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新型コロナウイルスなんかには分断できない、人が人を想う結びつきの強さ。

Last Update | 2020.08.27

よっしぃキヨマツの応援しちゃん券

清松総合鐵工株式会社
住所 : 大分県宇佐市大字尾永井470-1
TEL : 0978-32-2176
http://www.kiss.ne.jp

  • 住み続けられるまちづくりを
  • パートナーシップで目標を達成しよう

  新型コロナウイルスの感染拡大による影響は、地域の実体経済にさまざまな打撃を与え、今、多くの方々が仕事を守り、家族を守り、そして地域を守ろうと、さまざまなチャレンジを続けている。今回紹介するのは、その事例のひとつ。大分県の飲食店やサービス事業者とそれを支えるお客さまとを結ぶ商品券の取組み。そこにはウイルスなんかでは分断できない、人の想いの結びつきが見えてくる。

世のため、人のため、そして自己のため

 「僕ね、いつも思ってることがあってね。1つ悪いことが起きたときに、そのことに対して3つの良いことを見つければ、すべては良いことに変えられるって。その3つのことが (社是である)『世のため、人のため、そして自己のために』なんです」。笑みを含んだ独特の語り口は、不思議と相手との距離感をグっと縮めてしまう。“大分県でいちばん有名な社長”と自らを呼ぶ清松芳夫さん。清松総合鐵工株式会社 代表取締役社長であり、FM大分では『よっしぃキヨマツの「あなたの未来」』という自身の名前を冠に持つラジオ番組でパーソナリティも務めている。今回のプロジェクトの仕掛け人である。

清松総合鐵工株式会社 代表取締役社長 清松芳夫さん

 「4月7日に緊急事態宣言が発出された時期、みんなは本当に困ってて。それで『世のため、人のため、そして自己のために』の3つ何か良いことができないかと考えたわけ。まず『自己のために』。みんな(コロナで)我慢しているから、だったら僕は誰よりも我慢しようと思って禁煙しました。今でも続けています (笑) 。次は『人のため』。それまでおかげさまで仕事が本当に忙しくて、従業員にも十分に休みを取らせてあげられませんでしたし、家族サービスらしいこともさせてあげられずにいましたが、コロナ禍で受注がドンと減って…。じゃあ、これでみんなにお休みしてもらえるねって、全従業員に1週間の特別有給休暇を与えました。そして今までがんばってくれたお返しとして、城島高原ホテルのペア宿泊券と城島高原パークのフリーパスを配って、これでみんなに、家族サービスをしてもらうことができました。そして3つめの『世のため』。それが、この商品券というわけです」とはにかみながら語る清松さん。
 補足すると、清松さんが経営する清松総合鐵工は、従業員40名弱、年間売上37億の鉄骨総合工事業を営む地方の中小企業である。ちなみに4年前 (当時の売上は16億前後) に「 (年間) 35億売って、(従業員みんなで) ハワイに行こう! 」という目標を立てて、今年それを達成したそうだ。

清松総合鐵工の工場外壁に掲げられた社是

持続可能な“後から来ます”商品券

 『世のため』の商品券とは? 『よっしぃキヨマツの応援しちゃん券』と名付けられた商品券。仕組みはこうだ。① 加盟店が1冊1,000円で商品券を購入 ② 加盟店は1冊10,000円以上でお客さまに販売し、差額を当座の運転資金に充てる ③ お客さまは、その商品券で後日“行けるようになったら”加盟店を利用する ④ 加盟店が支払った1,000円をプールし、商品券の印刷代などの事務局運営費に充てる。事務局運営費には趣意に賛同してくれる企業からの広告費も充てる という持続可能な仕組みである。コロナ禍で休業や時短営業を強いられている加盟店は、運転資金を確保しつつ、ロイヤルカスタマーを囲い込むことができる。
 「コロナ禍で困っている飲食店のオーナーと話しているときに『じゃあ、後から来ます商品券、出しなよ。僕、買うよ』って言ったんです。そしたらね、いや商品券は金券だから法律の問題もあるし、うちみたいな個店じゃ印刷できる数も限られるから印刷代は割高だし、なにより商品券を買ってもらった後で、もしウチが潰れたらって考えると (清松さんに) 迷惑がかかる…って。『じゃあ、その3つ、僕がクリアしよう』それが始まりです」と語る清松さん。「法律は (わが社の) 顧問弁護士に力を借りて整理し、加盟店を増やせば印刷コストの単価は下げられる。それで、もしもの場合は『僕が保証するよ』という感じで、応援しちゃん券のスキームができました」。ちなみに、運営事務局は清松総合鐵工の事業とは別に、清松さん個人のネットワークで立ち上げたものだ

『よっしぃキヨマツの応援しちゃん券』のスキーム (公式HPより抜粋)

