SDGsなプロジェクト

九州の企業が取り組むSDGsプロジェクト

ものづくりは楽しい、だから作った人を幸せにしたい。“魅せる工場”が支えるものづくり文化。

Last Update | 2021.06.17

タカハ機工株式会社

タカハ機工株式会社
住所 : 福岡県飯塚市有安958-9
TEL : 0948-82-3222
https://www.takaha.co.jp

  • 質の高い教育をみんなに
  • 働きがいも経済成長も
  • つくる責任つかう責任
  • パートナーシップで目標を達成しよう

SDGs推進における“ものづくり人材”の重要性

 文部科学省が2015年に策定した「理工系人材育成戦略」では、さまざまな社会課題の解決に取り組みながら豊かさを実感できる社会を構築するために、付加価値の高い理工系人材の育成が必要とされている。国立大工学系学部の志願者数を見ると、2002年度~2006年度頃は、いわゆる「工学部離れ」の傾向が顕著に表れていたものの、ここ数年は、増加・安定傾向に転じている。SDGs推進において欠かせないバックキャスティング思考 [註1] では、現状をドラスティックに変革するイノベーションが求められており、理工系人材の育成は必要不可欠と言える。そんな“ものづくり人材”の裾野を拡げる取組みを通じて、業績を拡大し企業価値を高めている好例がある。飯塚市に本社を構えるタカハ機工株式会社。国内屈指の「ソレノイド」メーカーとして知られる、そのユニークな取組みには、いわゆる“ものづくりは人づくり”と言われる、その本質が見えてくる。
[註1]将来」を起点に「現在」を考える思考のこと。SDGs推進においては、2030年の“在るべき世界”を起点に、課題解決のためにさまざまなイノベーションが求められている。

タカハ機工株式会社 本社

「ソレノイドの会社」と呼ばれるほどに

 創業は1979年。創業時より「ソレノイド」という電気部品の製造を行い、地元・飯塚では「タカハ機工の名前は知らなくても『ソレノイドの会社』と言えば、だいたいピンとくる」と言われるほどに知名度を高めてきた。
 そもそも「ソレノイド」とは何か? 電磁コイルに電気を流すことで発生する磁力によって、プランジャーと呼ばれる磁性体の鉄芯を動かす部品。鉄芯の長さや動く量・力などの細かい調整が可能で、レジやATM (現金自動預払機) 、ドアロック、安全装置など、実はさまざまな機械に使われている。日常の暮らしの中で活躍しているが、見えない場所に組み込まれているので、決して広く知られているものではない。タカハ機工は、このソレノイドを作り続けて約40年。高品質のソレノイドを短期間で製造・納品できる一貫生産体制を武器に、大手電機メーカーなどとの取引きで業績を拡大してきた。

ソレノイドの構造(タカハ機工 HPより抜粋)

魅せる工場づくり

 タカハ機工は、その経営指針に「魅せる工場づくり」を掲げている。「お客さまに、社員に、そして協力工場や金融機関、行政機関などの関係先、その三者に“魅せる”という意味があります」と語るのは、タカハ機工株式会社 取締役 執行役員 大久保千穂さん 。「いつも綺麗に整えられていて、社員みんなが元気に楽しそうに仕事をしている工場は、 (お客さまが) 思わず取引したくなる工場だと思いますし、そのためには社員が“一生働きたい”工場でなければなりません。そうして、支えていただいている関係先の皆さんが応援したくなるような工場を目指しています」とのこと。
 タカハ機工のように、いわゆるBtoBの工場が、“魅せる”という外向きのコミュニケーションを強く意識したキャッチフレーズを使うのには、少々違和感を覚えてしまう。「きっかけはWEBサイトを作ったことですね。それまでは、大手電機・機械メーカーの協力工場として商売をしてきたので、外部との接触がほとんどありませんでした。一日8時間も会社に居るのに、ただ仕事をして帰るだけじゃあおもしろくない。いつも同じ顔ぶれで刺激もない。当社にたまに来てくれるのは金融機関の方くらい。その状況に、まず私が楽しくなかったんです。じゃあ、どうするか? やっぱり他人から見られることやいろんな人に会えるってことが大事だと考えました。そこで、もっとたくさんの方に当社のことを、ソレノイドのことを知ってもらおうとWEBサイトを開設し、ソレノイドのネット通販を始めました」。

