SDGsなプロジェクト

九州の企業が取り組むSDGsプロジェクト

問題なのは素材か? 使い方か? プラスチック製品をめぐるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の確立に向けて。

Last Update | 2023.02.27

マルソー産業株式会社

マルソー産業株式会社
住所 : 福岡県北九州市門司区新門司3-60-2
TEL : 093-481-1122
https://www.maruso-industry.com

  • すべての人に健康と福祉を
  • つくる責任つかう責任
  • 海の豊かさを守ろう
  • パートナーシップで目標を達成しよう

プラスチック資源循環に関する新法

 2022年4月1日、昨今の社会課題解決に向けた意識の高まりを受け「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(略称 : プラスチック資源循環促進法) が施行された。主幹となる環境省では特設サイトを開設し、事業者に対しても消費者に対してもプラスチックの利用に関する啓発を進めている。キャッチフレーズは『プラスチックは、えらんで、減らして、リサイクル! 』である。コンビニエンスストア各社がプラスチック製カトラリーの素材やデザインを変更したり、飲食店でプラスチック製ストローの素材を変更したりするなどの動きは、このプラスチック資源循環促進法の施行を受けての対応と言える。各種メディアではプラスチックを減らす取組みがクローズアップされるケースが多く、“プラスチックは悪者”というイメージが発信されているように感じるが、問題の本質はプラスチックそのものなのか? それとも使い方・使われ方なのか? 

プラスチック資源循環促進法 特設サイト (環境省)

 プラスチック資源循環促進法は、大きく3つの柱からなる。① プラスチック製品等を設計・製造する事業者に対し環境配慮指針を定め、 指針に適合した製品を認定し支援する。② ワンウェイプラスチック (一度だけ使われて廃棄されるプラスチック製品) を提供する事業者に対し基準を定め、指導や助言、勧告、命令などを行う。③ 市町村や事業者に対しプラスチックの排出や回収、再資源化に関する基準を定め、支援や指導を行う。つまり、環境に優しいプラスチックを『えらんで』、使い捨てプラスチックを『減らして』、積極的に『リサイクル』しましょうというもの。特に、プラスチック製品の製造や提供をおもな事業とする企業にとっては、事業の在り方に具体的な影響を及ぼす新法と言える。
 今回ご紹介するマルソー産業株式会社 (以下、マルソー産業) は、北九州市門司区に本社を構えるプラスチック製ハンガーやクリップの製造および販売を行う企業。クリーニング店で使われるプラスチック製ハンガーの全国シェア50〜60%を誇る業界最大手だ。プラスチック資源循環促進法の施行で、いわば業界的には逆風にさらされる中、だからこそプラスチック製ハンガーの製造・販売を通じた環境負荷軽減に積極的に取り組んでいる。マルソー産業の取組みからは、プラスチック業界では想像以上にサーキュラーエコノミー [註1] が進んでいることに気付かされる。
[註1] 循環型経済の意。従来は廃棄されていた製品や原材料などを「資源」と考え、リサイクル・再利用などで活用し資源を循環させる経済システム。対義となる言葉はリニアエコノミー = 直線型経済。「資源の抽出→製造→消費→廃棄」という一方向のみの流れで、最終的に大量の廃棄物を生み出す経済システム。 

