SDGsなプロジェクト

九州の企業が取り組むSDGsプロジェクト

北九州市を定住人口100万人都市に! その夢を本気で追いかけるから、企業も人も街も変わる。

Last Update | 2022.03.25

大英産業株式会社

大英産業株式会社
住所 : 北九州市八幡西区下上津役4-1-36
TEL : 093-613-5500
https://www.daieisangyo.co.jp

  • すべての人に健康と福祉を
  • 質の高い教育をみんなに
  • ジェンダー平等を実現しよう
  • 安全な水とトイレを世界中に
  • エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
  • 働きがいも経済成長も
  • 人や国の不平等をなくそう
  • 住み続けられるまちづくりを
  • つくる責任つかう責任
  • 気候変動に具体的な対策を
  • 海の豊かさを守ろう
  • 陸の豊かさも守ろう
  • 平和と公正をすべての人に
  • パートナーシップで目標を達成しよう

人口減少と高齢化が進む北九州市の住宅事情

 北九州市が抱える社会課題の一つに人口減少と高齢化があることは、別の記事 (株式会社サンキュードラッグの取組み) で触れたとおりである。北九州市は、この5年間で全国で最も人口の減少数が多く、政令指定都市の中で最も高齢化率が高い。高齢化率が高いまま人口の減少が続くのは、若者が流出していることを意味している。
 北九州市建築都市局がまとめたデータ「北九州市の住宅事情」によると、2018年の住宅数は501,800戸で、そのうち空き家数は79,300戸 (15.8%) 。世帯数と住宅数は、ここ10年ほど横ばいが続く。また、65歳以上の高齢者のいる世帯は約18万世帯で、これは北九州市の一般世帯の約4割にあたる。高齢者のいる世帯は持家の割合が最も多く129,373世帯 (71.9%) 、「公営・都市機構・公社の借家」においては高齢者2人以下の世帯が多く (21,282世帯) その割合も高い (90.0%) 。北九州市の持家の割合 (55.4%) は政令市別で見ると20政令市中11位で、福岡市 (36.8%) とは大きく異なる。

  • 北九州市の住宅数の推移 (北九州市建築都市局)
  •  高齢者のいる世帯の住まい (北九州市建築都市局)

 今回ご紹介する大英産業株式会社 (以下、大英産業) は、北九州市八幡西区に本社を置く不動産会社。新築分譲マンションや新築一戸建住宅などの企画・販売を基軸に、おもに住宅供給の分野で北九州市の街づくりを意識した取組みを進めている。SDGsの推進にも積極的で、ホームページで公開しているSDGs宣言では「北九州を日本で一番住みよい街にし、定住人口100万人の復活を目指す」ことを掲げている。では、その夢の実現のために何を為すべきか? バックキャスティング思考で導き出されたチャレンジとは? 街づくりと密接な関係性を持つ不動産会社が目指す北九州市の未来像とは? そこには、民間企業が事業として街づくりに参画する意義と、自社の取組みに置き換えて考える際の大きなヒントがある。

大英産業株式会社 本社

あなたはこの社会をどう変革したいですか?

 「少し話が遡りますが、今から9年前、ちょうど今の40代のメンバーが役員になるタイミングの頃です。コンサルティング契約をしていた東京の企業の方から、こう訊かれたんです。『あなたはこの社会をどう変革したいですか? もしそれが答えられないなら、経営に参画することを止めてください 』って 」と振り返るのは、大英産業株式会社 専務取締役 一ノ瀬謙二さん。「正直、その時はきちんと答えられなかった。『いや、それは間違っていませんか? 会社をどう変革したいのか? じゃないんですか 』と聞き返したくらいです」。このエピソードは大英産業の本質をとてもわかりやすく表している。今の大英産業の姿勢からは想像もできないが、わずか9年前、彼らの関心事は“社会”のことよりも“自分の会社”のことだった。