タカハ機工株式会社 取締役 執行役員 大久保千穂さん

 2007年、タカハ機工は自社のWEBサイトでソレノイドの個人向け販売を始めた。「結果、私が楽しくなりました (笑) 。ソレノイドを買っていただいたお客さまのリアクションが少しづつ届くようになって、社員の会話が増えたんです。お客さまの顔が見えると、商品がどう使われているのか? どんな人が使ってくれているのか? そんなことが気になって社員がお互いに会話するようになりました。『今まで買えなかったのでありがたい』とか『ソレノイドでこんな装置を作りたいんだけど』なんて声が直接届くようになり、お客さまに応えたい、喜んでもらいたいっていう気持ちが自然に生まれ、会社が断然明るくなりました」。この経験が転換点となり、タカハ機工は、外に開かれた工場へと変わっていく。
 外に開いた効果は、これだけではなかった。「実は、私たち以上にソレノイドに詳しい方が、全国にはたくさんいるってことがわかったんです。ソレノイドって不思議な部品で、昔っからあるものですが、あまりにニッチ過ぎて国内でどのくらい製造されて市場規模がどのくらいあるのか、きちんとした数字が無いんです。でも、確実にソレノイド・ファンがいて、いろんな装置を作っていることがわかり始めたんです。某大学の先生が、ソレノイドを動かすコントローラーを作ってみたんだけど、設計図を渡すので販売するならどうぞ…とか、釣り好きの方からは、釣り上げた瞬間をソレノイドを使ったフットスイッチで (カメラの) シャッターを切って撮影した写真だけど、見てください、とか。私たちの方が『そうか、ソレノイドってこんな使い方ができる部品なんだ』って、自分たちが作っているものの価値を再認識させられるんです。今は、SNSがあるから、そんな方々と直接コミュニケーションが取れる。社外のものづくりの人と繋がって、それでいろんな新商品が生まれたりもしています」。

『ソレコン』が結ぶ企業と人、そして人

 WEBサイトでソレノイドの個人向け販売を始めると、次第に「こんな装置を作ったよ」といったオリジナル作品の報告が寄せられるようになった。「せっかく自分で作ったものですから、みんな誰かに見せたいし、自慢したいですよね。だったら、コンテストをやらなきゃね」という大久保取締役の発案で、2014年『タカハソレノイドコンテスト(ソレコン)』が立ち上がる。①タカハ機工のソレノイドを使うこと ②縦・横・高さは概ね各50cm以内 ③何度動かしても壊れないような丈夫なもの という条件を満たせば、誰でも (グループでも) 応募ができるという、オープン・コンテストだ。
 その『ソレコン』において、参加者から親しみを込めて“ソレノイ女 (じょ) ”と呼ばれているのが、営業部 MVP事業部 茶園千恵子さん。「2021年で8回目を数える『ソレコン』は、ちょうど私が新卒で入社した年に始まったんです。最初は、よくわからないまま審査会の司会に指名されて、第2回からは『ソレコン』担当としてやってます」とのこと。自分が指名された理由に心当たりは? と尋ねると「たぶん、私のキャラクターを見抜かれたんじゃないかと。ついオモテに立っちゃいたくなるというか、みんなが笑うようなことをしたくなるんです」と、明るい笑顔が帰ってくる。ちなみに、入社動機は「就活中に (タカハ機工の) 工場見学に来た時、工場の奥に見たことのないような工作機械や部品が置いてあって、その雰囲気というか、特に油の“匂い”がたまらなくって。『ああ、私はここに来なきゃ!! 』って、その時初めて、自分の嗜好に気が付いたんです」とのこと。油の匂いに惹かれて入社とは、もはや天職と言えるのかもしれない。

