SDGsなプロジェクト

九州の企業が取り組むSDGsプロジェクト

本業を最大限に活かし持続可能な活動をめざす。食品卸企業が運営するフードバンクが結ぶ地域のつながり。

Last Update | 2022.05.31

協和商工株式会社

協和商工株式会社
住所 : 長崎県佐世保市白岳町151
TEL : 0956-31-7100
http://www.kyowakk.co.jp

  • 飢餓をゼロに
  • すべての人に健康と福祉を
  • 質の高い教育をみんなに
  • つくる責任つかう責任
  • パートナーシップで目標を達成しよう

暮らしの中で実践する食品ロス削減

 いわゆる「食品ロス」問題は、私たち一般生活者の暮らしに身近に感じられる社会課題のひとつなので、国や自治体、企業はもちろん個人レベルでもさまざまな取組みが実践されている。農林水産省によれば、食品ロスとは「本来食べられるのに捨てられてしまう食品」を指す。食品ロスの量は年間570万トン (令和元年度推計値) で、日本人1人当たり年間で約45kg、毎日お茶碗1杯分のご飯を捨てているのに近いとされる。また食品ロスは、事業活動を伴って発生する事業系食品ロスと、各家庭から発生する家庭系食品ロスに分けられ、食品ロス削減のためには、家庭内だけでなく食品販売店や飲食店における行動も意識することが大切だと言われている。賞味期限の近い順番に購入する、食べきれる分量を注文して食べ残しを出さないなど、日々の暮らしの中で実践されている例は数多く挙げられる。

食品ロスの概況 (農林水産省HPより抜粋)

 西日本シティ銀行 (以下NCB) が、認定NPO法人チャイルドケアセンターの子育て支援事業に賛同し「フードドライブ活動」を開始したことは別の記事 (NCBのフードドライブ活動) で触れたとおりである。フードドライブ活動は、家庭などで使いきれない食材を集め、地域の福祉団体やフードバンクなどに持ち寄る活動のことで、食品ロス削減の取組みの一つ。また子ども食堂はここ数年で数が急増していて、2021年の時点で、全国で約6,000か所、昨年12月の調査より約1,050か所も増加しているが、多くはNPO法人やボランティア団体が主催するもので、活動を継続するには、地域や企業、自治体などの協力が不可欠と言える。
 今回ご紹介する協和商工株式会社 (以下 協和商工) は、長崎県佐世保市に本社を構える業務用食品卸企業。佐世保エリアはもとより長崎県域でも地場の食品卸としてはトップシェアを誇る。そんな食品ロス削減に取り組む最前線にいる企業が、2017年1月一般社団法人フードバンク協和を設立した。フードバンクとは、おもに企業や農家 (生産者) から、食べられるのに余ってしまう食品や食材を寄贈してもらい、食べ物を必要としている人のもとへ届ける活動および団体を指す。フードバンク協和が歩んできた道程を振り返ると、食品ロス削減の取組みはもちろん、地域の子どもたちをいかに育てていくか? そこに必要なことは何か? といった、子育てに関する地域課題解決への糸口が見えてくる。

協和商工株式会社 本社

食べられるのに棄てなきゃならない現実

 「フードバンク協和の設立は、食品ロスの問題を解決したいという想いからでした。わが社では年間500〜600万円の食材を、賞味期限や保管場所などさまざまな事情で廃棄していました。食品卸業の特性から廃棄をゼロにすることはできませんが、少なくしようと努力は続けていて、それでも年間で500〜600万円ですから」と語るのは一般社団法人フードバンク協和 代表理事 加城敬三さん。協和商工株式会社 専務取締役でもある。「僕らの仕事は、いわゆる食品卸と言って、病院や福祉施設などで患者さんの食事に使う食材だったり、学校給食の食材だったり、もちろんスーパーのお惣菜コーナー用とかホテルやレストランのメニュー用の食材とか、調理場でプロの調理人が使う食材をニーズに合わせて提供し、会社に在庫しお届けする仕事です。もちろん商品開発も手がけています。全国規模の大手メーカーさんが作る良いものありますが、僕らは地場の会社なんで、地元の一次産業 (農畜水産) 事業者の方々と協働で商品開発することも積極的に行なっています。僕らが食材を卸している得意先は約2,000社くらいあるんですが、飲食店やホテルに卸すのと、病院や学校給食に卸すのとでは、たとえ同じ原材料のものでも、味付けやカットの方法などは全然違います。価格や利便性だけでなく、そういった得意先の要望やニーズにどこまで細かく対応できるか? という点は僕らが大事にしている部分です」。