大英産業株式会社 専務取締役 一ノ瀬謙二さん

 大英産業の経営理念は『元気な街、心豊かな暮らし』、それを実現するためのミッションは『ライフスタイルに合った良質な「すまい」を提供し、持続的に発展する「まち」をつくる』と定義され公表されている。「創業以来の経営理念で『住まいを通じて幸せをお届けする』というのがあったんですが、さっきお話した、僕を含めて40代のメンバーが役員になるタイミングで見直しをしました。当時は、もちろん理念として理解していたのですが、じゃあ、腑に落ちているか? と問われれば、あまり浸透していませんでした。今から自分たちが、この会社を成長させていくために、僕ら自身がきちんと納得できる目的を共有しよう、この会社がなんのために存在するのかをもう一度考えようって。結局、3年かけて今の経営理念を見出したんです。経営理念に記したことは、少し抽象的な言葉ですが、この言葉に込めた想いは深く、そして実感ができるものです」と語る一ノ瀬さん。
 「経営理念を新しく組み立て直すにあたり、私たちの信念は何か? 僕たちはこの会社をどう変革したいのか? これが最初の問いでした。僕らはピーター・ドラッカーのマネジメントの考え方も参考にしていて、それを読み解いた『なぜ、あのガムの包み紙は大きいのか 』という書籍を読んでとても感動したんですね。そこに書かれていたエピソードの一つで、サンタクロースの仕事は荷物を運ぶことではない。子どもたちを幸せにすることが目的なんだ。それを考えたら、雪の降る寒い冬の夜でも楽しく仕事ができるよねって。じゃあ、僕らは何のために仕事をしているんだろう? お金を稼ぐため? 市場で一番を取るため? なんか、違うよねって。その時に投げかけられたのが、さっきの『あなたはこの社会をどう変革したいですか? 』なんです。そう、会社をどうしたいか? ではなく社会をどうしたいのか? なんです」。

 「経営理念を組み上げる議論の中で、気が付いたことがあって、それは『なぜ、僕らは歴史的に発展してきたのか? 』ってことです」と一ノ瀬さんは続ける。大英産業は1968年創業、すでに半世紀の歴史を積み重ねている。「大きく3つのフェーズに分解して整理できました。第1期は創業時の53年前、北九州市の人口がめちゃくちゃ増えている時代です。その頃は、持ち家の普及、災害に強い家の普及が叫ばれていて、わが社は宅地の開発が主たる事業で発展してきました。第2期は、36年前。すでに郊外にどんどん宅地が造成されて山の上の方にも住宅が増えていて、その頃は逆に、駅前とか平地のもっと利便性のいい場所に住宅が欲しいというニーズが主流になっていました。その頃に、わが社はサンパークマンションの事業をスタートしているんですね。それが大きく当たった。社会ニーズにマッチしていたんです。それで、第3期が、まさに今で、新たな社会の変化に応えている最中です。北九州市の人口減少と高齢化が顕著になって、ライフスタイルも多様になって、従来の住宅のカタチでは対応できないケースが増えて、そこにどう応えていくのか? ってチャレンジを続けている。こうしてみると、わが社の歴史は、地域の社会課題やニーズに応えてきた歴史なんだって気付いたんです。そうであれば、今こそ、北九州市の社会課題に答えるのが僕らの使命だし、『私たちの信念は何か? 僕たちはこの会社をどう変革したいのか? 』っていう問いの答えなんじゃないかって 。そういう議論を重ねた結果、僕らのミッションを『ライフスタイルに合った良質な「すまい」を提供し、持続的に発展する「まち」をつくる』と定義できたんです」。そう語る一ノ瀬さんの言葉には、現代の企業が解決すべきことー つまり、社会における企業の存在意義とは何か? ひいては社会課題を解決しながら事業を継続するという、企業が取り組むSDGs推進の根幹と言えるテーマの、解決への大きなヒントが見え隠れするように思える。

SDGsを社内に浸透させていくために

 「SDGsとの出会いは3年半ほど前。役員会で初めて議題に挙がりました。最初は『これどういう意味? 』から始まって、少し読み込んでみると、言っていることはよくわかる。それは僕らが、すでに新しい経営理念を持っていたから。言葉には違和感があったけど内容には違和感がなかったー そんな印象でしたね。その1年後、社員のみんなに『SDGsって知ってる? 』っていう3分くらいの動画を作って共有しました」。すでに新しい経営理念が共有されていたから、社員の皆さんの理解度も早かったのでは? 「いや〜そうでもなかったんですよね。『役員たちが、また変なこと言い出した』って感じで」と一ノ瀬さんは笑う。