タカハ機工株式会社 営業部 MVP事業部 茶園千恵子さん

 「『ソレコン』には、毎年50作品くらいの応募をいただくんですが、もう感謝しかありません。参加者の方からは、いろんな苦労を聞かせてもらうんですが、まず発想が難しい。発想できてもそれをカタチにするのも難しい。カタチにできたら、応募するために作品を紹介する動画を作らないといけないから難しい、とか。長い方で数年の制作期間を経て応募いただいたり、本当に苦労して参加いただいているんだと、知れば知るほどありがたい気持ちでいっぱいです」と言う茶園さん。そう、作品のことはもちろんのこと『ソレコン』参加者の事情や苦労話に、やたらと詳しいのだ。「『ソレコン』の参加者さんとは、メールやSNSで日常的にやり取りをしているんです。『飯塚は、桜の季節ですが、そちらはどうですか? 』とか、大雨のニュースを聞くと、その地域に住んでいる方には『そちらの雨は大丈夫ですか? 』とか。なんてことない話なんですけどね」と返ってくる。「応募いただく作品をみると、どんな人がどんな気持ちで作ったんだろう? って、その人のことが気になるんです。だから、こちらからいろいろ聞いたりして、参加者の人柄に触れて、仲良くなれるのが、担当していて実は一番楽しい部分です」。
 作品を通じて、その先にある人に興味を抱き、企業と人が実際にコミュニケーションをとって継続的に関係性を作る。それが「ソレコン」の、もう一つの大きな特長である。そのきっかけは「第2回ソレコン大賞を受賞した論文まもるくんに出会ったことです」と振り返る茶園さん。「私が担当することになって最初の大会の大賞作品なんですが、『何をどう考えたら、ここに行き着くんだろう? 』って、最初に見た時から、その興味が湧いてきて。実際にアイデアノートを見せてもらったんですが、実は、たくさんのアイデアの中から、ここにたどり着いたことがわかって、『ものづくりの人っておもしろい』って思えるようになったんです。それ以来、参加者の方とのやりとりが日常的に続くようになりました」と茶園さんは教えてくれた。

個人のものづくりを世の中に押し上げてくれる舞台

 今の『ソレコン』の文化を作るきっかけとも言える、茶園さんと『論文まもるくん』との出会い。その制作者は河島晋さん。現在はピノー株式会社でロボティクスエンジニアとして活躍している。
 『論文まもるくん』は、キーボードの左側に置かれて、キーボードが一定時間触れられなかった時に、それをセンサーが感知すると、2つのソレノイドが取り付けられたアームが出てきて、キーボードの“Ctrl+Sキー” (保存のショートカットキー) を時間差で押下してデータを自動的に保存してくれる装置。文章では伝わりにくいので、ぜひ動画で見て欲しい。「アイデアは、北九州工業高等専門学校の4年生の時の実体験からです。3時間分くらいのコーディング作業が (保存しないまま) 全部消えてしまったんです。それで、自動で保存してくれる装置があればいいのにって、友だちと笑いあって。そこが出発点です」と振り返る。
 “理数系の甲子園”と言われる『アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト (高専ロボコン) 』で、2002年大会で優勝した北九州高専に憧れた河島少年 (当時小学5年生) は、その初期衝動そのままに、北九州高専に進学。5年制の本科卒業後に九州工業大学に編入学してレスキューロボットの研究に没頭。ついに大学院に進み水中ロボットの研究をしながら、大学院1年生の冬に、高専時代のアイデアを『論文まもるくん』というカタチで世に送り出す。…研究内容と『論文まもるくん』とのギャップがあまりにも大きくないですか? 「もちろん研究や学業がメインですが、『ソレコン』は気まぐれというか、趣味というか (笑) 。バカバカしいことを一所懸命やる、まぁ技術の無駄使いですよね。データの保存忘れを防ぎたいという課題に対する最適解は、そのためのソフトウェアを開発することでしょう。でも、目に見えない電気信号やソフトウェアの働きを、具体的な“動き”でわかりやすく見せられるようにしたかったんですよね。『ソレコン』って、タカハ機工さんのソレノイドを使えば何をつくってもいいという楽しさというか、それが一番難しいんですが『自分で課題を見つけなきゃならない』んです。ソレノイドに何をさせるか? その課題設定から自分で考えなきゃならない。それは、技術だけではない、今日的にエンジニアに求められているもので、とても重要なテーマだと思います。僕は、誰かが困ってたり不自由な思いをしているのを、ロボットの技術を使って解決したいと考えて活動をしていますので、『ソレコン』と相性が良かったんだと思います」と河島さんは言う。

