SDGsなプロジェクト

九州の企業が取り組むSDGsプロジェクト

良いものを作れても売るチカラが無ければ値段がつかない。売り口があれば農業生産はついてくる。

Last Update | 2022.02.28

アトム株式会社

アトム株式会社
住所:福岡市東区松島5-17-25
TEL:092-622-9144
http://www.e-atm.co.jp

  • 飢餓をゼロに
  • 働きがいも経済成長も
  • つくる責任つかう責任
  • パートナーシップで目標を達成しよう

地方でも“働ける機会”を創る6次産業化

 いわゆる6次産業化とは「一次産業としての農林漁業と、二次産業としての製造業、三次産業としての小売業等の事業との総合的かつ一体的な推進を図り、地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組」として、2010年12月に交付された「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(六次産業化・地産地消法) の前文で定義されている。つまり一(次)×二(次)×三(次)=6次である。6次産業化により、地方の農林漁業者と中小企業者とが連携して新しい事業を創出することで、地方でも“働ける機会”の創出が期待されている。
 6次産業化において農林水産大臣に認定を受けた総合化事業計画の認定数は、2011年5月の第1回認定以降増加傾向にあり、2021年12月末現在で約2,601件だが、認定の可否にかかわらず、残念ながら事業化に失敗した例も多い。失敗例の多くは、一次産業事業者が余った原材料を活用して“作れるから商品化する”ケースで、作ってからどのように販売していくかを考えるスタイル (プロダクトアウト型) だ。反対に一般生活者のニーズを汲みとって、自社の強みを生かして“売れそうな”商品開発を行うスタイル (マーケットイン型) の場合は成功例が多いと言われている。もちろん圧倒的な差別化ができる商品を開発できるならばプロダクトアウト型で成功するケースもあるが、いずれにせよ一般生活者の満足度を高められる商品やサービスを市場に投入できるかどうかが6次産業化の成功のカギと言える。

  • 総合化事業計画 地域別の認定件数 (農林水産省 2021年)
  • 総合化事業計画 年度ごとの認定件数/累計 (農林水産省 2021年)

 今回ご紹介するアトム株式会社は、食肉加工卸業を軸に「和心とんかつ あんず」「あんず お肉の工場直売所」などを一般生活者向けに展開し、食肉の輸入輸出や食肉小売業、外食店鋪運営など、食に関する幅広い分野を事業としている。食肉加工卸業の視点から、一方で生産者保護と支援、一方で安定した食肉販売量の確保と、食にまつわる川上から川下までをカバーして、安心・安全で良質な食文化の創造を目指している企業だ。その取組みには、まさに食の6次産業化を成功に導く大きなヒントが隠されているように感じる。

アトム株式会社 本社

農業を絶やさないために誰かがやらなければいけない

 「一次産業は基本的に難しいビジネスモデルなんです。市場で値段がつけられてしまう仕事。仮に100円のコストをかけて作った品物が、市場で“その時”の相場で80円で売られてしまうと、もうそれで赤字です」と語るのはアトム株式会社 代表取締役 花田利喜さん。「うちのとんかつ屋 (和心とんかつ あんず) では群馬産の豚肉を出していて、一緒にやってもらってる養豚農家を抱えているんだけど、もう25年くらい一緒にやってますね。『絶対、赤字にならないようにやりましょう。そのために僕らがうまくやります』って農家の皆さんを口説いて始めました。まずは取り引きする価格を決めましょうよ。市場相場ではなく年間安定価格にして (買取り) 価格をフィックスしましょう。もしその間で極端に相場の値段が上がったら、次の買い付けの時にその分をプラスして調整します。だから、僕らが欲しいと思う良い豚を育ててくださいって。そんな取組みをず〜っとやってます。なぜそうするかって? 農業を絶やさないためには、誰かがそんなことをやらないと、農業は生きていけないからですよ」と、花田さんの言葉に熱が宿る。
 「豚は群馬ですね。九州なんだから、普通は鹿児島、宮崎なんですが、いろんなブランドをテストしても、やっぱり群馬には及ばない。気候風土が豚にあっているのかな? って感じてます。僕は、超高級なブランド豚は作りたくない。誰もが食べられる価格で『おいしいね、甘いね、旨いね』って言ってくれるような品質で、それが通常の1割、2割増くらいの価格で作れるんだったら、おいしい豚を作りましょうよって。僕らは年間安定価格でそれを買うから、通常の豚では価値がない。そこにプレミアをつけるための努力をしてほしい。ちょっと品質にこだわりましょうよって養豚農家の人には言ってきていて、そこに賛同してくれる農家さんを抱えています。それで、いい豚肉ができて僕らも市場価格よりも高く買って、最初の頃はプレミア商品としてスーパーさんやお肉屋さんに売り込んだんですが、既存の流通ではあまり取り扱ってもらえなかったんですね。だったら自分たちでとんかつ屋をオープンして、レストランでお客さんに直接食べてもらおう。そこで、このブランド =『上州豚とことん』のファンを確実に増やして回せていける仕組みを作ろうって、そうやって生まれたのが『和心とんかつ あんず』ですよ。良い生産者を抱えて、競争優位なオリジナル商品を作って、それをきちんと売り切る仕組みを作ろう、それが僕らのテーマですね」。

