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【第3回】SDGsを経営に取り込むポイント 経営の土台づくりという視点

Last Update | 2020.11.30

SDGsの基礎知識③ 九州経済調査協会

公益財団法人 九州経済調査協会
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 NCBと九州経済調査協会との協働でお届けする連載企画「SDGsの基礎知識」。どのようにSDGsを経営戦略に実装して、企業価値を高めるのか? その基本的な考え方や知識についてオリジナルレポートでお届けします。
 

 前回までのレポートでは「企業にとってのSDGsとは? 」について、企業がSDGs経営に取り組む意義について(第1回)と、SDGs経営を実践するために、何から始めればよいのかとその情報源について(第2回)お伝えしました。
 第3回以降では、SDGsを経営に取り込む考え方・具体的なイメージをお伝えしていきます。
 

SDGsに企業が取り組む3つの理由

 企業が、SDGsに対応する必要としては、経営上の「土台」「攻め」「守り」の3つの側面があると言われています。それぞれ、以下のようなイメージです。
 

 土台   事業活動の持続可能性を支える  事業の“前提条件”に向き合う
攻め  新たなビジネス機会を獲得できる  取り組むことで、事業にメリットがある
守り  事業上のリスクを排除する  取り組まないと、事業リスクを避けられない

攻めと守りについては、第4回で詳しくお話したいと思います。
第3回では、「土台」についてお話します。

経営の土台という視点で考えるSDGsとは?

 「土台」の視点からみるSDGsとは、「これまでの事業モデルの前提や、持続可能性を見直す必要性がないか、振り返りましょう」という意味です。いくつかの例から考えてみましょう。
 梅雨の時期になると大雨・洪水からの災害対策が必要になりますが、近年では、地球温暖化や気候変動の影響により1日で1か月分の雨が降り注ぎ、想像を超える災害が起こるケースがみられるようになってきています。
 この現象は、私たちの日常生活の安全・安心を脅かしていますが、このままではこれまで続けてきた事業モデルが成り立たなくなる可能性が高い業種・分野がいくつも存在すると想像できるでしょうか。

 たとえば、保険会社を例に考えてみましょう。関係が深いのは、特に災害保険(火災保険、地震保険)です。保険の基本は「助け合い」で、将来起こりうる損害や経済的負担に備えて出し合ったお金で備える、というもので、誰かの将来のために積み立て、運用しています。災害の規模や発生の確率を見込んでお金を出し合うものですが、予想以上の多くの人が被害を受けるほどの大きな災害が起きることや、その発生回数が増えると、この事業モデルは今後も、これまでと同じままで運用できるでしょうか。

SDGsは社会課題の根本へ近づくためのキーワード

 経営の土台という視点で考えるSDGsとは、その取組みが、社会課題の本質をとらえているか? という意味です。
 上記の保険会社の例で言えば、従来のビジネスモデルの範囲で課題に対応していこうとすると、大雨・洪水が頻繁に起こるから、災害保険のモデルを新しく考えたり、保険金額を上げて補償内容を充実させる、といったアプローチが考えられます。もしくは、防災対策をする、防災対策グッズを開発して被害を減らす(小さくする)、というアプローチもあるかもしれません。

 ただし、SDGsの視点から考えた時には「持続可能性」がキーワードになり、現象の根本を見直すアプローチ
を考えることができます。たとえば、「大雨・洪水が起こるのは気候変動が影響しているのではないか? 」「気候変動に影響を及ぼしている私たちの今の生活を改善する取組みが必要ではないか? 」という視点です。
 そうすると、保険会社が「気候変動に対策をとろう」という取組みの旗振り役になることが、社会課題の解決に向かったひとつのアクションとなります。気候変動への対策は、どの事業者にも、とても挑戦的な目標で、1社だけで取り組めることではありません。
SDGsの視点を踏まえない場合には、企業イメージ向上のための取組みに見えてしまうかもしれませんが、事業の継続性を考えた際には必要な取組みです。

 このように「挑戦的な目標」に取り組んでいこうとすることや、その際に多くの人を巻き込めるのは、SDGsという共通のキーワードがあるからと言えます。SDGsは「皆で取り組まなければ、環境を維持できない状況になってきています」や「誰か一部の人の犠牲があって成り立っていた事業活動があることを知っていますか? 」というメッセージを発信しているとも考えることができます。

当たり前のことを疑うきっかけとなるSDGs

 さまざまな事業が、これまでの「資源の枯渇がない」「気候変動や災害はほとんどない」「消費が意欲的に行われる」といった前提の上で計画されています。そういった前提の上で、展開を仕掛けている事業も多いのではないでしょうか。