ピノー株式会社ロボティクスエンジニア 河島 晋さん

 最初は、応募者と運営者の関係で、コンテストの事務的なやりとりから始まった茶園さんを「もはや完全に友だちですね。普通に飲みに行ったりしますもん」と笑う河島さん。「不思議なんですよね。なぜか『ソレコン』の人たちはみんな仲良くなるというか、応募者と運営者みんなでコミュニティを作っている感覚になります。技術力の優劣を比べているわけではなく、お互いの作品の良いところを尊敬しあいながら、好きなもの作ってる者同士、趣味の連鎖みたいな感じで、先輩後輩の縦の関係も横の関係も自然に繋がっていくんです。実際、第4回大会は後輩たちに負けてますしね(笑)」。第2回大会で『論文まもるくん』で大賞を獲った河島さんは、元王者のプライドをかけて第4回大会に『アトゴフンダケ』を出品。“狙って”大賞を獲りに行ったものの、北九州高専卒の後輩チームが大賞に輝いた。 ※河島さんの『アトゴフンダケ』の詳細はこちらの動画からどうぞ
 「第2回で『論文まもるくん』が大賞を獲った後、第3回から作品の応募がグッと増えたんだそうです。『ソレコン』は、個人レベルのものづくりの人を世に出してきたコンテストだと思うんです。自分の作りたいものを作れる、それを他の人に見てもらえる環境になってきた。その舞台をタカハ機工さんが構築し続けているんだと思います」と河島さんは語ってくれた。ちなみに、すでにお気付きの方もいるかもしれないが、この『論文まもるくん』は、河島さんの共同開発者で2歳下の後輩にあたる酒井さんが、開発当時に使っていたキーボードに合わせて設計されているので、“その”キーボードでしか上手く機能しないそうだ。そんな話も、『ソレコン』ならでは。
 

  • 全自動論文保存機『論文まもるくん』
  • 全自動二度寝支援装置『アトゴフンダケ』

 ところで茶園さん自身は、作品の制作はしないのだろうか? 「う〜ん。発想するまではできるんですが、作るのがちょっと (笑) 。なので『こんなのあったらいいと思いませんか? 』って参加者の方に投げかけて、作ってもらう作戦です (笑) 。皆さんからは『じゃあ、自分で作りなさい』って言われますけどね。こんなふうに、社外のものづくりの人たちとつながっていられるのは、会社の財産でもあり、私自身の大きな財産でもあるので、大切にしていきたいと思います。『ソレコン』発で具体的な商品を世に送り出すことが、今の目標です」。

スタートアップファクトリーとして

 ものづくりの世界、特にスタートアップには「量産化の壁」という言葉がある。革新的なアイデアをカタチにするところ (原理試作) まではたどり着くものの、それを量産する仕組みや生産設備が整えられず、事業化が困難な状況を指す。その解決策として、経済産業省が立ち上げたのが「Startup Factory構築事業」である。優れた技術や製造体制を持ち、スタートアップの量産に向けた試作・設計の支援拠点にふさわしい事業者が選定されており、タカハ機工もそのうちの一社に名を連ねる。
 金型からプレス、切削、成形、組立の一貫生産システムにより、部品からすべてを社内で生産する工場を持ち、『ソレコン』の運営をはじめ、学生・若者のものづくりスタートアップを支援する社風が醸成されたタカハ機工は、文字通り「Startup Factory」と呼ぶにふさわしい。具体的には、ものづくりを志す若者たちのコミュニティ形成のベース(基地)としての「TAKAHA INNOVATION PARK (TIP )」と、実際に作業をする工房としての「MVP ROOM」を、本社敷地内に開設し、日々さまざまなプロジェクトが進行している。

  • 明るい雰囲気のTAKAHA INNOVATION PARK(TIP)
  • TIPのある建物はレンガの外壁が目印
  • 製作に必要な設備が整うMVP ROOM
  • MVP ROOMはTIPに隣接している

 たとえば、ロボット・玩具の製品開発を手掛けるバイバイワールド株式会社と協働で量産化した拍手ロボット「ビッグクラッピー」。バイバイワールド代表の高橋征資さんは、学生時代からタカハ機工のソレノイドをネットで購入し、自分の作品に活用していた。ある日、「とあるベンチャー企業さんが、ネットショップで頻繁にソレノイドを購入してくれているけれど、一体どんな会社なんだろうな」と思った茶園さん。その企業のホームページをのぞいてみると「めちゃくちゃ面白い、あの赤いロボットがドーンと出てきて(笑)。『これ、なんやろ〜』って。それがウチのソレノイドを使って作られているって知って」。さっそく、茶園さんは大久保取締役に相談し高橋さんとコンタクトを取ると「実は量産化するための工場を探していらっしゃるとのことでしたので、ご一緒させていただきました」とのこと。
 実はこのエピソードが、タカハ機工の魅力を象徴している。単に外に開いただけでは、さまざまな才能と繋がることはできない。「こっちから引き込むんです(笑)。私、『好きな人に、好きって言いなさい。会いたい人に、会いたいって言いなさい』って、社員によく言ってます。やりたいことは口に出す。ちゃんと神様が聞いてますから」と言う大久保取締役の言葉を見事に実行している。外に“開いて”会いたい人を“巻き込む”。つまりは、それが“魅せる工場”ということの本質なのかもしれない。