アトム株式会社 代表取締役 花田利喜さん

 「豚は群馬ですが、牛は宮崎ですね。『上州豚とことん』はとんかつ屋で出してファンを作り、『宮崎牛』は直売所 (あんず お肉の工場直売所) で取り扱ってファンを伸ばしていますね。僕らが扱うのは宮崎牛のA5もしくはA4ランクのみ [註1]。実は、いわゆる“質の良い肉”を作る生産者は全国的にも増えていて、宮崎牛で言えば、県や経済連、家畜改良センターなどいろんなところが研究に研究を重ねて、宮崎牛は日本一を3年連続で維持しています [註2]。逆に言うとA5の最高級和牛の発生率が高くなっていて、でもスーパーさんやお肉屋さんとかが市場で買い付けられるのはA4とかA3くらい。仕入れの単価が高いから、それ以上は店頭での販売価格が高くて売れない。それで一般では売り切ることができないA5ランクを僕らが引き取ってウチの直売所に出したり、海外に輸出していたりしています。特にアメリカには年間で150頭分くらいの宮崎牛を、僕らが日本から送っています。それはアメリカでは宮崎牛というブランドの価値を知っていて、多少高くても買い求める一般生活者たちがいるからなんですね。僕らは、群馬産の豚肉と同じで、宮崎牛も (日本の) 一般のお客さまにこそ一番旨い和牛を食べてもらいたいって思うんです。たとえば百貨店とかで100gで2,000〜2,500円の値段がつく宮崎牛のA5が、ウチの直売所ならロース100gが680円で買えるんです。それは安売りをしているのではなく、まずは食べてもらうきっかけを作らないと、この和牛の市場が国内で育っていかないと思うから。その値段で出せるように生産者の人たちときちんと話をして出せる仕組みを作っています。A5の宮崎牛を、仮に高級レストランで食べてしまうと、さらに値段は跳ね上がって30,000〜40,000円出さないと食べられないってなる。それはちょっと違うんじゃないのって。生産者も僕らのような卸しも販売店も、誰もがきちんと利益が出せて、それでも和牛のおいしさを、一般の人に知ってもらえる仕組みを作らないと拡がっていかないですよ」と花田さんは語る。後に触れるが「あんず お肉の工場直売所」に行くと、ちょっと上質な輸入牛くらいの値段で、さまざまな部位とカットで宮崎牛が売られている。初めて見た人は「これ本当に宮崎牛なの? 」と驚くが、それがこの店では当たり前なのだそう。

 [註1] 牛肉の等級は歩留 (ぶどまり) 等級を示すアルファベットと肉質等級を示す数字で表される。歩留等級はその牛からどのくらい商品となる牛肉が取れるのかを評価したもので Aが最上位。肉質等級は牛肉の色つや、キメや脂肪の入り方などを総合的に評価したもので 5が最上位。A5は、商品となる牛肉がたくさん取れて、牛肉の色つや、きめが良く、脂肪が多く細かい肉を指す。日本人は霜降り肉を好む傾向が強いためA5ランクの牛肉が最高級とされ高値がつく。
 [註2]  公益社団法人全国和牛登録協会が主催し、5年に1度開催される「全国和牛能力共進会」。和牛の優劣を競う全国規模の品評会で別名「和牛のオリンピック」とも言われる。その大会において、宮崎牛は、第9回 (2007) 〜第11回 (2017) の3回大会連続で、最高位の名誉賞である内閣総理大臣賞を受賞している。第12回大会は2022年10月に鹿児島県で開催予定。

