかけにいろいろと声を掛けてくださる方も増えて、苦しい時期にたくさんの方に助けていただきました。起業したばかりの頃は、若手起業家にありがちな『ともかく目立ちたい、見栄を張りたい』が強くて、自分で自分のPRを必死になってやっていたんですが、思うようにはいかなくて。僕は、自分で上がりたいステージを作って、自分で上がるもんだと思ってました。でも、そのステージは、いつも下から見上げているから、上に誰がいるのか見えないんですね。でも、片峯市長や髙木総局長が、上から僕の手を引っ張ってくれたおかげで、僕はそのステージに上がれたんだと、その時に気がついたんです。自分が上るんじゃなくて、まずは周りの人にそのステージに上がってもらって、引っ張ってもらわないとダメだって。それ以来、自分が表に出るのをやめました」と語る
 元バンドマンで、25歳で起業、最初の会社が10周年を迎えぬうちに早くも2社目を起業と書くと、野心を抱えてギラギラした上昇志向の若者をイメージするかもしれないが、実際に会った印象は、むしろ老成した癒し系だ。澤田さんの人柄か、STAPO!! は会社というよりもチームという言葉が似合う。「自分のためではなく人のために」ー 起業家・澤田聖士の強みは、きっと「才能が集まリたくなるステージづくり」ではないだろうか。
[註2] 2019年1月13日(日)に嘉穂劇場にて開催された地域活性化イベント。飯塚・嘉麻・桂川の30歳を迎える若者が集い、地域について、仕事について、人生について、語り合い考える機会を創造するもの。開催にあたり澤田さん他の実行委員は、飯塚市の片峯市長を訪問し、開催趣旨を説明し共感と激励をもらった。

STAPO!! こそが“スタートアップ”

 飯塚市には「つなぐカフェ@飯塚」という交流スペースがある。地域の企業関係者や学生をはじめとした市民同士の交流を促し、新たなつながりを得るための施設で、2018年から運用が開始された。飯塚市、飯塚市に拠点を持つ企業、地域住民に加え、飯塚地区の三大学 (九州工業大学、近畿大学、近畿大学九州短期大学) の学生たちがさまざまに利用している。特に、飯塚地区の大学生にとっては、学外の人たちと交流を深めることで、新しい視点や価値観から自分たちの考え方や技術を見直すことができると好評だ。「『つなぐカフェ@飯塚』では、学生たちに地元企業の会社紹介ではなく職業紹介をするというプログラムが定期的に開催されていて、僕も“飯塚市で若くして起業した経営者”としてたびたび参加していたんです。そうすると、大学生の中でも、働く意思の高い人が僕の周りに集まってきて、中には起業したいと考える学生が数人いて、いろいろな相談を受けたりしていました。その中から、大学1年生と2年生のコが、2人起業したんですね。僕から見ても『このコたちはきっと、将来成功するだろうな』と思える2人で、『これ、もっとたくさんの人、もっと言えば、子どもたちに共有できないかなぁ』って思ったのがSTAPO!! の始まりです。その2人に『子どもたち向けに“起業家教育”を、ゲーム形式でやってみない? 』って声をかけたんです」と振り返る澤田さん。STAPO!! のプログラムの強みは、現役バリバリの起業家たちや、スタートアップの当事者たちが、その経験や知識、思想を持ち寄って、今の時代の求めに的確に答えられるよう設計されている点にある。

  • 起業家教育プログラム体験会@Garraway Fの様子 (STAPO!! 提供)

 では、STAPO!! が提供する子どもたち向けの起業家教育プログラムとは、具体的にどのようなものなのだろうか? 開発担当のスタートアップポップコーン株式会社 常務取締役CTO兼CIO 大町侑平さんに教えてもらう。「全体は4つのプログラムで構成されています。①起業家精神の顕在化・蓄積 ②ファイナンスリテラシーの向上 ③課題解決能力の向上 ④仕事を通して実現したい未来の発見 です。①の起業家精神の顕在化・蓄積は、僕たちが開発したボードゲーム『START UP POPCORN!!』を使って、準備→起業→経営という起業家の一連の動きを疑似体験します。ゲームを進めるにつれ、さまざまな外的要因から経営がうまくいかなかったりすることもあり、自分と社会の繋がりや、変化に対応する能力の必要性を感じてもらいます。②はお金の話です。日本の学校教育ではお金の授業がありません。人生の基盤になるお金について学ぶことで、豊かな人生を送るためのヒントを得てもらいます。③はビジネスモデルの構築です。これまでどのような社会課題がどのように解決されてきたのか過去事例に学び、現代の課題を学び、その解決方法をビジネスアイデアとして模索するものです。④は哲学です。つまり自分は何のための働き、何をなすべきか? 自分自身が大切にしたい生き方 (働き方) について、カードゲームを通じて考えます」とのこと。