茶園さんとビッグクラッピー

「一生働きたい」と思える工場を目指して

 ここまで、顧客、および関係先への“魅せる工場づくり”を紹介してきたが、従業員に魅せる取組みも特徴的だ。大久保取締役の言葉を借りるなら、目指すは「社員が“一生働きたい”工場」である。特に、従業員の約8割が女性であることから、女性の働きやすさは重要なポイント。創業以来改装していなかった古くて暗いトイレを、女性従業員の視点を活かしてコミュニケーションの場に変えた「女子トイレプロジェクト」などは、その代表的な取組みと言える。
 中でも特筆すべきは、大久保取締役をして「ここ10年の改革で一番の成功事例」と言わしめる「Takaha Kids Room」、つまり企業内託児所だ。幼稚園に上がる前の小さな子どもを抱える共働きの子育て世帯において、子どもの保育園問題は大きな課題となっている。認可保育園は利用料は安いが、希望の園にはなかなか入園できず、一方で認可外保育園は、条件は良いけれども利用料が高額というケースがほとんどだと言われている。「工場の仕事は技術の継承が必要で、特に熟練のパート従業員から若い世代へと継承しなければなりません。それが女性の場合は、妊娠・出産で一旦離職してしまうと、子育て期に復職できずに技術継承が途絶えてしまうケースが多くあります。それをなんとかしたかった」と大久保取締役は言う。そこで企業内託児所を独自に開設・運営することを決めた。

  • 「Takaha Kids Room」保育士 吾妻加奈さん
  • タカハ機工株式会社 鎌田良美さん

 「Takaha Kids Room」を開設したのは、2017年のこと。工場で働くパート従業員の子どもで、幼稚園に上がる前の0~2歳児を対象に、最大5名を預かる。開設時からスタッフとして常駐するのは、保育士の資格を持つ吾妻加奈さん。「以前、保育園で働いていた時は、日々のプログラムがあって、1人で10~20人の子どもたちをみていた感覚がありました。ここでは、最大で5人だし、時間に追われることもないので、一人ひとり、こまやかにみてあげられます」とのこと。吾妻さんによると、飯塚で託児施設を持つ一般企業はほとんどなく、ましてや工場となれば「タカハ機工だけだと思います」とのこと。
 4月に入社したばかりの鎌田良美さんは「託児があるから、ここで働くことを決めた」そうだ。「保育園は、数はあるけれど保育時間とか、場所とか、自分が働くことを考えると希望に合うところが見つからなくて…。幼稚園に上がれば、だいぶ楽になるんですが、今の時期が本当に大変で。だから、職場に託児所があるのは、本当に助かっています」と教えてくれた。「パートさんの勤務時間が9:00〜16:00なので、託児も同じ時間です。お昼は、お母さんが帰ってきて一緒にご飯を食べてくれます(吾妻さん)」。「何かあったらすぐに顔を見に行ける距離だし、一緒に出勤して一緒に帰れるので安心です(鎌田さん)」。「託児所がなかったら、私は働けなかった」と言う鎌田さんの笑顔こそ、「Takaha Kids Room」の意義を言い表している。

ものづくりに取り組む学生と社員を幸せにしたい

 大久保取締役と話していると、ソレノイドで繋がる“ものづくり”系の若者たちのことを楽しそうに語ってくれる。「やっぱりものづくりは楽しいですよ。だから、作った人を幸せにしたい。ものづくりを志す学生を育てたい。ものづくりに真剣に向き合う社員を育てたい。ウチはソレノイドしか作れないけど、社外にはものづくりで繋がる協力者がいっぱいいる。だから、いろんな商品に展開できる。それが一番の強みだと思います」。その想いが、タカハ機工のチャレンジを支えている。

 最後にSDGsについて。「私、SDGsってあんまり好きじゃないんです(笑)。最近の流行みたいに、その言葉に踊らされるのが嫌いで。ウチは、ものづくりの学生を育てることと、働きがいのある職場づくり。だから4番と8番のゴール、『そんなこと(SDGsができる前から)元々やってたましたよ』って感じです。17のゴールには、特別なことはなくて、当たり前のことしか書いてない。だから、SDGsは自分たちのやっていることを見直す指標としては有効ですが、要は“やる”か“やらないか”ってことでしょ」という大久保取締役。その行動力と、周りを巻き込む力とは、つまりSDGsの5つの主要原則に挙げられる「参画性」と「包摂性」そのものである。