SDGsなプロジェクト

九州の企業が取り組むSDGsプロジェクト

地域貢献は地域からいただいたことへのご恩返し。だから資源循環型ビジネスのビジョンが描けた。

Last Update | 2023.04.27

野坂建設株式会社

野坂建設株式会社
住所 : 福岡県北九州市若松区高須東3-6-9
TEL : 093-701-5216
https://nosakakensetsu.co.jp

  • すべての人に健康と福祉を
  • 質の高い教育をみんなに
  • ジェンダー平等を実現しよう
  • エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
  • 働きがいも経済成長も
  • 人や国の不平等をなくそう
  • 住み続けられるまちづくりを
  • つくる責任つかう責任
  • 気候変動に具体的な対策を
  • パートナーシップで目標を達成しよう

企業の社会貢献活動は経営理念実現の施策のひとつ

 一般社団法人日本経済団体連合会が2020年9月に公開した「社会貢献活動に関するアンケート調査結果」によると、社会貢献活動の役割や意義については、回答企業の9割以上が「企業の社会的責任の一環」と回答し、8割以上が「経営理念やビジョンの実現の一環」と回答しており、社会貢献活動を経営戦略の一部として捉える傾向が顕著にあらわれている。一方で、具体的な活動内容については、回答企業の93%が「寄付等の資金的支援」のような従来から代表的とされる社会貢献活動を実施するに止まっているものの、21%が「事業化に向けた実証的なプログラムの実施」に着手しており、具体的な事業戦略として社会貢献に取り組む企業も増えている。

社会貢献活動の役割や意義に ついて / 「社会貢献活動に関するアンケート調査結果」 (経団連) より

 今回ご紹介する野坂建設株式会社 (以下、野坂建設) は、1971年創業の、いわゆる“50年企業”の仲間入りをした企業で、住宅を中心とした建設事業 (夢空間) の他に、環境事業 (ゆめ環境)、地域事業 (農業) の3つの柱で事業を展開している。その中で今回注目するのが2017年から公表し始めた「CSRレポート」である。定期的に内容がアップデートされているのはもちろん、おそらくこの事業規模で、ここまで人とお金を投資して作成されているCSRレポートは稀である。次々と事業の外部環境が激変する中、野坂建設が何を意図してCSRレポートを作成・公表し続けているのか? その意図とそれに伴う内部環境の変化、CSR活動に対する捉え方など、大いに参考になるところがあるのではないだろうか。

野坂建設株式会社 本社

事業の根幹にあるのは地域への恩返し

 「弊社は1971年に、私の祖父が興した会社で、おかげさまで一昨年に50周年を迎えました。元々は公共建設工事や建設事業といった社会インフラの下請けから始まった会社で、現在では住宅建設事業、環境事業、地域事業の3本柱の事業を展開しています」と語るのは野坂建設株式会社 代表取締役社長 野坂輝和さん。「祖父は富山の生まれで、この地域には縁もゆかりもない人でした。ただ、遠賀川の流れを中心に歴史を刻んできたこの地域で、父、そして私の三代にわたって事業をさせていただき、お世話になってきた歴史があります。いわゆる“他所者”を受け入れていただき、事業の支援までいただいてきたことを思えば、ただただ感謝しかありません。その経緯があるので、弊社の事業の根幹には“地域へのご恩返し”という気持ちがあります」と語る。

野坂建設株式会社 代表取締役社長 野坂輝和さん

 「企業経営の視点から言えば、弊社の中核事業は環境事業です。いわゆる産業廃棄物の中間処理事業ですが、こちらは父が興した事業で2002年に『ゆめ環境』というブランドで始めました。その事業を基盤として2014年に住宅事業部を『夢空間』というブランドで始めました。今後は住宅事業部を成長させて地域の資源を“住宅”という価値に変えて、地域の皆さまにお返しできたらと考えています」と言う野坂さん。「夢空間は、地域密着型の工務店として、ひと言で言えば“次の世代に残る建物を建てたい”という想いがあります。その家で暮らすお客さまの暮らしが次世代まで続くようにと考えた時に、地域の特性、つまり気候、災害、風向き、日照を視野に入れた設計だったり、災害に負けない家づくりだったり、地域の環境に合わせて風や光などの自然の恵みを活かしたランニングコスト (光熱費やメンテナンス) の負担が少ない家づくりだったり、そうなると自然と無垢材での家づくりが当たり前になったり、そういうこだわりがお客さまと地域に新しい価値を生み出せる、そんな住宅を提案し続けていきたいと考えています」。