スタートアップポップコーン株式会社 常務取締役CTO兼CIO 大町侑平さん

 大町さんは続ける。「はじめに、澤田さんには ①のボードゲームのイメージがあったので、それを具体的に今のカタチにするのはそれほど大変ではありませんでした。自分たちが体験してきた物語をゲーム仕立てにする感じでしたね。で、そこから本来の目的である、子どもたちの起業家的な資質や精神を育てるためにはどうしたらいいか? ってみんなで考えて、お金の話とか、ビジネスアイデアの導き方とか、生きるための哲学とか、そういうプログラムを増やしていった感じです」。ちなみに大町さんは、「つなぐカフェ@飯塚」で澤田さんが出会った“『このコたちはきっと、将来成功するだろうな』と思える2人”のうちの1人。九州工業大学在学中に、子ども向けプログラミング教育事業を行う会社を起業した後、「そういえば、大町くんゲーム作れたよね」と澤田さんに巻き込まれ、STAPO!! 設立メンバーとなったそうだ。そう、大町さんも“2社目”なのだ。「僕は、子どもたちの『考える力』をなんとかして育てたいんです。それにはゲーム感覚で学べるものが良いと思っています。STAPO!! のプログラムは、あえて大人たちが使っている専門用語も使います。それは、子どもたちは、今はその言葉を理解する必要がないと思っていて、大事なことは“そういう体験をした”ことなんです。将来のこと、仕事のことを考えるのが“楽しい”という経験が残ればいい。それが起点になって、生きることや働くことを楽しめる大人になって欲しいんです。時間が経って、彼らが大人になった頃に『そういえば、小さい頃、そんな体験したなぁ』って思い出せればいい。今は“楽しい”経験でいいと思います。だから難しい教育講座や講演会ではなく、ゲームがいいんだと思うんです」。

子どもたちの声、大人たちの声

 このような開発者の想いや狙いは、子どもたちにどのように受け止められているのだろうか? 起業家教育プログラムを実施する際、ファシリテーターとして重要な役割を果たす、スタートアップポップコーン株式会社 スクール開発Div 三浦 茜さんにも加わってもらう。「ワークショップの後に (子どもたちに) アンケートを書いてもらっていて、一人ひとりいろんなことを書いてくれるんです。『起業って言葉は知ってたけど、理解が深まりました』とか『お金の大事さを知りました』とか、『将来、自分のやりたいことを仕事にしたい』、『家族やお世話になった方への恩返しになるような仕事をしたい』とか。そういうのを見ると、子どもたちの理解力の高さに驚かされます。もちろん個人差はあって、ちょっとついていけてないかなぁと感じる子もいますが、ワークショップはチームで進めますので、周りの子たちがうまくフォローしてくれて、チーム単位で理解が進むように気をつけています」という三浦さん。「子どもたちが、自分の言葉で、自発的に『将来、○○がしたい』と言えるようになって帰るのは、ワークショップを通じて自分自身の性格や志向を見つめ直すことができたのかなと感じています 」。
 三浦さんは、現在、澤田さんが以前勤めていた大学生の就職支援企業にも勤めていて、すでに6年以上のキャリアを持つ 。澤田さんとはかつて、上司と部下という関係だったそうだ。「澤田さんに誘われて、2021年の6月にSTAPO!! のメンバーになりました。今は2つの会社に籍を置かせていただいていて、会社にも澤田さんにも本当に感謝しています。就職支援と起業家教育はつながる部分が多くて、自分のやりたい気持ちを自発的に承認できたり、アウトプットできたりするのが、起業家教育の魅力です。それを就職支援の場でも、うまく活用できるようにしたいなと思います。STAPO!! は、いろんな才能や技術を持った人たちが横の繋がりで集まっている集団です。すべて澤田さんの人柄が成せるものですね」と語る。