一般社団法人フードバンク協和 代表理事 加城敬三さん

 そこまで細かく対応していても食品ロスは生まれるのだろうか? 「大型の台風が接近してきました。学校が一斉に休校です。じゃあ給食用の食材はどうなりますか? ある飲食店で新メニューを出しましたが、想像よりも売れなかったので予定より早めにメニューをカット。じゃあ、あらかじめ確保していた食材は? 皆さんのご家庭の冷凍庫と一緒ですよ。いっぺんに全部使いきれない食材は冷凍して保管するでしょ。早めに使おうと思っていても、気がついたら冷凍庫の奥に追いやられてること、あるでしょ。それと同じです。スーパーのお惣菜コーナーで売ってる1個100円のコロッケ。コロッケには、ジャガイモを育てる人、土を洗って加工する人、肉は屠殺して部位に分ける人、パン粉を工場に持ってくる人、工場でコロッケを作る人、それぞれの分野で配送する人など、1つのコロッケにどれだけ大勢の人の手が携わっているのかってことなんです。それを捨てるってことが、その人たちの想いや労力を考えると『もったいない』と思うと同時に罪悪感を感じます。そこまで手がかかっていても、賞味期限や会社の諸事情でどうしても廃棄せざるを得ない。それは、もう長い間、僕らの悩みのタネでした」と加城さんは言う。

本業を最大限に活かせる社会貢献とは?

 「最初は子ども食堂を始めたかった」と言う加城さんだが「僕らの武器は食材です。本業を最大限に活かせる社会貢献は何か? と考えて、最終的にフードバンク協和を立ち上げることにしました」。
 では、本業を最大限に活かせるとは? 仕組みはこうだ。まずフードバンク協和を利用したい団体 (支援先) には、面談を行い同意書を取り交わし、フードバンク協和のコミュニティに参加してもらう。IDとパスワードが発行され専用WEBサイトにアクセスできるようになる。専用WEBサイトには利用できる食材一覧が随時更新されていて、支援先はオンラインで注文し、後日、引き取り指定日に自分たちで食材を取りに行くという仕組みだ。「実際に子ども食堂を運営されている方々にお話を聞いてみると、食材調達の悩みがわかってきました。まず、食材を保管する場所がない。子ども食堂を開催する場所は、多くは“その時に特別に貸してもらって”いるのがほとんどで、食材を常時保管できる場所がない。そもそも食材の確保が難しい。支援先にはいろいろな方々からお菓子などの食品の提供はありますが、子ども食堂で直接使える食材が少ない。でもウチには、ホテルやレストラン、学校などで使われる、まだ十分に食べられるのに動いていない食材がある。加えて、新商品や季節食品のサンプル品がいっぱい眠っているんですね。たとえば学校給食のゼリーがあるとします。いろいろなデザインや味、素材のゼリーが、僕らの仕入れ先 (食品メーカー) さんから売り込みがあります。その時にサンプル品を大量にいただくんですね。そのサンプル品を持って営業担当が得意先を回ります。ウチには営業担当が80人くらいいて、仮に営業先のお客さま10軒に配ると、それでもう800個になる。学校給食に採用されずに残ったゼリーは、まだ食べられる。じゃあどうするか? 僕らは、そんな“食べられるのに棄てきゃいけない”食材を『もったいない食材』と名付けて、フードバンク協和に渡し、本業の冷凍庫・冷蔵庫・常温庫で保管・温度管理して、専用WEBサイトに掲載して、子ども食堂や福祉施設の方々に取りに来ていただく。これなら本業である食品卸業の特性が最大限に活かせる。僕らが企業理念の一つに挙げている『地域社会への貢献 地域発展に貢献し、地域とともに成長します』にも叶う。そう考えて今の仕組みを作りました」。