大英産業株式会社 人財開発部 広報課 西山 慶さん

 「SDGsを社内で共有するというか、経営理念を共有する過程の中でSDGsへの理解も深めていった感じです」と言うのは、広報を担当する人財開発部 広報課 西山 慶さん。「どこの企業でもそうかもしれませんが、やはり経営理念を社内に浸透させるのは簡単にはいかないですよね。わが社では、新しい経営理念を定義した後に入社した社員は、もともとその理念に共感してくれているので、理解も共感もあるから、わが社がなぜSDGsに取り組むのかもすんなり理解してくれています。それ以前からの社員には、むしろゆっくりと実感をともなうカタチで共感を深めてもらっています。たとえば多様な暮らし方に合った住宅を提供できて、それを喜んでいただいているお客さまの声を動画にして共有するとか、ミッションが達成された現場、しかも遠い将来ではなく“今まさに”現実として達成されているのを、社員みんなで共有して実感できる、ミッションと自分たちの仕事を意識的につなげる努力をしています。そうすると自分の仕事の意味がわかるし、一人ひとりの社員が主役であることを感じてもらえるように努めています」と西山さんは言う。
 経営理念やSDGsへの共感は、社内コミュニケーションだけでなく、やはり社外コミュニケーションにこそ“SDGsをうまく使いたい”というのが広報担当者の考えだ。「SDGsは、特に北九州では、いろいろな会社と共通言語にできるんです。今までお付き合いのなかった企業でも『ああ、あれをやるんだね』って共有できる。わが社は『SDGs宣言』の中で『定住人口100万人の復活を目指す』と掲げていて、それを本気でやろうとしています。そんなことは、もちろんわが社だけではできない。いろんな業種の方々や行政ともコラボレートとしないといけない。だから北九州の企業と繋がりたいし、その事実を社内にもフィードバックしたい。『なぜ、わが社でそんなことができたの? それはSDGsってことがあったんからなんです』。そういう情報発信を積極的に行なって拡げていきたいです 」。

価値観が変われば「すまい方」も変わる

 大英産業は、自社のミッションである『ライフスタイルに合った良質な「すまい」を提供し、持続的に発展する「まち」をつくる』を達成するために、解決すべき社会課題を3つ定義している。①価値観や家族形態の多様化 ②少子高齢化や人口減少 (空地・空き家) ③自然環境への負担増加 である。いずれも今日的なキーワードで、特にSDGs推進に積極的な企業では、同じように解決すべき課題に挙げているところも多いテーマだ。では、この3つの社会課題の解決に向けた、大英産業の具体的な取組みの現場を見てみよう。
 まず最初は ①価値観や家族形態の多様化への対策、具体的には「多様な住まい方の提供」の取組みである。「『ザ・サンパークシティ黒崎』というプロジェクトがありまして、これがウチの会社にとって一つの転換点だったと思います」と振り返るのはマンション事業本部 事業本部長 幸田良隆さん。「ザ・サンパークシティ黒崎」は2019年9月に竣工したマンションで、大英産業として初めて「多世代共生」をコンセプトにしたプロジェクトだ。「八幡西区役所がJR黒崎駅前に移転するので、その跡地をどうするかっていう北九州市の入札案件で、今から5年前くらいに立ち上がったプロジェクトですね。プロポーザル方式だったので、価格だけでなく『どんな土地活用をしたいのか? 』が問われた案件でした。僕らは、ちょうど『元気な街、心豊かな暮らし』という新しい経営理念を打ち出したばかりで、八幡西区に本社を構える会社ですし、地域の人たちに喜ばれる大きなプロジェクトを実現したいという思いがありました。それで、どういう街づくりにするのか? かなり深く議論したんですが『多世代共生』というコンセプトにたどり着きました。マンションを作るというより“街”を作るイメージ。具体的に言えば、全256戸で30数プランを用意したんです。1ルームからはじまって、1LDKから6LDKまで。普通に考えれば、3LDKとか4LDKのファミリータイプの部屋を、敷地の中で効率良く割り振っていけば、そういうプロジェクトは前例も多いので売り方も知っている。でも、それって僕らのやりたいことですか? それはただ戸数を売っているだけで、別に地域に貢献してるわけでもないし、元気な街をつくることとなんも関係ない。いろんなスタイルや価値観を持った256世帯の人を集めて、黒崎の街を盛り上げたいよねって。それをやりたくて、僕らはこの土地を買うんでしょって。それに新しい経営理念で走り出してて、企業としても、なんというか“ステージ”を上げたかった。ただマンション建てて戸数売っている企業じゃなく、僕らは街づくりをやるんだって。その想いだけで企画しました」。そう振り返る幸田さんは、おだやかな口調の端々に熱が込もる。