資源循環における動脈と静脈

 野坂さんの話は続く。「弊社のように動脈と静脈の2つの事業を一緒に展開していることにはメリットがあると感じています。いわゆる資源循環型ビジネスを進めていく際に、動脈経済と静脈経済と言う2つの流れがあります。動脈経済は生産・消費する経済活動、静脈経済は資源の再利用化に関する経済活動です。この動脈経済と静脈経済がうまく連携することで円滑な資源循環が行われると言われています。弊社の場合は『夢空間』が動脈、『ゆめ環境』が静脈にあたります。この2つはまったく正反対の特性があって、『夢空間』は事業の立ち上げの際の初期投資は小さく逆にランニングコストが大きい。資金の回収には時間がかかり、競合する企業も数が多い。一方『ゆめ環境』は初期投資が設備投資が大きくてランニングコストは小さく、資金の回収は短期間で、参入障壁が高いので競合は少ないということです。経営者の視点から言えば、数字の面でお互いが補完しあっている状況でもあり、だからこそ『ゆめ環境』を基盤にしながら『夢空間』を育てることができる構造です」。

 「特にここ数年で、世の中における静脈産業のイメージと言うか、捉え方が大きく変化しているのを肌で感じています。産業廃棄物の中間処理業では、今の経営者は私と同じように二代目とか三代目という方が多いのですが、祖父や父親の世代は差別的な扱いを受けてきた歴史があります。それこそご挨拶に伺っても『なんだ、ゴミ屋か…』みたいな言われ方をされるのも稀ではなかった。だからこそ、実は、この業界では地域の皆さまとの関係づくりというか地域社会への貢献には数十年前から取り組んでいて、地元の小学校で環境に関する出前授業なんかも積極的に行ってきた経緯もあります。さらにここに来て、SDGsもそうですが環境に関する課題意識が、企業だけでなく一般のお客さまの中でも高まりを見せていて、産業廃棄物の中間処理事業者が担うべき責任というか、責任だけではなくより積極的に施策を実施して、その事業の質も社員の質も高めていかねばならないと感じています。少し前に、弊社の住宅事業の若手社員に『環境事業と切り離して住宅営業した方がやりやすくないだろうか? 』と尋ねたことがあって、すると『いや、それは逆ですよ。産業廃棄物の処理をやっているからこそ、僕たちの住宅の良さとか考え方に説得力が増していますので、そこは (弊社の) 大きな差別化ポイントです』と返ってきたほどですから」。

CSR活動は、地域や先人たちへの恩返し

 CSRは1990年代後半から広まった概念で「企業の社会的責任」と言われるように、事業の継続性を高め企業のサステナビリティを維持するための、コストをかけてでも“やらねばならない”事柄というイメージを持って拡がっていった。そこから20数年、野坂さんと話をしていると、その意味が大きく変わってきているのを感じる。「弊社がCSR活動に本格的に取り組むにあたり、いわゆる地域貢献って何だろうと考えました。企業の経営者からすれば、企業の地域貢献は“納税と雇用”なんですね。事業で得た利益を税金として地域に還元し、地域の雇用を生み出すことで活性化につなげるという、それに集約されます。それだけではなくて、お客さまや地域の皆さまと、弊社はどんな関係性を築きたいのか? そう考えていくと、弊社にとってのCSR活動は地域からいただいているものに対するご恩返しなんだという考えに至りました。先程の話ではありませんが、親子三代、50年以上もこの地域で商売をさせていただき育てていただいたことへの感謝、もうそれに尽きるなと。加えて、少し広い視点で見てみると、こうやって毎日、安心して暮らせたり、安全な水が当たり前に手に入り、清潔な街の環境の中で子育てできたり、季節ごとの景色や食の移り変わり、伝統的に受け継がれてきた文化とか、私たちの身の回りには先人たちの恩恵が溢れています。それが決して当たり前に在るものではないことへの感謝と恩返しも含まれるわけです。それらの事柄にきちんと感謝しご恩返しすること、それを事業を通じて行うことで、その価値の継承だったり新しい価値の創造だったり、そういうことが弊社のCSR活動の根幹になることだと考えたんです。先程の動脈 (経済) ・静脈 (経済) の話ではありませんが、いただいた恩恵に感謝してご恩返しをする“循環型”の取組みこそが、弊社のCSR活動ではないか。そのことから弊社の事業コンセプトを『このまちのくらしを もっとやさしく、うつくしく。』とCSRレポートに記載しています」。野坂さんの語る、CSRは“地域へのご恩返し”という考え方は、特に地域密着型の事業を展開している企業にとって、大きな示唆を含んでいるように思える。