フードバンク協和の仕組み (フードバンク協和のHPより抜粋)

 子ども食堂の数は増加傾向にあるが「フードバンクは全国に70〜80団体ありますが、これが増えていない。経済的に破綻するところも多いと聞いています」と加城さんは続ける。「食材の支援先に食材を取りに行って、在庫 (保管) して、子ども食堂などに配る。それを全部自前でやるから人件費とガソリン代がかかる。在庫するにも冷凍庫を準備しなきゃならない。さまざまな運営コストがかかり、全国のフードバンクは苦慮しています。この運営コストを下げて継続的に運営するために、協和商工が所有する設備や人材などを共有することで解決しようと考えました。フードバンクを立ち上げる時には、本業を活かすけれど社員になるべく負担をかけない仕組み作りを意識しました。たとえば支援先の皆さんが食材を取りにくる時間を、倉庫が忙しくない時間帯に限定させていただくとか。『フードバンクを始めたら仕事の手間が増えた』と社員からは絶対に言わせたくなかった、そこは細かく配慮しました。一方で、ウチには管理栄養士がいますので、支援先の皆さんに食材の使い方をアドバイスしたりして、モノだけではない関係性も作れたり。立ち上げて5年になりますが、ようやっと上手く回ってきたかなって実感はあります」と加城さんは笑う。

協和商工株式会社にある常温倉庫の様子
  • 協和商工の冷凍庫
  • フードバンク協和の配送車

毎日がんばっているママたちを応援したい

 立ち上げから5年、フードバンク協和を利用している支援先は約100件に広がっている。その中で一番最初に支援先として登録したのが「親子いこいの広場 もくもく」である。運営している一般社団法人 E-BA 代表の数山有里さんを訪ねた。「もともと私は保育士をしていて、子育て中のママたちと関わるようになって、子どもを指導するよりママを支援する方が自分には合っているんじゃないかって思えたんです。佐世保って自衛隊とか米軍とかの関係で、こっちに実家のないママがたくさんいて、孤独を感じているママに助けが必要なんじゃないかと。そんなママたちと子育てをシェアできる場所を作ろう、“毎日がんばっているママたちを応援したい”と始めたのが『親子いこいの広場 もくもく』なんです。当時は、子ども食堂やフードバンクと言うキーワードが世の中で言われ始めていて『それなら、私もできるかも』って準備を始めた頃に、ちょうど福岡市で『全国子ども食堂サミット』が開催されて、そこで初めて協和商工の加城さんや、大谷さん (認定NPO法人チャイルドケアセンター代表理事) と出会って。さあ子ども食堂を始めようって時に真っ先に協和商工さんを訪ねました (笑) 」と振り返る数山さん。

一般社団法人 E-BA 代表 数山有里さん

 孤独なママたちを応援すべく子ども食堂を始めた数山さんだが、現実は違った。「始めた頃は地区の公民館をまわって子ども食堂を開催していました。その頃は、子ども食堂 = 貧困対策っていう偏ったイメージが広がっていて、ある地域に開催の相談に行くと『ここで子ども食堂をされると (この地域に) 貧困の子がおると思われるからやめてくれ』とか『子ども食堂って貧困の子が来るとこやろ。そんなんココでは誰も来んよ』とか、予想外の反応をされることがありました。近くの小学校に案内に行っても『そんな怪しいところを子どもに案内できないからチラシは置けません』って言われたり。私は、そうじゃない子ども食堂をしたかった。子育て中のママが親子で安心して来られる場所を作りたかった。子ども食堂に対する予想外の反応を経験するにつれ、私たちには決まった拠点が必要だって痛感したんです。『私がいるからいつでもココにおいで』って言えるような場所が欲しい、それがまずは一番の願いでしたね。佐世保のとある教会からお声をかけていただき、ようやく拠点ができたのが5年前のことです。私たちはSNSを運用していますが、その中で『もくもく』に来た子どもたちの顔をあえて出しています。『もくもく』は貧困対策の場所じゃなくて、みんなが来たくて集まっている明るい雰囲気だって伝えたいからなんです」と数山さんは語る。