大英産業株式会社 マンション事業本部 幸田良隆さん

 価値観が多様化し「すまい方」も多様化した今日、その多様性に合わせて複数プランを提供するための全256戸 30数プランー 理屈としては正しいのかもしれないが、では果たして1ルームや1LDKのマンションが売れるのか? という疑問が出てくる。「たしかに、他社ではあまり見かけない売り方で不安もありました。ただ、実際は竣工半年前にほぼ完売という状況で、蓋を開けてみれば大成功でしたね。たとえばお一人住まいで家を買いたいニーズは確実にあって、でもこれまでは3LDKとか4LDKの選択肢しかなくて価格の面から中古物件を探すしかなかった。でも部屋数バッチリで新築で、しかも価格 (月々の支払い) が賃貸の家賃より安いとなれば、まさに『こんな物件を探していた! 』というお客さまにたくさんご購入いただきました。あと、いわゆるご夫婦とお子さんという典型的な構成のご家族が購入されて、その奥さまのお母さまが、北九州市外の町でお一人暮らしをされていたんですが、『2LDKがあるんだったらココでいいよね』って、娘夫婦と同じ敷地で、階数違い、タイプ違いの部屋を自分用にご購入されたんです。6LDKに二世帯住みではなく、同じ敷地の別の部屋で二世帯が近接して暮らせる、 『そんな暮らし方ができるんだ』って、僕らも想像してませんでした。これがまさに『多世代共生』なんだって、お客さまから教えていただきました」と幸田さんは語る。仮に1LDKなどのお部屋を購入した人で、ライフステージが変化して手狭になったら、全256戸もあるので敷地内で住み替えられる可能性もあるそうで、今後、この“街”がどのように成長していくのか、まだまだ可能性が拡がっている。

 「ザ・サンパークシティ黒崎」には、大英産業と他社との協業によって生まれた特徴がある。「サンキュードラッグさんと協業して、敷地内に医療機関を置くことができました。立地的にも、目の前にショッピングモールがあって、JR黒崎駅まで歩いていけることもあって、永住することを前提に購入された方が多いですね。また、居住者専用のゲストハウスとして宿泊できる共用スペースを設けていますが、これは九州工業大学の学生さんや教授と一緒に作り上げました。畳と木材をふんだんに使って『たたみプレイス』と名付けましたが、先日『ウッドデザイン賞2021』 [註1] を受賞しました 。他にも嬉しい話があって、実はこの校区の小学校は児童数が減って1学年1クラスしかなく廃校の可能性も出てたみたいなんです。でも『ザ・サンパークシティ黒崎』が竣工した翌年からは、1年生が2クラス作れたそうで、古くからこの地区に暮らす町内会の方々も『子どもたちが増えて活気が出てきたね』って喜んでいただいているそうです。あと、近くに焼き鳥屋さんがあって、元々は区役所の職員の方が通うお店だったんですが、区役所が移転してお客さんがめっきり減ってしまっていたところ、256世帯で約700人がドンと暮らし始めて、めっちゃお客さんが増えたらしいんですね。この前、そのお店に飲みに行ったとき嬉しそうに話してくれました。ココは、マンションを作るというより“街”を作るイメージで作ったプロジェクトですが、そんな話を聞くと『おお、僕らもちゃんと地域に貢献しとるやん』って体感できます。地域の活性化とか言うと大袈裟ですが、子どもたちが増えたとか近所のお店のお客さんが増えたとか、そういう身近な変化で自分たちの仕事の意味を感じられますね」と幸田さんは嬉しそうに教えてくれた。
 [註1] 一般社団法人 日本ウッドデザイン協会が主宰する、木の良さや価値を再発見させる製品や取組について、特に優れたものを消費者目線で評価し表彰する顕彰制度。

ザ・サンパークシティ黒崎 外観 (大英産業提供)
  • ザ・サンパークシティ黒崎の様子 (大英産業提供)
  • たたみプレイスの様子 (大英産業提供)
  • 「ウッドデザイン賞2021」賞状