マルソー産業株式会社 本社

プラスチック製ハンガーのパイオニアとして

 「一般的なクリーニング店で使われているプラスチック製のハンガーは、弊社が最初に開発して製造を始めました。その関係もあって、正確な統計はないんですが、国内シェアで言えば50〜60%くらいにはなると思います」と語るのはマルソー産業株式会社 代表取締役 三浦政景さん。創業は1975年とのことで、およそ50年ほど前。「ウチの父が創業者なんですが、工業製品の金型を造る技術を持っていたことから、最初はタオルとかスカートとかを挟んで保管するような、プラスチック製のクリップを製造してスーパーの店頭なんかで販売をしていました。プラスチック製のハンガーを始めたのは、創業して5年くらい経った頃だったそうです。当時のクリーニング屋さんでは、仕上がった衣類は綺麗にたたんだり、針金製のハンガーにかけたりして (お客さまに) 返していたようです。そもそもクリーニング屋さんは、お客さまの家の近くに店を構えて、培った技術を使ってサービスを提供する職人気質の小規模事業者が大多数だったんですが、80年代から90年代初めにかけて、大規模な工場を持ったチェーン店が出現してきたんですね。そういう規模の大きな工場だと、巨大な洗濯機で化学溶剤を使って洗われた衣類は、そのあとはハンガーにかけられてハンガーと衣類が一体になってコンベアーを流れていって、巨大なトンネルみたいな機械を通って乾燥されたり、シワをとられたりするんですね。そうなるとハンガーも、その工程に合うようなものが必要になります。洋服と一緒に乾燥機に入るので100℃以上の耐熱強度が必要だったり、蒸気も浴びるので鉄製 (針金) だと錆びてしまう。そうして工場の自動化に合わせてハンガーも進化していくと、自然とプラスチック製ハンガーが主流になっていったわけです。それに加えて、洋服のトレンドと言うか、時代の移り変わりによって人気のデザインというものがありますので、ひと口にハンガーと言っても、実は多種多様なものが必要で、ウチで言えばざっと250種類くらいの商品が常時稼働しています」と三浦さんは教えてくれる。

マルソー産業株式会社 代表取締役 三浦政景さん

 一方で、個別のクリーニング店の立場からはどうだろうか? 「プラスチック製ハンガーを販売し始めた頃は、街のクリーニング屋さんでは針金ハンガーが主流で、しかもプラスチック製ハンガーは針金に比べて2〜3倍も値段が高かったんですね。ハンガーはクリーニング屋さんからするとコストなのでお金はかけたくない。ですから、私たちは最初っから、プラスチック製ハンガーは繰り返し何度も使えるということをウリにしていたんです。クリーニング店という商売は、その性質から、お客さまが少なくとも2回はお店に来てくれます。衣類を預ける時と引き取りにくる時ですね。しかもリピーターが多いという特徴もあります。一旦はハンガーを付けて (衣類を) 返すけれど『次、また (ハンガーを) 持って来てください』ってお願いすると持って来てくれる。それを消毒・洗浄して使えば、結果的に針金ハンガーよりも長持ちする。そのために、私たちはプラスチック製ハンガーの強度や壊れにくいカタチを研究して商品を開発して、“何度も繰り返し使える”ことでウチの商品の競争力や魅力を高めたいと考えました。だから環境問題を意識したというよりも、クリーニング屋さんのランニングコストを下げることを目標に、プラスチック製ハンガーは初めからリユースすることを念頭に置いていたんです」と語る三浦さん。今や、当たり前となったクリーニング店におけるプラスチック製ハンガーのリユースは、実は、こういう理由で拡がっていったのだ。こうして、クリーニング業界におけるハンガーは、プラスチック製が主流となっていったそうだ。

再生プラスチックを使わざるを得なかったワケ

 三浦さんの話は続く。「プラスチックは、ご存知の通り原油からナフサを取り出して、それを化学合成して作り出すんですが、ウチが1975年創業で、創業してまもなく第二次オイルショック [註2]  がやってくるわけです。もともと新参者の我が社は、第二次オイルショックの影響もあってプラスチックの原料が満足に買えない時期がありました。ちょうどクリーニング店のプラスチック製ハンガーの事業を本格化しはじめた頃とも重なって『さて、困ったな』となった先代に、とある業者さんから『再生プラスチックならあるよ』という話があったそうです。そんな流れで、ウチは初期の頃から再生プラスチックを使って製品を開発・製造してきたという歴史があります。再生プラスチックは、一度製品として流通したものを回収して、砕いて溶かしたものなんですが、そのままだと色がまちまちになるんですね。だから結果的に黒色にならざるを得ないし、強度がどうしても劣化するんです。見た目も強度も劣化する再生プラスチックを使って、きちんと実用品として使えるようにするには技術やノウハウが必要で、ウチではその積み重ねとネットワークで、今では我が社の製品の原料の95%以上が再生プラスチックです」。
[註2] 1978年10月~1982年4月にかけて起きた国際原油価格の高騰。OPEC (石油輸出国機構) が1978年末以降段階的に原油価格を大幅に値上げし、これにイラン革命やイラン・イラク戦争の影響が重なり、国際原油価格は約3年間で約2.7倍にも跳ね上がった。