自社で農場を運営することで得られる価値とは

 花田さんの「良いものを作れる人がいても、消費できないから正しい値段がつかない。まずは売るチカラ。売り口があれば農業生産はついてくる」という考え方を象徴する事業のひとつに、福岡県福津市で運営する自社農場「農事組合法人とことんファーム」がある。敷地面積75ヘクタールの土地で米や野菜を栽培し、毎朝採れたてを自社のレストランや直売所に供給している。「僕はもともと農家の長男ですから。その家業をどう後世に繋いでいくか、先祖代々の田畑を整備し、ものを作っていくかって考えたときに、やっぱり農業は高齢化しているので、放っておけば荒地になるだけ。なんとか、その生産機能をわが社の事業の中に取り込めないかってのが始まりです。米や野菜も、豚や牛と同じ。地元の農家が手をかけて作ったものを、僕らがしっかり買い支えて、それをウチのレストランや直売所で出せば、地元で採れた米や野菜は、そりゃあ新鮮でおいしいよねって、お店の付加価値にもなる。それを繋いでいけば、みんなが回るかなって。それを自社でやれる範囲でやっていますよ。あとね、ウチの会社の新人たちは、入社すると必ずとことんファームに行かせて、2日間は泥まみれになりますよ (笑)。ウチのコたちには“お客さまに伝えるメッセンジャー”なんだから、なぜ僕らがこんなことやっているのか? なぜとんかつがおいしいのか、なぜキャベツがおいしいのか? それを理解してお客さまに伝えなさいって言ってます。朝一番、まだ寒い時間に畑のキャベツに包丁を入れると、バリバリって音がする、バリバリって“鳴く”んですね。その体験を、その鮮度感をお客さまに伝えられるかどうか。ウチの店ではそれを朝イチで採ってきて出してますって伝えられるか。そのためにはファームの現場で、それを体験しなきゃなりません」。キャベツが鳴くー そう語る花田さんは、どこか嬉しそうでもある。

有限会社とことん 宗岡正輝さん

 「僕が (とことん) ファームに来て1年半くらいです。入社して10年になりますが、ずっと (あんずの) お店で働いていて、店長をやってました。その頃は年に数回しかファームに来ることがなかったんで、最初はおどろくことも多かったですよ。正直、キャベツとかは畑に植えたら2〜3日に1回くらい見回ればいいくらいに思っていたんですが、もう毎日ちゃんと畑に出てしっかり人の手で管理しないと大変なことになりますもん」と笑うのは有限会社とことんの宗岡正輝さん。有限会社とことんは、農事組合法人とことんファームの作物を買い取り、アトム株式会社が運営する飲食店や直売所に卸す会社で、宗岡さんはファームとの兼任となる。「基本は (あんずの) お店や直売所で必要とされるものを減農薬で作っています。米、キャベツ、レタス、水菜、小松菜、大根など10数種類ですね。売り先が確実にあるものを作るので、採算面では安心ですね。せっかく手間ひまかけて作っても買ってもらえないとか、安く買い叩かれる不安がないのは大きいですよ。農家を育てるのは、買ってくれる人がいることが大事で、行き当たりばったりで (作物を) 作ってるわけじゃない。たとえばキャベツの値段が (市場で) 高騰する時季って必ずあるんです。季節的に数が少ない時季ですね。ウチはここのファームで自分たちで作って自分たちのお店に一定の価格で卸しているので、その時期はお店側の原価が抑えられます。まあファーム側から言えば、もっと高く買って欲しいってのはありますが、ファーム側で利益を取るのではなく、お店でお客さまに良いものを少し高く売ってもらえれば、僕らにも利益が回るカタチなんで、それがいいのかなと思います」と宗岡さんは言う。

  • とことんファームの様子。この日はちょうど稲刈りも行われていた。

 「僕はおかげさまでお店のこともファームのことも、両方わかるので考えることはいろいろありますよ」と宗岡さんが続ける。「お店側から言えば、野菜のことをファームの担当者に気軽に聞けるんですね。季節によってはどうしても野菜が減る時季があるから、ファームで作った分だけでは十分な量が賄えない時があります。そんな時は、ウチは地産地消なんで、地域の生産者の方ともネットワークがあるので、その方々が作ったものを買うこともあって、お店側で (その野菜が) 欲しいタイミングを相談したりしてました。ファーム側から言えば、より良いものを作るにはタイミングって必ずあるので、それはお店が欲しいタイミングに合わない場合もあるんですね。具体的に言えば (作物の) 出始めの頃と終わりがけの頃は、どうしても数が少なくなる。ウチはお店とファームとが連携できるので、その辺りのタイミングをなんとか合わせて、お店で出すものを全部ファームで作ったもので賄えないかなぁって考えています。ウチは6次産業なんで、作るところから一貫して良いものを、しかもちゃんと納得いただける価格でお店で出したいなって思います」。