持続可能な“にぎわい”を生み出すために

 続いてご紹介するのが、解決すべき社会課題 ②少子高齢化や人口減少 (空地・空き家) への取組み。舞台は八幡西区小嶺台エリア。「小嶺台は、およそ50年前に開発された戸建て住宅街で、近年では少子高齢化や人口減少により空き家が増えてきています。ついこの間、近所にあるスーパーマーケットが撤退して業務用スーパーになりました。つまり“一般向けのスーパーが持たなくなった”地区とも言えるのです。いわば北九州市の少子高齢化や人口減少の影響が典型的に表れている場所です」と語るのは街づくり事業本部 森山 聖さん。「大英産業の本社がすぐ近くにあって、実は前から気になっていた場所ではあったんですよ。大英産業では『持続的に発展する「まち」をつくる』というミッションがありますので、小嶺台の活性化になんとか挑戦したいよねって。そこで2020年秋頃から取り組み始めたのが、この『小嶺マーケット』のプロジェクトなんです」。
 簡単な仕組みはこうだ。運営の母体は任意団体の北九州未来づくりラボ。大英産業はもちろん、サンキュードラッグや西部ガス、福岡ひびき信用金庫などさまざまな企業や団体が知恵を集めて、北九州の未来をより良いものにするために活動をしている。大英産業は、その一員として、小嶺マーケットの土地・建物を購入し、マーケットの再生を起爆剤に小嶺台エリア全体の活性化を目指している。かつて小嶺マーケットには魚屋さんやお寿司屋さんなど8軒ほどの商店が軒を連ね、連日多くの人で賑わっていたそうだが、今は福永精肉店さん1店舗だけが、それでも真面目でていねいな営業を続けている。「僕らは、ここに昔のようなテナントを集めたいわけではないんです。今の社会の在り方に合わせて持続可能なもので、何かできることを模索している状態です。人が集まって、小嶺マーケットを居心地の良い空間にしたい。定住人口よりも交流人口を増やすイメージで、この取組みの成功の基準は、テナントを誘致して賃料を稼ぐことではなく『滞在時間×人数』がいいんじゃない? みたいな議論もしています。たとえば、ここに置いてある椅子とかソファも、このマーケットを居心地の良い空間にするために、小嶺台の全世帯にポスティングして『お宅にある椅子やソファを譲ってください』って、譲っていただいたものだったりします」と森山さんは言う。

大英産業株式会社 街づくり事業本部 森山 聖さん

 まだ始まったばかりの小嶺マーケットの取組みは「まずはマーケットの認知を広めたい (森山さん) 」そうで、その手始めとして行っているのが「月1小嶺マーケット」というイベントだ。「今はコロナ禍で、大々的に人を呼び込むのが難しいんですが、月1回、マーケットを開催しています。日用品から本や観葉植物、 お菓子やパン、キッシュまで、まずは北九州未来づくりラボのネットワークで出店者を集めて開催しています。もちろん広く出店者も募集しながら、お客さんだったり出店者だったり、小嶺マーケットに関わってくれる人を今後どんどん増やしていきます。そうして、ここを舞台にして、いろんな人が自由に使えるような、そんな空間にしたいなと思います」と、森山さんは小嶺マーケットの将来像を描く。
 ところで、小嶺マーケットは大英産業が土地・建物を購入している。将来的に賃料収入を得る可能性はあるが、今のところ基本的に収入はなく、費用がかかるだけ。「こういう地域の活性化は、不動産会社がやる方がわかりやすいんですが、でも儲からない、費用しか出ていかないんですよね (笑) 。ただ、大英産業は“北九州を良くしたい”って想いが会社全体にあるんです。仮に小嶺台で成功できれば、北九州市には同じ課題を抱えているエリアがたくさんあるので横展開できるし、街が元気になれば、住宅需要も増えるという副次的効果もあるー そこまで、社員みんなスっとイメージが共有できる。なので、満場一致で『よし、やろう』ってなったんです。出店者に使ってもらう屋台も、子会社の大英工務店の大工さんたちに、住宅の端材で作ってもらいました」と振り返る森山さん。経営理念とミッションが、体感と共感を持って社員一人ひとりと共有できている強さが、ここにも垣間見えて、あらためて大英産業の特長と本気度を実感させられる。

住宅端材を活用して作った空間
  • 観葉植物販売コーナーの様子
  • 住宅端材で作った出店用の屋台
  • 月1 小嶺マーケットのチラシ
  • 小嶺マーケットで営業を続ける福永精肉店
  • 小嶺マーケット 外観