 「再生プラスチックを活用するポイントは、同じ種類のプラスチックじゃないと難しいということなんです」と三浦さんは続ける。「プラスチックの原料は、ポリプロピレンとかポリエチレンとかポリスチレンとかさまざまでそれぞれに特徴があるんですが、いざ再生プラスチックとして活用すると考えると、同じ種類のもので再生するのが望ましいと考えています。違う原料のプラスチックを混ぜると、再生できなくはないけれど用途が限られてしまうんですね。最近では、植物とか石灰とかお米とか、異なる素材を使ったプラスチック製品も出始めていますが、それらは従来のプラスチック原料と混ぜて使われている場合がほとんどで、そうなるとリサイクルできないんです。ウチでも、最近、海洋廃棄物由来プラスチック (オーシャンバウンドプラスチック) を使ったハンガーの受注生産を始めましたが、これは海岸に捨てられていたプラスチックを使って作りますが、それでもポリプロピレン100%なんです。通常で取り扱っているウチのハンガーはクリーニング屋さんが使うハンガーなので、耐溶剤性の観点からもポリプロピレンしか使っていない。ですからウチのハンガーならば、それを集めれば100%再生に回せます。たとえば、原料の異なるプラスチック製品を再生事業者さんのところに持ち込んだら、事業者さんはまず、それを分別しなければならないんですが、それをやっていると (数字的に) 合わないんです。だから、プラスチックのリサイクルが成り立つかどうかは“分別”です。プラスチックとそれ以外、そして同じ原料のプラスチックかどうか、それをできるだけ手間もコストもかけずに分別できるかどうか? それが肝心です。クリーニングでプラスチック製ハンガーを使うと、何十回か使うと壊れたり、曲がったりします。それらは再生プラスチックとして展開できて、分別が行き届いているものなら再生プラスチック事業者に持ち込めば再生原料としてリサイクルできます。リユースというのが一番コストがかからず環境負荷が低い使い方で、そこに漏れたものはリサイクルできる。ウチの製品は、材料が手に入りにくいとかお客さま (クリーニング店) のコスト削減という理由でリユースやリサイクルの仕組みを作ってきましたが、実は、環境負荷が低い、とてもサーキュラーな仕組みになっていると思います」と語る三浦さん。ーでも、会社の売上的には新品が売れた方が良くないですか? と尋ねると「リユースしていくことでランニングコストが安くなる、それがウチの強みなんで、それはしょうがないですね」と笑って応えてくれた。

  • 創業時からの定番アイテム「スカート用クリップ」
  • 黒色ハンガーは100%再生プラスチック製の証
海洋廃棄物由来プラスチック (オーシャンバウンドプラスチック) で造られたハンガー ※中央の青色の製品