スタートアップポップコーン株式会社 スクール開発Div 三浦 茜さん

 「子どもたちは、むしろスムーズにプログラムを理解する子が多いんですが、教育現場に直接携わっていない大人の方たちには (子ども向け起業家教育が) ピンとこない方が多いのかなって印象です」と言う三浦さん。「新しい学習指導要項が掲げている『生きる力』というのは、起業家教育と同じです。すでに小学校では実践が始まっているので、先生や教育関係の方々には、僕たちがやろうとしていることは、わりとすんなり理解をしてもらえるなと感じます。でも、教育の現場から離れている大人の方たちの中には、いまだに『いい高校に行って、いい大学に行って、いい会社に就職してっていうのが幸せな人生だ』って、その基準しかない方もいます。そもそも今は『じゃあ、いい高校の“いい”って何ですか? 』が問われている時代なんです。僕らは、このプログラムを通じて将来の起業家を育てているわけでなくて、子どもたちに、自分の幸せとか人生を、自分で考えて自分で切り拓いて行けるような人になって欲しいと願っているわけで、今後、STAPO!! の取組みを拡げていくためには、その価値観を、一人でも多くの大人の方々と共有することが大事だと感じています」と大町さんが続く。STAPO!! では、大人向けの「起業家教育プログラム体験会」を、多い時には月に2回のペースで開催している。「ゲームは、子どもの教育に関して“悪”ではない、ゲームは何かを学ぶ最適なツールだって知って欲しいんです。僕たちのゲームを通じて、自分の価値観を知る、自分の思考を知る、そうするとやりたいことがわかるときがあります。大人になると、そういう自発的な発想をする機会が減るので、体験会で戸惑う大人たちも多い。ぜひ一度、体験会に参加してもらえると、起業家教育の価値を共有できると思います (大町さん) 」。

子どもの「生きる力」を育む大阪市住之江区

 大町さんが言う「子どもたちに、自分の幸せとか人生を、自分で考えて自分で切り拓いて行けるような人になって欲しい」と願う大人たちは、全国にもいる。その志を同じくして、STAPO!! の起業家教育プログラムを、全国の自治体で初めて取り入れたのが大阪市住之江区だ。2021年度の教育事業に正式採択し、この春からさまざまな取組みが始まっている。
 大阪市住之江区。大阪市の南西にあり、大阪市24区ではもっとも広い。「住之江区はね、旧市街の下町と人工的に造成した南港という、性格の違う2つのものが共存している街なんです。旧市街は昔は造船業が盛んで、東側には海の神様・住吉大社がある。南港は、南港ポートタウンや大阪国際見本市会場 (インテックス大阪) など未来の大阪を想起させる開発が進んでいます。区の南側を流れる大和川は、昔から氾濫や水害の危険が高くて、海や水と縁が深い街ね」と語るのは大阪市住之江区 区長 末村祐子さん。「ここ数年、全国的に見ても台風や大雨の自然災害が頻発していますが、住之江区は残念ながら水に強くない。だから“水から身を守る”のが大きなテーマです。たとえ区役所の職員300名全員が出張って行っても、区民みんなの命は救えないのが現実です。だから区民の皆さんと一緒に『災害に負けないまちづくり』を進めています。これが一つ。あと、全国的に子どもを取り巻く環境が大きく変化していますが、住之江区にも、しんどい思いをしている子がいます。だから子どもたちの『生き抜く力』を育てようって、区政は、この2つをしっかり取り組んで『みんなが支え見守りあう地域』を目指しています」。

大阪市住之江区 区長 末村祐子さん

 末村さんは、民間出身の区長で、阪神淡路大震災の復興、東日本大震災の被災者支援、産業復興、被災下の行政体制構築などに携わってきた、いわば行政運営と災害復興のスペシャリスト。「行政にできるのは『どういう準備をしていれば命が守れますよ』と言う情報を継続して発信することです。たとえば、災害時に避難場所や避難方法、やるべきことなどを、あらかじめまとめておいて、折り畳んでカード型にできる『避難カード』を、広報紙やホームページで全区民の皆さんと共有しました。あと、災害が起きる時って、気象庁や自治体や、交通機関とか、いろいろな団体がいろいろな情報をバラバラに発信するでしょ。それを、実際に避難するまでの出来事を時系列にまとめて『この情報が出たら、自分はこうする』とか、あらかじ決めておけば慌てないで済むので、そういう『マイタイムライン』を家族で作っておきましょうとか、そんな呼びかけをしています」と言う末村さん。やさしい語り口ながら、経験に裏打ちされた的確な取組みの数々は、話を聞いているだけで新しい視点に気付かされる。

 今回、住之江区がSTAPO!! のプログラムを正式採択したのは、プロポーザル方式での選定によるもの。住之江区が、子どもたちの「生き抜く力」を育むために、複数の民間企業等から企画提案を受けたカタチだ。STAPO!! から住之江区に“売り込んだ”のではない。「私が区長に就任して早々に、子どもに関わる状況説明を受けた際、他都市と同様に、苦労の環境にある家庭や子どもが一定数おられることを知りました。家庭環境が厳しいが故に、子どもが学校に来れないとか、落ち着いて勉強できないとか、進路を決められないとか、子どもたちの人生が充実しない、豊かにならないといった事例です。最近一般的にも認知されてきたヤングケアラー (本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども) の問題などもそうですね。大阪市は、子どもの応援を社会全体で、という考えで『大阪市こどもサポートネット』という、区の行政、学校、地域や民間の企業など、皆さんとネットワークを組んで子どもを支援しよう、という仕組みを持っていますが、こういうスキームでは民間の皆さんの力やノウハウが重要で、民間が質量ともに充実していなければ、よいネットワークにはならないんですね。そんなこともあり、民間の部分をより充実させることには力を入れています。今回のプロポーザル方式による民間企業の募集もそんな発想からなんです」。飯塚と住之江、離れた場所で、しかも行政と民間が、「子どもたちの生き抜く力の育成」という、同じ社会課題を解決するという目的で協働する。この在り方こそが、SDGsが目指す姿だと言える。