子どもそれぞれの事情を推し量れる関係性づくり

 「もちろんね、そういう子どもたちの中には経済的に困ってる子はいます。ある時、協和さんからいただいたおせち料理があって、『もくもく』でみんなで食べていたら『こんなの初めて食べたっ!!』って言う子がいて、それで (子どもに) 聞かなくても経済的に苦しいお家の状況はわかるじゃないですか。そういう子にはみんなとは別にこっそりと食材を渡したするんです。子どもたちが直接『キツい』って言わなくても、こちらがそれぞれの事情を推し量れるのが子ども食堂の特権なんです。あと、この2年間はコロナ禍で状況が変わってしまって、学校が休校になって子どもたちの居場所がなくなって、ママも仕事が減ったりしてほんとに食費が大変な状況に置かれているママたちがたくさんいます。『手元にお金が無いのに、食べてもいない給食費を払わなきゃならない』って、ママたちが私たちに弱音を吐いてくれる。コロナ禍でみんな家に籠って溜め込んでいるときに、私たちはママたちと一緒に弱音を吐き合える、そんな関係性が作れていてよかったなとあらためて痛感しました」。

「親子いこいの広場 もくもく」の様子 (写真はすべて公式SNSから抜粋)

 「親子いこいの広場 もくもく」は子ども食堂だけを開催しているわけでない。食を中心に置いた「もくもく食堂」や、おしゃべりや手仕事を中心に置いた「もくもくの輪」など、親子でも子どもだけでも、さらにはこの取組みに共感する人たちが自由に参加しているそうだ。「ママがニコニコなら子どもも笑顔になるって言うのが私の持論。まずはママを笑顔にしよう、そうすると子どもも元気になるんです。だから『もくもく食堂』には子どもだけも来ますが、親子も来ています。地域の高齢者の方というよりママたちが集まる。それに地域に特化していないので、わざわざ車で30分かけて来るのも当たり前。子どもは『他人の前だとママに叱られない』って知ってるから (笑)『 もくもく』に来るとのびのびしてますよ。子どもの方から『もくもくに行きたい』って言ってくれる。ママは子育ての悩みとか、女性特有の悩みとか、旦那さんの愚痴を言い合えたり、仲間!? …と言うより家族に近いかもしれませんね」。

ママの支援て言ってますが、実は私の支援なんです

 数山さんの話は続く。「やっぱり食べ物の持つ意味は大きいんです。みんなが“おいしいね”っていう共通言語があることは大きな意味があるんです。佐世保は、こっちに実家がない人が多いから地元の料理を知ってもらうきっかけにもなります。一緒にごはんを食べて『こういう味付けなんですねぇ』とか。おでん一つとっても全然違うじゃないですか。『ハンペンって入れないの? 』『こっちじゃ入れないよ〜』。それで突破口が開けて『佐世保に来たばっかりなんですよぉ』『じゃあこんな施設あるよ〜』とか『今度一緒にランチ言ってみない? 』とか、そこからママたちの人間関係が生まれてくる。食は共通項になりやすいんです」と数山さんは楽しそうに教えてくれた。子ども食堂を“食べられない子どもに食事を与える場所”というように、貧困対策として捉えることがいかに狭義な見方なのかを、とてもわかりやすく表している現場のエピソードではないだろうか。