 環境汚染について考えてみます。ゴミがいっぱい浮かんだ海とは、観光業者、飲食業者、アウトドア用品の製造販売業、公共交通機関など多くの企業活動が関係することが想像できます。夏の海水浴シーズン、ゴミを見に海に行きたい人はいないでしょう。そうなると、海の近くに人が集まらないので、海のある地域の観光業が衰退します。ゴミがいっぱいの海で捕れた魚を目玉にした料理では、人を呼び込むことは難しいでしょう。

 また、海に行くと、バーベキューをしたり、ビーチパラソルを立てたりといろいろな道具が必要ですが、海に行かなくなれば、そういったアウトドア用品を購入する必要もなくなりますので、アウトドア用品の製造販売業も衰退していくことになります。人が移動しなくなると、移動に使っていた車、公共交通機関の利用者も減ります。
 この視点からみると、直接的に海の事業と関わらない多くの企業が、海の環境汚染に対して取り組むことは、事業の土台を整える視点でのSDGsに対する取組みとなります。

「何に取り組んで良いかわからない」時は落ち着いて考える

 日本の多くの企業はこれまで「三方よし」の視点から事業を行ってきました。世間が良くなるために事業を行う企業が多くあるため、「すでにSDGsの17のゴールのどれかに貢献できる事業に取り組んでいるが、それ以外にどういった取り組みが求められているのかわからない」と言う声を聞きました。
 また、SDGsは理解したが、SDGsアジェンダ全体像を見たときや、17のゴールと経済活動の取組みをつなげるイメージは湧きにくいため「事例が知りたい」といった意見や、SDGsを経営に取り込むことが「これまでの社会貢献活動やCSR活動と何が違うのだろう? 」という意見、もしくは「SDGs達成のために、企業として新しく取り組むイメージがつかめない」「どのような社会課題の解決に重点的に取り組んでいくのかを悩む」という声もあります。

 これらの悩みは、そもそも「市場環境が今後どう変化するのか、見極められているのか? 」「事業計画をしっかり見直せているか? 」という視点に立ち返ってみると、整理できるのではないでしょうか。

 SDGsの視点に基づいて経営の土台作りを改めて考える場合に今の事業計画の前提は、今後も変わりなく続くのか? ということを改めて見直す必要があります。これが、土台づくりの視点でSDGsに取り組む際の一つのポイントになります。

 例えば、事業の前提の変化(課題やリスク)に関するヒントとして、「世界経済フォーラム」が発表している『グローバルリスク報告書(Global Risks Report)』なども参考にできます。この報告書の冒頭部分をみると、この10年で、世界の政治・経済界のリーダーが「発生の可能性が高い」「経済への影響が大きい」と考えているリスクは、経済要因よりも、環境要因が増えてきていることがわかります。

2007-2020 進化するリスクの展望出展:第15回グローバルリスク報告書2020年版(世界経済フォーラム)

中長期経営計画との関係

 これまでの自社のビジネスモデルは、SDGsが示す「社会課題」が深刻化しても成り立つものでしょうか? その社会課題は、必ずしも現在取り組む事業と直接的には関係がないことかもしれません。だからといって、アクションを起こさない場合には、間接的に自社の事業がうまくいかなくなるリスクが高まる可能性がないか、検討しておく必要があります。
 そういった視点で、自社のビジネスモデルの根底に関わる社会課題に対し、解決のために働きかけていくということは、事業計画の前提条件に向き合うことになります。これは、企業経営に振り返ると「中長期経営計画」と関わりが出てくる部分とも言え数年間で成果を出したいこと、少し背伸びした目標を計画されることが多いのではないでしょうか。計画を振り返る際に、SDGsの視点を入れて状況を整理することも、取り組みの一歩となります。

 

 土台作りの視点ではSDGsに対し十分に取り組めている、中長期的な取り組みには着手できている、と思う方は、「攻め・守り」の視点について考えてみることもおすすめします。
 もしくは、「土台作りの視点で取り組むことは、事業計画上難しい」という場合にも、「攻め・守り」の視点ではどうか、検討してみることもできるでしょう。

 「SDGsは、経営基盤を強固にするための取り組みについてヒントを与えている」という目線を持つと、今後の取組み計画を落ち着いて考えることができるのではないでしょうか。 
 

公益財団法人 九州経済調査協会
調査研究部 研究主査
原口尚子