建築用廃材をアップサイクルして作る雑貨ブランド「otto.」を立ち上げたのも野坂建設のCSR活動のひとつ

CSRレポートを支える社員教育の重要性

 続いて、野坂建設のCSR活動をまとめたCSRレポートについて見てみよう。 CSRレポート制作を担当する野坂建設株式会社 未来デザイン室 取締役室長 渡邊美穂子さんにお話を伺う。「2017年に初めてのCSRレポートを発行しましたが、その制作を始めるまでは、CSRについて勉強したことはありませんでした。それまでは (CSRレポートができる前は) 簡単な会社案内を業者の方に頼んで作っていた程度で、社内にノウハウもありませんでしたので、制作に関しては外部のコンサルと一緒に二人三脚で作ってきました。ただ中身については、ゼロから社内で勉強会を立ち上げ、それこそ基本的な企業の理念と経営の関係性から学んだり、弊社の経営理念を社員に浸透させる勉強会を何度も開催したりして、いわゆる日常の業務とはちょっと視点を変えて、自分たちの仕事の意味とか役割とか仕事に向き合う姿勢とか、そういう部分をブラッシュアップしながら、その過程で得られたことをレポートに反映したりといった地道な積み重ねが弊社のCSRレポートの基盤になっています」と渡邊さんは語る。

野坂建設株式会社 未来デザイン室 取締役室長 渡邊美穂子さん

 「CSRレポートを本格的に制作した目的はブランディングです。同業の企業で弊社がお手本としている企業があって、そこで (CSRレポートを作ってみないかと) ご提案を受けたというのもありますが、環境事業『ゆめ環境』で2013年に『エコアクション21』の認証を得た [註1] ことも、弊社のブランディングに役立つし認知度を高める良い機会だと感じたからです。社内に向けては、先ほどもお話した通り、社内での勉強会を通じて、自分自身の仕事の意味や意義を考える良い学びの機会になりました。弊社はおかげさまで社員教育にすごく費用をかけてくださるので、CSRレポート制作を通じて、CSRやSDGsの根本である経営理念を自分事にできる社員育成ができていると思います。今は、会社案内は廃止してCSRレポート一本にしています。弊社のWEBサイトにリンクを張っていますので、どなたでも全ページをご覧にいただけます。最近では、特に学生向けのリクルーティング・ツールとしても活用できると考えていて、弊社が何を考え何を目指しているのか、そのためにどんな事業を展開しているのか、この1冊に網羅されていますので、弊社の特徴を一番わかりやすく発信できる媒体になっていると思います。もちろん営業ツールとしても活用していますので、それこそ弊社の営業担当が『この写真だけは使ってください』と言って自分が写っている写真を持ってくるんですね。お客さまに対して、自分が頑張っている取組みについて知っていただきたいし知らせたいという想いがあるんですね」。
[註1] 環境省が策定した環境マネジメントシステムに関する第三者認証・登録制度。組織や事業者等が環境へ配慮した取組みを主体的・積極的に行なうための方法を定めたもので、中小企業であっても環境経営の仕組みが構築でき、運用できる。

応接室の壁に掲げられた野坂建設のCSRビジョン

 野坂建設のCSRレポートには自社の事業を1枚のイラストにまとめたコンセプトシートが掲載されている。これがとてもわかりやすく、企業としての意思が明確に表示されている。住宅建設事業、環境事業、農業事業の3つの事業が、お互いに連携しあって資源循環型の街を形成している。3つの事業それぞれにフォーカスしていたのでは見えてこないが、少し俯瞰した時に野坂建設が地域のプラットフォームになることを目指していることが見えてくる。「これ、実は元ネタがあって、CSR活動を始める数年前に、弊社で『きっとつながるプロジェクト』と言って、野坂建設の将来像とか夢を社員間で出し合い共有する取組みをしていて、その時にこのベースとなる考え方が出てきていたんです。山の保全をするためにきちんと間伐を行い、そこで出た間伐材を燃料にして発電し、エネルギーを街に供給する ーそんな事業を野坂建設が実施すると言うアイデアなんですが、その時点で弊社の事業を街づくりに生かすと言う資源循環型事業のイメージが社員の中にあったので、今回CSRレポートを作るにあたり、野坂建設の事業ビジョンを、社員の中から生まれたこのイラストに集約できました。だから弊社の事業コンセプトを『このまちのくらしを もっとやさしく、うつくしく。』という言葉で表現できたのだと思います」と言う渡邊さん。いかがだろうか? 中期経営計画だったり会社概要だったり、自社のビジョンをステークホルダーの皆さまと共有する際、これほど説得力を持ったコミュニケーションができているだろうか? 借り物の言葉ではなく自分たちの内側から生まれでた言葉は、やはり強い。