 ポイントは、加盟店が1,000円を支払うこと。清松さんは言う「無料でやろうと思えば、(事務局運営費は) 僕の私財でも負担できるレベルだと思います。でも、タダじゃあ加盟店は本気になりません。1冊1,000円だけど、リスクを負って“やるぞっ!!”と決めた人でないと成功できません。実際、この『よっしぃキヨマツの応援しちゃん券』を使って、それまで月10万円くらいの売上だったサロンが、月80万円の売上を叩き出して“もう予約でいっぱいです”ってトコも出てきてる」。寄付や提供というボランティアではなく、加盟店からお金をとって運営する持続可能なスキームは、まさにSDGsの考え方と言える。

よっしぃキヨマツの応援しちゃん券

サービス業の人は、みんなの喜ぶ顔が見たい人

 では、実際に加盟店ではどういう変化が起きているのだろうか? 清松さんがまず紹介してくれたのが「リラクゼーションサロン Shine Fragrance」。東九州自動車道大分ICそばの小高い丘の上に建つ足圧とアロマのサロンだ。オーナーの平井伽寿咲 (かずえ) さんは元介護士で、この『応援しちゃん券』で大きな変化を生み出した一人。「私はもともと発信ができないというか、宣伝が苦手で。大きな声で『ウチのサロンに来てください』って言えなかったんです。介護の仕事では“傾聴”といってお話を聴くことが大事で、相手が話をしてくれることを待つスタイルなので、自分から攻めるのが苦手なんです」と語る。逆に言えば、それはサロン運営には持ってこいの特性で「施術はもちろん、お客さまのお話を聴くということも大切にしています。皆さんいろんなものを背負って来店されますので、身体をほぐしながら個人的な悩みもここで吐き出して身軽になっていただいて、心身ともにリラックスしていただけるように尽くしています」とのこと。そんな平井さんでも『応援しちゃん券』は多くの方に発信できた。なぜなら「自分のことを発信するのではなく、清松社長が始めたことを私も手伝っている」からだ。

リラクゼーションサロン Shine Fragrance 平井伽寿咲さん

 清松さんは言う。「サービス業の人はね、みんなの喜ぶ顔が見たい人。だからなかなか自分の宣伝ができない。『私のお店に来てね』とは言えないけれど『キヨマツさんが新型コロナウィルスに負けないようにってやっていることを応援しているの』ならば言える。だって自分のためじゃなくて、共通の敵・コロナに負けないためだからね。それでお客さまは『応援しちゃん券』を使って実際にサロンで施術を受けると気持ち良い体験ができるから、じゃあ『商品券もう一冊ちょうだい』となる。これは守る営業ではなく、攻める営業。僕はこれを営業パラダイムシフトって呼んでます」。そう、先ほど話に挙がった“もう予約でいっぱいってお店”が、実は平井さんのサロンなのだ。『よっしぃキヨマツの応援しちゃん券』は、コロナ禍の当座の運転資金確保のための緊急避難的な施策ではなく、実は、お店とお客さまとの絆を結び直し、未来を拓く施策である。

  • 足圧の様子。足を使って筋肉をほぐす施術
  • サロン内の様子
  • リラクゼーションサロン Shine Fragrance
  • 〒870-0876 大分市庄の原2-2-1
  • TEL:090-7162-2102
  • 営業:10:00〜19:00(完全予約制)

恩返し、ではなく恩送りの店

 続いて「どうしても紹介したい加盟店さんがあるので一緒に行きましょう」と清松さんが案内してくれたのが「トンネルをぬけると…たまりば」という名のカフェ。住宅街のど真ん中にある“知らないと行けない”お店だが、大分のメディアには何度も取り上げられている人気店なのだそう。元は倉庫だったという建物を家族みんなで(!!)改装し、この地で南国風カフェをオープンさせたのが昨年というオーナーの若林優子さん。「2013年から子どもと一緒に楽しめる飲食店を経営していたんですが、ここに移ったのは昨年です」。なるほど店内を見渡すと、食事用のテーブル席のほか、子どもたちが靴を脱いで動き回って遊べる空間や遊具があり、メニューも子ども向けのプレートが豊富に選べる。子育て中の家族や子どもたちが気兼ねなく楽しい時間を過ごせる仕掛けが施されている。

トンネルをぬけると…たまりば 若林優子さん
  • 家族や仲間の力で改装した店舗
  • 広い店内にはテーブルや座敷、ハンモックまで
人気メニューの「大人のお子様プレート」 ※写真は夏季限定バージョン

 しかし、この「たまりば」の本質は空間と料理だけではない。「私はシングルマザーで3人の子育てをしているんですが、いきなり離婚ってなって、シングルで子育てしなきゃって状況におかれ、経済的にも精神的にも本当にしんどかったんです。その時、ありがたいことにいろいろと助けてくれる方がいて、育児用品をいただいたり、何か食材をいただいたり、いろんな企業を紹介して関係をつなげてくれたり、それでやっと前を向けるようになって…。それで、そのときにしてもらったことを、次は他の“今、必要な人”にしてあげなきゃって思って、それをカタチにしています」という若林さん。
 店内の一角には、育児を卒業した保護者の方が持ち寄った多彩な育児用品が、次の方に使われることを願って無料で陳列されていたり、子育ての合間をぬってママたちが手作りしたオリジナルグッズが場所代無料で販売されていたり。また毎週木曜日には子ども食堂が開かれ子どもたちには日替わりカレーが無料提供され、毎週金曜日には企業や農家、個人の方から提供された食材や用品など子育て支援物資をセットにして無料配布されている。他にも育児支援メニューは多彩で、時流に合わせて随時更新されている。※詳細はホームページ参照

