SDGsなプロジェクト
九州の企業が取り組むSDGsプロジェクト
糸島と共に70年余り。糸島に根付く企業が描く、糸島の糸島による糸島のための未来。
株式会社へいせい
株式会社へいせい
住所 : 福岡県糸島市前原西5-1-31
TEL : 092-324-1111
https://heisei-g.co.jp
糸島に“なくてはならない会社”を目指して
糸島市に本社を置く株式会社へいせい。1947年に土木工事業の会社として創業し、地域のニーズに応える形で土木・建築・住宅・リフォーム・不動産・美装 (ハウスクリーニング) まで、暮らしのインフラをワンストップで提供できるまでに事業領域を拡大してきた。
一方で、商圏をむやみに拡大せず、地域に根付いた事業展開が特徴だ。「創業の精神の1番目に『感謝の心をもって地域社会に貢献できる会社をつくりたい』と掲げているのがすべてなのですが、へいせいが在るのは地域のおかげ、地域に必要とされる会社でありたいという精神でやってきました。積極的に規模拡大路線を取ることなく、小さくても強い会社であることを大事にしています」と語るのは浦源次 常務取締役。
地域貢献を理念に掲げる企業が数多くある中、へいせいと糸島との関係は、やはり特筆すべき点が多い。「事業を通じた地域貢献はもちろんですが、企業としても人としても地域コミュニティの一員としての役割を積極的に担うことを推奨しています。実は、社員の約6割が糸島エリアに住んでいますので、消防団やPTA、少年補導員、地域のボランティアなど、地域で果たすべき役割を積極的に担うという社風ができています」と語る浦常務。
「弊社は人間力が強みだと思います。人間力とは基本の徹底で、挨拶・返事・時間を守ることや、当たり前のことを当たり前に行うことを実践しております。また、社員一人ひとりが地域コミュニティの一員として役割を果たす、その集合体である会社も地域での役割を果たす、その積み重ねで“何か困ったらへいせいに訊いてみよう”という、糸島の皆さまとの良い関係が生まれています。そういう取り組みが、結果的にSDGsの17のゴールのうち、12のゴールに該当していた…そういう感覚です」とのこと。
12のゴールの内訳を見ると、道路工事や住宅建設という本業での環境負荷の低減はもちろん、子ども食堂やフードバンクへの支援や教育機関への寄付といった支援への取組みや働きやすい職場環境改革を推進し、糸島エリアでの暮らしの価値を高めるための事業を展開している。まさにSDGs推進のお手本となる企業と言える。
社員独自の糸島情報を発信
へいせいのホームページをのぞいてみると、企業情報や事業案内など一般的なコンテンツに混じって、意外なコンテンツがある。『itonavi(イトナビ)』と名付けられた住宅部のコンテンツでサブタイトルは「糸島のこと知っとーと!?」。社員が独自に更新している糸島情報を発信するサイトだ。仕掛け人は住宅部の中島恵梨香さん。「3年前に、住宅部のホームページをリニューアルした時に立ち上げました。糸島のことを対外的に深いところまで紹介できたらと立ち上げました」と当時を振り返る。
糸島の飲食店を中心にすでに40以上の記事がアップされていて、いずれも社員がおすすめするお店をブログ感覚で紹介するスタイル。せっかくなので、『itonavi』で紹介されているお店へお邪魔してみることに。
糸島はつながっとっちゃけん
お邪魔したのは「糸島ラーメン ゆうゆう」。大将の木下勇二さんに会うなり、中島さんが「すみません、今日は笠 (りゅう) が来られなくて」と。笠さんとは!?「弊社の社員で、実はこちらで4年ほどアルバイトしておりました」。そうなんですか大将!? 「そうそう、大学生の時に4年くらいウチでアルバイトで働いてくれよって、急にサバーっと辞めるって言いだして。そん時『糸島はつながっとっちゃけん、ちゃんとしとかんといかんよ』って送り出したんですよ。そっから就活して、なかなか内定が貰えんかったらしいんやけど、ある合同企業説明会でへいせいの社員さんに会って、『ゆうゆうで働きよったろ!? 』って声かけられて。それがご縁でへいせいさんに就職が決まってね。後から挨拶にきて『あの時、大将が言いよったことの意味がわかりました』って言ってくれて。今でも、しょっちゅう店に来てくれるし、ありがたいですよ」と笑顔で語る木下さん。確かに特異なエピソードだが、地域に根ざして仕事 (商売) をすることの本質が、見事に凝縮されているように思える。