農事組合法人とことんファーム

一年中価格を変えない。それは肉の旨さを認知してもらいたいから。

 続いて、アトム株式会社の“売るチカラ”をのぞいてみる。工場で加工された肉を直接販売する直売所「あんず お肉の工場直売所」は、全国に12店舗 (関東圏に3店舗) を展開している。取材に伺ったのは那珂川店。福岡市の南側に位置し、2010年に人口5万人を突破し、那珂川町から単独で市政に移行した那珂川市にある店舗だ。古くから暮らすシニア層に加え、近年では子育て世帯の流入も増え、幅広い客層が見込まれるエリアだ。「取り扱うアイテムとしては、牛肉は宮崎産のA5等級の宮崎牛、豚肉は『和心とんかつ あんず』で出している『上州豚とことん』と『林さんちの美味しい豚』を、一年中ロープライスで出しています。特売はしないので広告も打ちませんが、お客さまにいいお肉を安く提供したいという思いから、一年中安い価格が変わらないのが特徴です』と語るのは那珂川店の伊規須 (いぎす) 太祐店長。

あんず お肉の工場直売所 那珂川店

 「肉の相場は当然ですが変動します。それでも年中販売価格を変えないのは、業界的にみればあり得ない話だと思います。それも高値で変えないのではなく、ウチは安値で変えない。感覚的には宮崎牛のA5等級で、百貨店の半額から1/3くらいの値段で販売しているんじゃないかと。そりゃ店の運営を預かる者としては (価格は) 上げられるんなら上げたいですよ (笑)。でもそこは社長の信念というか、お客さまに宮崎牛の旨さを認知してもらいたいので、この価格でやってます。僕は入社10年になりますが、牛肉の販売価格はほぼ変わってないんじゃないかな」とは伊規須店長の話。食肉卸の直営店であるだけでなく、宮崎牛は一頭丸ごと買い付けることで仕入れコストを抑え、業界的には“ありえない価格”を実現しているのだそう。とは言え、一頭買いするということは、牛のあらゆる部位を売る必要があるという意味で、それでもきちんと売れていくのだそう。

あんず お肉の工場直売所 那珂川店 伊規須太祐店長
那珂川店の店内にはさまざまな肉と部位が並ぶ

 さらに“売るチカラ”の秘密は、肉の質と値段だけではない。店内に並ぶ商品の多彩さと品質も大きな集客力を発揮している。「そうですね、鮮魚以外は全部あるんじゃないかと(笑)。社長の目利きで全国からいろんな良いものを集めて来るんです。福津の生産者の方が作った蜂蜜とか、とことんファームで作ったお米や野菜、もちろん地域の農家さんが持ち込んでくれる野菜とか、調味料系もかなり充実させてます。あと惣菜は全部お店で手作りしています。コロッケも冷凍のものを揚げるんじゃなくて、お店でジャガイモを潰すところから作ります。お客さまがお店に来て『今日の晩ごはんどうしようか? 』ってときに、だいたいお応えできるような品揃えと品質だと思います」と語る伊規須店長。店内には小さな子ども連れの母親や、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に三世代で買い物に来ている大家族なども見かけられ、近隣に大手スーパーマーケットもある中で、地域の方々からしっかり支持されているのが見て取れる。「大切にしているのはお客さまとのコミュニケーションですね。ウチは肉の種類も部位もたくさんありますから、店内に出るとだいたいお客さまから声をかけられますね (笑) 。僕らの方から『今日は何をお探しですか? 』とか声をかけることもありますよ。そんな会話の中からお店のファンを作っていけるように努めています」。

 最後に花田社長との話の中で印象的なエピソードをひとつ紹介する。「群馬の養豚農家さんともう25年も一緒にやってるとね、やっぱり世代交代ってあるんですよ。そんな中でね、ある農家さんから『息子が (都会から) 帰ってきて養豚やるって言うんで (出荷量を) 増量していいか? 』って聞かれまして。息子さんが『養豚が儲かる』って気がついたんですよ。これは嬉しかったですね。最初っから思いを一つにして頑張ってきた仲間だから。おいしいものを正しい価格で作りたい、けれど理解者がいないって悩んで一緒にチャレンジを始めて。それに一番身近な息子さんが理解して後を継いでくれるってなった。僕らのやってることは間違ってないのかなって思いましたね」。