 「私たちは、自分たちの活動を、ママや子どもたちの“居場所づくり”って説明していますが、居場所づくりって、本当はこっちが言うもんじゃなくて、相手が感じるものなんです」と数山さんは続ける。「相手が『ここが私の居場所だ』って感じてくれるところが居場所。そこには (自分が) 共感できる人がいるってことがすごく大切でなんです。ママたちに悩みがあって『このコ食べないんですよ』とか『おむつはこれがいいよ』とか『幼稚園、ここがいいよ』とか、そういうのを気軽に言える場所。実は、私自身がそれを求めていたんです。私も3人の子育てをしてて、ちっちゃい子はまだ3歳。家にいると“ウゥゥーってなる”ときもあるけれど、『もくもく』に来ると私も解放される、子どもたちも解放される。ママの支援て言ってますが、実は私の支援なんですよね (笑)。そうしないとボランティアは続かない。自分にとって『もくもく』が必要だと感じているから、ここまで続けてこられていて、その想いに共感してくれる人たちが来てくれてボランティアにも入ってくれている。今日だって『もくもく』は開けていますが、私が「じゃあ取材に行ってくるね」て出かけても、みんなが『じゃあこのコたち見とくね』って送り出してくれています。みんなが『もくもく』を自分ごとにしてくれて、みんなが“自分の居場所”って思ってくれて、だから私がいなくても『もくもく』は動くんです。私は『もくもく』を、みんなが好きなことをやる場所にしたいんです」。数山さんの想いは、尽きることがない。

負の連鎖を断ち切る 食のリテラシー教育

 フードバンク協和のネットワークには、「親子いこいの広場 もくもく」などの子ども食堂に加え、さまざまな福祉施設が数多く登録している。その中の一つ「児童擁護施設 清風園」にお邪魔してお話を聞かせていただいた。社会福祉法人 清風園が運営する児童養護施設で、同法人では「養護老人ホーム清風園」や「保育所海光園」も隣接して運営している。児童擁護施設とは、さまざまな事情で親と一緒に暮らすことができない子どもを預かり、自立のためのさまざまな援助を“家庭に代わって”行う施設である。「現在、当園には約40名の子どもたちがいて、県内では中規模の児童擁護施設かと思います。ウチにくる子どもたちの数は近年ほぼ横ばいですが、少子高齢化で子どもの数が減っていることを考えると、どうなのかなとは思います」と言うのは社会福祉法人 清風園 理事長 川添 聡さん。「私たちは、もともと園内で提供する食事の食材を協和商工さんから購入しています。冷凍食品や調味料の種類が多いこともあって、私どものお取引業者さんの中でもシェアが大きいです。急なお願いなど、かなり臨機応変にご対応いただいたり、食材の企画提案なども多いので大変助かっています。そこに加えてフードバンクの取組みを始められるということでご案内をいただき、支援先としても登録をさせていただいています」。

社会福祉法人 清風園 理事長 川添 聡さん

 「私たちのような児童養護施設で“食”の持つ意味は大きいんです」と川添さんは続ける。「ウチに来る子どもたちは、家庭にいるときにお腹いっぱいに食べれなかったり、インスタント食品とかコンビニのご飯が中心だったりして食事のバランスが悪い子どもが少なくないんですね。『お腹が空いているから施設に入りたい』と直談判して入所する子もいます。実際の同じ年の子に比べて背が低いとか身体的な影響が出ているケースもあります。あと大事なのは、食の知識が足りないというか、その子が成長して将来は親になっていく中で、食のリテラシーが低いと“負の連鎖”的なものが生まれる可能性もあります。私たちは、それを止めたい。子どもの頃に、食べ物について学んだり覚えたりすることは重要です。たとえば『お腹がすいたから家に帰ろう』とか『今日の晩ごはんのメニューは僕が好きなハンバーグだ』とか、食べることが“家に帰りたくなる理由”になる場面は多いんですね。ここは子どもたちの生活の場ですから、子どもたちが“帰りたくなる場所”でなければなりません。また、食べ方のマナーなんかも、子どもの頃に教えられることですし、よく言われる『いただきます』と『ごちそうさま』の意味なんかも、子どもの頃に学んで身につけねばなりません。自分以外の誰かのおかげで食事ができること、そのことへの感謝の気持ちとかも大事ですね。学校は教育の場ですが、生活の中から学ぶこと、それを体験することを大事にしながら日々やっています」。