「ウチはひと言で言えば“糸島びいき”のお店です。路地裏の立地も含めて、お客さまがお客さまを連れてきてくれる店で、地元の方に支えられて成り立つ店です。なので、食材はとことん糸島産にこだわるし、地域のイベントには積極的に参加します。地元で商売させてもらっているので、その分を地元に還していく。糸島は、人とのつながりがなくなればやっていけない地域ですから」と木下さんは言う。事実、ゆうゆうのラーメンは、糸島豚を使ったスープに、糸島産ラー麦100%の特製自家製麺、醤油やネギもすべて糸島産というこだわり。糸島グルメグランプリ (通称 i-1) には毎回オリジナルラーメンでエントリーし、2017年にはグランプリを獲得するなどなど…中島さん曰く「糸島のイベントというイベントに出ている」そうだ。「それこそ、へいせいさんこそ糸島のお祭りとかイベントには、たいがい出とるやないですか」と笑う木下さん。中でも『へいせいお客様感謝祭』が一番好きで、出店するのも楽しいし、お客として参加するのも楽しいと語る。
「弊社が年に1回開催する感謝祭で、弊社のお客さま (オーナー様) を招待して、社員が一丸となって飲食からイベントの企画・運営を行い、お子さまから大人の皆さままでお楽しみいただける会となっております。オーナー様のお店にもご協力いただくなど、毎年内容は変化させ工夫を凝らしています。毎回400~500名の方にご参加いただいています」という中島さん。道路工事や住宅建設だけでなく、糸島情報を発信したり地域イベントに参加したり、糸島の暮らしのあらゆる場面にへいせいが顔を出している。「仕事を通じた人間関係はもちろんですが、私たちも糸島のコミュニティの一員なので、仕事終わりにお客さまのお店に伺うこともありますし、仕事だけではないお付き合いをさせていただいています。私たちは、公私ともに糸島に支えられていることを毎日実感しています」と中島さんは笑顔で語る。
私たちも糸島のコミュニティの一員。社員が自然と持っているこの肌感覚こそ、へいせいの一番の強みだ。その強みを活かした、新しい街づくり=コミュニティ創出のプロジェクトが「オリーブガーデン糸島」プロジェクトである。
“新しい街を創る”初めてのチャレンジ
「オリーブガーデン糸島」のプロジェクトは、へいせいにとって初めてとなる“新しい街を創る”仕事だ。糸島市髙田地区に全55区画の新規分譲住宅を集積させるプロジェクトで、現在第1期29区画を販売中、秋には残りの第2期22区画の販売を控えている。SDGs推進を標榜した街づくりを宣言したプロジェクトとして社内の期待度も高い。プロジェクトリーダーを務める住宅部営業課長の潤 (うるう) 和也さんは「これまでは、とにかくお客さまの願いをかなえることだけに必死になって取り組んできました。しかしオリーブガーデン糸島は、この街の価値を高めるために、わが社としての明確な意志を持って街づくりに取り組むもので、そういう弊社主導の商品がお客さまに受け入れていただけるのか? という不安はありました」とプロジェクトの立ち上げ当時を振り返る。当初は「糸島をさらに価値ある街にしたいという強い思いで立ち上がったものの、ビジョンが壮大すぎて、やる事とやらない事の取捨選択が大変でした」とのこと。
そんな中、新しい出会いが生まれる。へいせいのOGで、糸島でバーを営む女性が「すごい面白いコがいるのよ」と紹介してくれたのが、九州大学博士課程2年 (当時) の関口智仁さんだ。「僕は“伊都を九大生のもうひとつの故郷に”したいと考えていろいろと活動しています。大学時代に過ごした街はどこ? と聞かれ、多くの九大生が天神や博多と答える中、みんなが胸を張って“伊都”と言える状況を作りたい」と語る関口さん。大学周辺の空き店舗を活用して九大生と地域住民の集いの場「mulberry house」を運営したり、糸島の地域活性化をする大学公認サークル iTOP内のプロジェクト「企業組合ゼロから伊都」の代表理事を務めるなど、地域活性化の取組みを具体的に推進している関口さんは、ほどなくオリーブガーデン糸島プロジェクトの大切なパートナーとなる。2018年の冬のことである。