儲けは出ません、でも持続可能なカタチにします

 最後にご紹介するのは、③自然環境への負担増加という課題解決の事例。環境負荷軽減は、多くの企業が取り組んでいるテーマだが、大英産業は地域との連携を主眼に“ならでは”の取組みを行なっている。その名も「北九州みらいキッズプロジェクト〜出張こども大工編」。「大英産業の建築現場で出る住宅端材のアップサイクルがまずは第一の目的で、端材を資源として再活用して工作キットを作ります。このキットを使って市内の幼稚園で工作体験イベントを行ないます。子どもたちには工作キットで、自分が座れる小さなイスとフォトフレームを作り、木材に触れて大工作業の楽しさを体験してもらいます。工作キットの制作では、地元の障害福祉施設 桑の実工房さんにお願いして、端材をツルツルに研磨して子どもたちが安全に使えるようにしてもらっています。幼稚園での工作体験には、子会社の大英工務店から棟梁クラスのベテラン大工さんが子どもたちの指導に来ていただいて、シニア大工の働きがい創出にもつながっています」と教えてくれたのは人財開発部 広報課 小野真理奈さん。「このスキームは、実は2020年の10月くらいに社内で議論が始まって、すぐにプロジェクト案件として社内調整をして、翌年3月には第1回の工作体験を開催していますので、かなりスムーズに進んだ案件ですね。元々、住宅建築の現場で出てしまう端材をなんとかしたいという取組みが社内で進んでいて、SDGsの理解も深まりつつあったし、なにより子どもたちが楽しめる施策なんで“反対する理由がないね”という感じでした」。他にも北九州市立大学 地域共生教育センター (通称 421lab.) の学生たちが、工作体験を行う時のボランティアスタッフとして参加しており、地域を巻き込んだプロジェクトになっている。

大英産業株式会社 人財開発部 広報課 小野真理奈さん

 非常にユニークな取組みだが、ポイントは“持続可能性”にある。「社内調整する際に『みらいキッズプロジェクトでは儲けは出ません。でも協賛金で運営できる持続可能な仕組みにします』とプレゼンしていまして、最初こそ会社で費用を負担してもらいましたが、今はトントンでやれています」と言う小野さん。「北九州市は、街全体がSDGs推進に力を注いでいて、SDGsに積極的な企業も数多くあります。協賛金を集めるにあたっては、このプロジェクトがSDGs推進の取組みであることを北九州SDGsクラブ [註2] のネットワークを通じてお知らせしたり、わが社のお取引先に直接ご案内するなどして、ご協賛いただけるパートナー企業を募集しました。趣旨にご賛同いただいたのはもちろん、SDGsを推進しているけれど周りに訴求できていないという悩みを抱えている企業からお申し込みをいただいたりしました。ポイントは協賛したメリットがきちんと感じられる仕組みにしたことですね。具体的には、プロジェクト専用のホームページや保護者向けのフライヤーをメディアとして機能させ、パートナー企業の広告を掲載し認知を高めるようにしています。特にホームページには、工作体験に参加した子どもたちのイキイキした表情を撮影し、その画像をたくさんアップロードして、保護者の方々に楽しみに見ていただけるようにしています。このホームページのコンテンツが充実することで、みらいキッズプロジェクトの認知が広がり、結果的に大英産業がSDGsに取り組んでいることのPRにもなっています」。
 こうしてみると、このプロジェクトからは学ぶべき点がたくさんある。SDGsを推進するときの5つの原則は、「普遍性」= 全世界で取り組むこと、「包摂性」= 誰一人取り残さないこと、「参画型」= 積極的に参加すること、「統合性」= 社会・環境を守りながら経済発展をすること、「透明性と説明責任」= 成果を確認しながら取り組むことだが、特にプロジェクト専用のホームページで情報発信することで「参画型」「透明性と説明責任」、なにより持続可能な“収益”を得て「統合性」も叶えている点は特筆すべきことだ。
[註2] 北九州市でSDGsに関する取組みを行う企業や団体のネットワーク組織。会員相互の情報交換や特定の取組み (プロジェクト) の参加者募集なども行う。

「北九州みらいキッズプロジェクト〜出張こども大工編」実施の様子

 SDGs推進が企業経営においてますます重要度を増している今日、「SDGsに興味はあるが、実際どうしたらいいのか? 」と悩まれている企業にとって、大英産業の取組み事例は、経営理念との整合性の取り方、社員への落とし込み方、具体的な取組みの組み立て方など、非常に参考になる事例ではないだろうか? 専務取締役の一ノ瀬さんはこう言う。「こんなに人口が減っている北九州で『定住人口100万人の復活を目指す』なんて、そんなバカなって思うでしょ。でもね、これ、僕らは本気で考えて掲げた目標なんです。だから本気で目指していますよ」。