社会福祉法人 清風園 栄養士 本多優衣さん

 そのような、食を通じた学びのために重要な役割を果たすのが、 清風園で管理栄養士として働く本多優衣さん。「管理栄養士になって3年になりますが、大学を卒業して新卒で清風園に入りました。毎日3食、子どもたちの食事のメニューを考えたり、調理場の皆さんと協力しながら、子どもたちにより良い食事環境を提供できるよう頑張っています。私は管理栄養士なので、子どもの生活の場面に直接入ることはあまりないのですが、それでも『今日の○○がおいしかったからまた作ってね』とか『今度は○○が食べたい』って言ってもらえるような関係性を作れるように意識しています。普段は、予算とか時間の関係もあって、すごく手間のかかるごはんは用意できなかったりもしますが、行事食 (ひなまつりとか子どもの日とかのイベント時のごはん) とか運動会のお弁当とかは、いつもより力が入りますね。普段のオムライスは巻くのが大変なんですが「子どもの日」は特別に全部きちんと巻いてこいのぼりの型にしてみるとか、あとフードバンクさんからいただくデザートなんかも、行事食の時は助かります。ごはんを食べた後じゃないとデザートは食べられないので、そこは教育というか、そうみんなで決めているんですが、そんなときに限って、おかずが魚だったりして  (笑) 。骨が気になるから食べるのに時間がかかってしまうんですが、デザートがある日はいつもより食べ終わるの早かったり (笑) 。あと誕生日のときは、誕生日ケーキを手作りします。スポンジを焼いて、クリームがいい? チョコレートがいい? とか子ども本人にリクエストを聞いて、そのコのためだけにケーキを作ります。ケーキをもらったコは、男の子どうし、女の子どうし、みんなで分けて食べたりしてますね」と本多さんは楽しそうに教えてくれた。

  • 清風園の子どもたちから贈られた感謝の手紙
  • 清風園秘伝 !?のオリジナル手書きレシピ

 本多さんに一番うれしいことを尋ねてみると「やっぱり、子どもたちから『今日のごはんおいしかったよ〜』って言われること」と返ってくる。「子どもたちから好きなものを教えてくれたり、もう一回出してとかお願いされたり、そういう関係性を作るのがやっぱり大事なんです。卒園した子どもたちが遊びに来てくれることも多くて、その時に『あれはどうやって作るの? 』とか相談してくれたりとかもあるんですよ。私たちは、卒園する子どもたちに清風園オリジナルのレシピ集をプレゼントしてるんです。卒園して自分で料理をする時に困らないように、8年くらい前に作った手書きのレシピをベースに毎年メニューを増やしながらファイルしているんですが、それを全部コピーして渡しています。あと卒園が決まった子どもには、自立支援の一環で園内で調理実習もしています。それこそお買い物から一緒に行って、子どもたちが作ったごはんを職員さんに食べてもらいます。そうすると、これまで自分が食べてきたもののありがたみを実感できるみたいです」と、ここでも川添理事長が教えてくれた“食のリテラシー”に関する取組みが見えてくる。
 川添さんはこんな話も聞かせてくれた。「ウチに来た子どもには、『あいさつ』と『感謝する気持ち』が自然に表現できるようになることを大事にして育てています。食に関して言えば、食事を作ってくれる調理の人たちへの感謝、メニューを考えている管理栄養士への感謝、フードバンクのように食材を集めていただいたことへの感謝。ここの子どもたちは、その感謝の気持ちを言葉で表すか、書くしか表現できないんですね。だから、支援をいただい皆さんにはお礼状を書いて、子どもの気持ちを伝えるようにしています。あとは、池田さん (フードバンク協和 事務局長) は、多いときだと週に2回くらいダンボール箱にお菓子や調味料とかを詰めて持ってきてくれるんですが、もう、僕らにとってはほぼサンタクロースですね (笑) 。いつもは職員がありがたく頂戴するんですが、タイミングがあえば、あえて子どもたちに受け取ってもらいます。自分たちが食べているものを、わざわざ持ってきてくださる方がいることを実感してもらう機会にもなっています」。