目指したのは、持続可能な街づくり。
「まず最初に、僕らにコンセプトワークを任せていただきました。その議論の中から僕らが8つのプランを提示させていただいて、オリーブガーデン糸島の街づくりの議論がはじまりました。ポイントは“コミュニティづくり”です」と振り返る関口さん。目指したのは持続可能な街づくり。「この類の開発では、同じ時期に一気に建物を建てて住人を呼び込み、建物も住人も同じように歳をとってゴーストタウン化する事例がたくさん出てきています。オリーブガーデン糸島は、月日が流れ住民が入れ替わっても街の価値はいつでも高く維持され、住民同士で共有されている状態を目指しています。別の街に行きたいと思う人が手放しやすく、逆に街に入って来る人には常に価値があるように見える街。1/55戸の住宅単体の価値ではなく、街全体で価値を維持したい」と語る関口さん。
そのための具体的な取組みとは?「オリーブガーデン糸島は建物のスタイルをある程度統一しています。一戸の魅力ではなく、街としての価値を高めるため、街並み全体の雰囲気を統一するのが狙いです。注文住宅の良さは残しつつ、お客さまには我々のビジョンにご賛同いただき、ご購入していただいています」と潤さん。リビングから連続性を持ったウッドデッキを全戸に設置することや、コミュニティ形成のためのフェンスレスの区画づくり、緑豊かな景観デザイン、住人専用の共同菜園の設置、全棟太陽光発電システムを設置し環境負荷を軽減するなど、ハード面の施策はさまざまに施されている。特にフェンスレスの区画作りは、物理的にも心理的にも“壁を取り払う”という想いを込めて、街全体に大胆に取り入れた特徴的な施策。他地域の先行事例の視察を重ねて、家と家との間の自然な共有空間の必要性を感じ、そのディテールを詰めて実現したものだ。
「30年後も楽しみな街」のために
しかし、コミュニティ形成のポイントは、むしろソフトにあると言う関口さん。「いくら舞台装置を用意しても、住民の皆さんの気持ちをどう導いていけるかが大切だと思います。オリーブガーデン糸島には、街独自のビジョンがあって、例えば加工品利用の幅が広いオリーブを全戸で育てていただいたり、共同菜園を街全体で運営したり、住民の皆さんが街づくりにどのように参加して、街の価値をどのように維持していくかの指針です。購入前に説明してご納得いただいた方ばかりなので、初めはある程度の意識の共有はあるけれど、価値を創造していく取組みをどのように継続していくか。維持する仕組みをどう作るか。持続可能な街づくりには、これが大きなチャレンジになると思います」。
「住民の皆さまのコミュニティ作りには、管理をするへいせいが果たすべき役割が大きいと思います。マンションならば管理組合が、戸建てならば建主様が管理をするので、建ててしまえばビルダーである弊社の出番がありません。オリーブガーデン糸島のコミュニティ作りに関しては、へいせいが一歩踏み込んで、住民の皆さまを先導していく予定です。糸島にずっと寄り添ってきたへいせいが、常にそばにいるという強みを活かしていきたいと思います」と語る潤さん。
オリーブガーデン糸島のキャッチコピーに掲げた「30年後も楽しみな街」とは、70周年を迎えたへいせいが、100周年を迎えた際も、オリーブガーデン糸島の住民がイキイキと笑顔で暮らしているのを見続けたいと言う願いが込められているそうだ。
私たちも糸島のコミュニティの一員。社員ひとり一人が、当たり前のようにそう感じ、仕事での関係をこえて糸島の人たちとの絆を紡ぎ続けてきたへいせいだからこそ、オリーブガーデン糸島という新しい街づくりにおいても、住民同士のコミュニティ作りはもちろん、オリーブガーデン糸島周辺に元々暮らしていた地域の人々との絆をも、上手に紡ぎ続けていくことだろう。
持続可能な街づくり、その挑戦は始まったばかりだ。