「一生働きたい」と思える工場を目指して

 では最後に、野坂建設が資源循環型ビジネス企業であることを象徴する、事業3本柱のうちから環境事業「ゆめ環境」の現場に伺った。ご対応いただいたのは野坂建設株式会社 環境事業部 取締役部長 廣戸大樹さん。「弊社は産業廃棄物の中間処理業者として、特に木質に限定して受け入れて、それを木質バイオマス発電の燃料として出荷したり、地域の農家さん向けの堆肥用のチップとして出荷しています。木質というのは、解体材、廃材、伐採時の樹木、河川敷の草などになります。弊社のように木質に特化した中間処理を事業化できている企業は、あまり多くはないのではないでしょうか? 木質に特化して事業を続けられているのは、木質バイオマス燃料の受け入れ、加工、運搬まで一環して自社で対応できることが大きいと思います。先日、ようやく、最後の運搬の部分についても、それまでは外注していたのですが、自社トラックで対応できるようになり、大きな経費削減に繋がっています。木質バイオマスの燃料は山口県の企業を主な取引先としていますで、輸送コストが費用として大きな割合をしめていましたので、よかったなと感じています。木質の受け入れについては、もちろん民間からの受け入れも行なっていますが、地域の広域エリアで中間市、遠賀町、水巻町、岡垣町の市町村から委託を受けて、地域の木質に関する廃棄物 (樹木、タンス、木製の家具など) を受け入れています。実は、先日まで1社、同業の事業者さんがいらっしゃったのですがいろいろな事情で廃業されたので、この広域エリアでは弊社のみが受け入れ先になっています。このエリアでは北九州市に委託して一般廃棄物の処理をしていますが、そこだと単純に焼却されるんですが、弊社だと木質バイオマス燃料として再利用できますので、やはり、その意義は大きいのではないかと自負しています」。

野坂建設株式会社 環境事業部 取締役部長 廣戸大樹さん

 もう一つ、農家向けの堆肥用のチップとは聞きなれない言葉だが? 「“堆肥”というと何か養分を後から加えるイメージかと思いますが、堆肥用のチップは水分調整材として農家の皆さんの農地の土に空気を含ませておくものです。弊社が受け入れる木質の状況によってバイオマス燃料向けと堆肥チップ向けと仕分けして活用していて、だいたい草とか生木の80%は堆肥チップ、解体材の100%はバイオマス燃料向けになります。堆肥用のチップは、農家さんによっては、そこに酒粕とか椎茸の菌なんかを混ぜて使われる方もいらっしゃるようで、また1年間発酵させて使うとか、半年間発酵させて使うとか、いろいろありますので、僕たちは農家さんが使いやすいように基本性能をきちんと担保したチップ作りに尽力しています。堆肥用のチップは発酵しなければ意味がありません。乾燥が進んでしまった木質を原料にすることはできないので品質管理がとても重要です」。

「ゆめ環境」の作業場の様子(一部)。木屑や建築材、木製家具などを受け入れている
  • 粉砕された木屑は、用途に合わせて加工される
  • ロジの課題を解決した運搬用自社トラック

  廣戸さんと話をしていると野坂建設の環境事業『ゆめ環境』が、いわゆる産業廃棄物の中間処理事業ではなく、何かものづくりのメーカーのようにも思える。「たしかに、僕も廃棄物の受け入れというより、木質バイオマス燃料だったり堆肥チップだったり、弊社がアウトプットする製品のクオリティをどう高めていくのか? に一生懸命な部分があるので、一般的な中間処理事業者とは少し雰囲気が違うかもしれませんね。ついお客さま目線で『こういう燃料チップは使いたくないから』とか『こんな堆肥チップじゃあ使いにくくてダメだ』とか、じゃあどうするか? そういう風に考えてしまいますね。それも結局、代表の野坂が言う“恩返し”なんですよね。この街で育ててもらっている以上、できる限りのことをして役立つものをお返ししたい、その気持ちが強いんです」。一方の視点から見れば廃棄物でも、別の視点から見ると原材料になる ーまさに野坂建設が目指す地域の資源循環のプラットフォームは、こういった視点と想いに支えられている。