児童養護施設 清風園

システムだけでは続かない。人が作って人が支えている。

 最後に、川添理事長をして“ほぼサンタクロース”と言わしめる、フードバンク協和 事務局長 池田福吉さんのお話を。フードバンク協和の仕組みは、登録した支援先が専用のWEBサイトを通じて食材を注文し引き取りに行くスタイルが基本だが、それとは別にフードバンク協和が独自に食材を届ける「サプライズ」というスタイルがある。
 代表理事の加城さんは「僕らは“支援している / 支援されている”というような関係ではありません。事情があって困っている子どもたちを支えたいという想いは同じなので“仲間”なんです。もしWEBシステムを通じた食材のやりとりだけの関係ならば、それは点でしかなくて、支援者の方が必要な時だけ“利用される”受け身な存在にしかなりません。そうではなくて、こちらから『どうですか? 』って食材を持っていく。その中でいろいろなお話を聞かせていただいて、どんなことに困っているかとか、どんな子どもたちが利用しているのかとか。『ひな祭り用のゼリーが残ったので』とか『給食で使う予定の節分の福豆が残ったので、どうですか? 』って、サプライズで持って行くと人と人のつながりが自然とできる。そうやってお互いがお互いのことを知ることで“仲間”になってきたんです。秋になって新米が出回り始めると、米農家さんからは古米がたくさん持ち込まれます。お米はどの支援先にとっても必要な食材なので、WEBサイトに公開するとすぐなくなります。それを、あえて一部を公開しないで、ご飯をたくさん食べる育ち盛りの子どもがたくさんいる施設に“サプライズ”として持っていく。それは支援先の事情がわかっているからできることです。そんな動きをしているのが事務局長の池田をはじめとする事務局のメンバーです」と語る。
 「親子いこいの広場 もくもく」の数山さんは「 (福岡の) 大谷さんから言われるんです『長崎はみんな仲が良いね』って。それって多分、池田さんなんですよ。池田さんのキャラクターがみんなをつないでいるんです。WEBでお願いしたものを取りに行くでしょ。そしたら池田さんがいて、もうね綺麗に仕分けしてもらっていて『はい、数山さんとこコレね」って渡してくれる。別の日には電話がかかってきて『○○がいっぱいあってね。もう用意したけん取りにおいでー』って。ウチだけじゃなくてみんなにそうだから、池田さんのことはみんな知ってるし、池田さんでみんながつながるんです」とも教えてくれる。

一般社団法人フードバンク協和 事務局長 池田福吉さん

 そんな池田さんは、協和商工のOBで、かつては営業所の所長も務めた方。「 (会社を) 卒業して、このような大事な役割をいただいたことに誇りと責任感を感じています。フードバンク協和の事務局を預かって、支援先にいろいろなお話を聞かせていただいて、それが自分の人生の中での宝物というか、大変得るもが大きいなと感じています。私たちも5年経って、少しづつ知名度も出てきましたが、支援先に初めて行った時は、そもそも信頼関係がないところから『食材を寄付したいんです』って言っても『ハイそうですか』とはならなかったです。なぜウチにって? 食材を受けてくださる方も気が引けます、それで直接ご説明して、納得していただいて、そこからコミュニケーションが増えて、お互いのことがわかってって、そんな5年間でした」と池田さんは振り返る。
 「僕らはWEBを使ったフードバンクのシステムを作りましたが、システムだけでは動かない。結局は“人”なんです。人が作って人が支える。だから、5年続けられましたし、その後の10年、20年と続けていける手応えを感じています」と語る加城さんの言葉が印象的だ。

取材にご同行いただいた池田さんは、“ついでに”ダンボール箱を持参してサプライズ!!