  • 住之江区役所
  • 区役所ロビーに飾られた区民の皆さん手作りのオブジェ

 「子どもが、いろんな事情で自分の進路を決められないって問題に、特効薬はないの。『自分で自立して生きていく能力を育てる』というのも、一つのやり方でしかないですね。ある会社で一生懸命働いている方がいるとして、でも業績が悪くなったからって、突然『明日から来なくていいいよ』って言われたとするでしょ。でも、その方に労働基準法の知識があれば、それが違法だってわかるし、労働基準監督署に相談して、自分を守ることができるでしょう。もちろん解雇する側にも理由があるんだろうけれど、予期せぬリスクに備えるために、きちんと準備しておくと、いざって時でも生き抜く方法が見つかる可能性が高くなる。防災・減災と一緒よね、いつか自分の身に降りかかることに対応できる。子どもたちにとっては、今はわからなくても、それが将来、自分の武器になる。大人になって、ハっと気付いて、遠回りせずに生きていけるー そういう環境を提供したいと思います。いろんな事情で、不自由な思いをしている人を支援するときって『支援する側の論理』を押し付けちゃダメ。お年寄りの見守り活動でね、ケアする方が勝手に靴紐を結んじゃうと、その人はもう、自分で靴紐を結ばなくなる。かと言って『自分で結びなさい』って突き放すのも違う。どうやって自分で靴紐を結びたくなる環境を作るかが大事ですね」と末村さんは言う。

2021年8月に開催された「すみのえ未来塾」ワークショップの様子 (STAPO!! 提供)

 住之江区とSTAPO!! の協働は『すみのえ未来塾事業』でのさまざまな取組みとして始まっている。区内の小中学生が「起業家精神」や「起業家的資質・能力」を育むワークショップ等へ参加することで、自分の夢や目標を描き、未来に向かって挑戦する力を育む取り組みで、まさに、STAPO!! が目指すところに同じだ。「今年は初年度なので、まずは区内の2つの小学校の6年生を対象に授業でワークショップを実施したり、個人でも参加できるプログラムの実施を予定しています。こういう取組みが初めてなので、事前に『こんなことをやります』ってことを継続的にお知らせしていくのが大事ですね。コロナの状況もあるけれど、できるだけたくさんの生徒さんが『参加できてよかったね』って状態を作りたいです」と言う末村さん。大阪市の区長の任期は4年。末村区長は2020年4月の就任だ。「だから、民間の皆さんが大事なの。私の任期は4年ですが、民間の皆さんと住之江区政は継続してつながっててもらって、この事業でしっかりと大きな花を咲かせていただきたいと思っています。私が良い種を蒔ければね、いろんな人が育ててくれますよ」と語る姿が印象的だ。

起業家教育プログラム 大学生・社会人向け体験会@Garraway Fの様子 (STAPO!! 提供)

 STAPO!! のチャレンジは、今、まさに始まったばかり。企業としても、スタッフも、まだまだ若い。しかし、この不確実な時代にあって大きな意味を持つチャレンジでもある。澤田さんに、このチャレンジの、今、見えているゴールを訊ねてみた。「大きな意味で言えば、僕自身も、この会社を通じて日本を良くしたいって思っています。世界の時価総額ランキングTOP50を見ても、30年前はTOP10の半分以上が日本企業だったのに、今はトヨタ自動車さんしかランクインできない状態です。未来の社会を作る子どもたちは、これからもっと移り変わりの激しい中で生きていかなきゃならないし、想像できないことが起きる。日本の企業が、盛り返すのか、TOP100にも入れなくなるのか、それはわからないけれど、その時々に自分の能力や経験で、自由に選択できる状態を作ってあげたいんです。そうすると、生きることや働くことが“楽しい”って感じてもらえるんじゃないかって。今、子どもたちは、毎日疲れ果てて家に帰ってくる、つらい顔をした親の姿しか見ていない。そうじゃなくて、生きることや働くことが楽しいことなんだって伝えたいし、感じて欲しいんです。今、子どもたちにその体験をさせてあげれたら、将来の日本がもっと良くなると、そう思っています」。