  • 育児を卒業した方から提供された育児用品
  • 子育てママが作ったオリジナル雑貨

 「ゆうこりん (若林さんの愛称) のお店はね“恩返し”じゃなくて“恩送り”のお店なのよ。英語で“pay it forward”って言って、ある人から受けた恩を、別の3人に送るという考え方。その恩を送る場所がこのお店です」と清松さんは言う。若林さんの取組みは、もちろん自身だけでは実現できない。企業や個人の「あなたにこれを役立てて欲しい」という想いがなければ成立しない。「私がやっているわけじゃなくて、企業やお友だちの支援があって成り立っています。ウチもボランティアじゃなくてカフェを営業しながらだから、みんなの想いを結ぶ場所として続けていけてます。誰か一人が我慢したり負担したりするんじゃなくて、みんなが幸せになるやり方じゃないとウチではやりません」と語る若林さんは、持続可能な社会貢献という、まさにSDGsの考え方を具現化している。
 「支援を受けた方が、ある日『あの時はありがとうございました。よかったらコレを使ってください』と持って来られます。こういう取組みは、ウチの店が『寄付してください』ってお願いしてやってもらうものではないと思うんです。もちろん支援を受けた方がみんな、別の方への支援をされるわけではありません。でも (支援) されたことはきっと忘れないと思います。時期がくればちゃんと伝わると思いますよ」という若林さん。「ゆうこりんが無償の愛だから、それにみんなも応えてくれるんだと思うよ」と清松さん。支えてくれたから、その分を誰か別の“今、支えを必要としている人”のために還す ーその感覚は、若林さんの言葉を借りれば「母性」と言い換えることもできそうだ。
 聞けば、清松さんと若林さんは、出会ってまだ数か月とのこと。ではなぜ『応援しちゃん券』を使おうと思ったのか? 若林さんに尋ねると「私のお店が加盟店になることで清松さんが助かるならやります」だったとのこと。「正直、ウチの店は商品の単価も高くないので『応援しちゃん券』はそこまで有効ではないんですが、清松さんが頑張っていらっしゃるのは知っていましたし、応援してもらっていますし、ウチみたいのでも役に立てるのならば…応援したいって」。誰かが誰かではなく、自分が“あのお店 = 人”を応援したい ーその気持ちを表現するから『応援しちゃん券』なのである。

  • トンネルをぬけると…たまりば
  • 〒870-0265 大分市竹下1-7-20
  • TEL:097-529-7777
  • 営業:11:00〜21:00(16:00以降は完全予約制)
  • http://tonneru.com/new/

「クレジット」を“見える化”する

 『応援しちゃん券』の取組みをやってよかったですか? と問えば「少なくとも禁煙できたからね」と笑う清松さん。ボランティアではなく持続可能な方法で運営しているとはいえ「1円も利益がないこの活動に、ここ2〜3か月は我々夫婦のほとんどの時間を捧げています」と話す。「少し不謹慎な言い方かもしれないけれど、コロナ禍があったから『応援しちゃん券』ができたって、10年後には振り返ることができるかもしれませんからね。おかげで売上が増えたっていう加盟店さんも多いし、『応援しちゃん券』に託つけて宣伝できたって方も多いしね。そういうのはやっぱり嬉しいですよ」。
 社是とする『世のため、人のため、そして自己のために』。「『自己のために』は禁煙です」と照れ隠しで言う清松さんに、再度問うてみた。やってよかったですか? 「僕は、これは投資だと思っています。投資は、自分がリスクを取ってリターンを得るものですが、『応援しちゃん券』のリターンはお金ではありません。僕はね『クレジット』って呼んでます。“あの人のおかげで助かった”とか“苦しいときに支えてもらってありがとう”といった気持ちは、きっと『クレジット』となって蓄積され、いつか必要なときに還ってくると思っています。『応援しちゃん券』を使ってうまくいってる人は他人のためにがんばっている人。『こんな人がいるんです。紹介したいんですがいいですか?』とか『この人を応援したいんですけど、なんとかなりませんか?』とか僕に言ってきてくれる人は『クレジット』をいっぱい貯めている人。でも、それは今まで換金されていなかった。『応援しちゃん券』は、それを売上という目に見えるカタチに変えるスキームなのだと思います」。
 新型コロナウィルスは、人と人との関係性を分断してしまうウィルスだが、それに打ち勝つのもまた、人が人を想う強い結びつきなのだ。