プラスチック資源循環促進法への対応

 さて、冒頭に紹介したプラスチック資源循環促進法の施行にあたり、マルソー産業を含めたクリーニング事業におけるプラスチック製ハンガーを取り巻く環境はどのように変化したのだろうか? 「私たちが展開しているプラスチック製ハンガーは (プラスチック資源循環促進法で) 使用量を減らしなさいという品目に挙げられているんです。実は、法律が施行される前、2021年の夏頃に、私たちの業界の組合と政府の担当窓口とで協議する会が立ち上がって、私もそのメンバーに入っていて協議を重ねたんです。今、お話したように、クリーニングで使われているプラスチック製ハンガーは、決して使い捨てではなく、むしろリユースとリサイクルを積極的に推進してきた歴史があって、現在はプラスチック資源循環促進法の趣旨に合致するような運用になっていることを、データを交えながら説明したんですね。それで窓口担当の方も理解をいただいて、結果的に、減量指定の品目からは外れなかったけれども、配慮をいただいて、環境負荷低減の取組みがすでに進んでいる業界として認めてくれました。そこで痛感したのは、自分たち業界からの情報発信が少なかったなぁと。実際はリユースとリサイクルが進んでいるのに、それが一般的には知られていない。それは私たち自身がもっと『こういう取組みをしています』と積極的にPRしてこなかったことにも原因があるんだなと。ですから、次に (プラスチック資源循環促進法が) 改訂される際には減量指定の品目から外してもらえるよう、きちんと情報発信していこうと考えています」と三浦さんは言う。

再生プラスチックの新しい可能性

 ひととおり三浦さんからお話を伺った後、事務所に隣接する工場を見学させていただく。製品の企画、設計、製造、梱包、在庫管理、出荷までワンストップで対応する工場だが、思った以上に“人の姿”が少ない。聞けば、通常は2〜3名で工程管理しているとのこと。「80年代から90年代にかけて、クリーニング業界で大規模な工場が増加するにつれてプラスチック製ハンガーのメーカーさんも増えて競争も激しかったのですが、今は、その競争も収束して全国でも同業者は5社程度です。プラスチック製ハンガーって、製品の付加価値が低くて一見簡単そうに見えますが、先にお話したように、一般にご家庭で使われるプラスチック製ハンガーに比べると、クリーニングの工場で使いやすいように求められる要件性能というのがあって、それを満たした商品開発が必要だけれども、一方でクリーニング屋さんのコストは圧迫できないので単価は安い。加えて、プラスチック製品特有の射出成形という製造法が設備投資が結構かかるし、なにより金型が高いんです。その投資を回収できるだけの“数”を作らなきゃならないので、いわゆる旨味の多い仕事ではないですね。一般的に、このテのものは中国製とか東南アジア製といった原価の安い輸入品に置き換わってもおかしくないんですが、ハンガーって基本三角形に近い形でしょ。それを段ボール箱に詰めてみると思いのほか“空気が多い”。つまり箱の中がスカスカなんです。これだと、商品単価に対して物流コストが高いんです。だから遠くで作って運んで来ては売れない。だから輸入品が入ってこれない業界でもあるんです。まあ、そんないろんな要件が重なって、今の状況なのかなと思います」。そんな三浦さんの説明を聞けば、さまざまなニーズにいかに少ないコストで対応していくか、その努力の積み重ねが透けて見えるようだ。

マルソー産業の製品の原料となる再生プラスチック
  • 金型 (左手前) を使った射出成形機
  • 成形されたプラスチック製ハンガーの数々
  • 製造から梱包まで一貫で対応している工場
  • 出荷のために梱包されたハンガー
徹底的な省力化により、工場の管理は通常時ならば2〜3名で行うとのこと

 そんな中、再生プラスチックの活用に強いマルソー産業ならではの、新しい展開も始まっている。感染性医療廃棄物専用のプラスチック製容器の製造・販売である。感染性医療廃棄物とは、医療関係機関等から出される廃棄物で、人が感染したり、感染する可能性のある病原体が含まれる廃棄物などを指す。その処理については環境省が定めるマニュアルが定義されていて、保管方法や廃棄方法など細かいルールがある。たとえば廃棄物の分別が「鋭利なもの」「固形状のもの」「液状または泥状のもの」の3種類に区分され、それぞれ内容物が飛び出さないようにプラスチック製の容器に入れて廃棄することや、その区分に応じて決められたラベルを貼る、移動時に廃棄物が漏れないよう密閉するなどが挙げられる。「これらの感染性医療廃棄物は、プラスチックの容器ごと焼却したり融溶したりして最終処分するのですが、その専用のプラスチック容器って、基本は白色のものが多かったんです」と三浦さんは言う。「じゃあ、なんで白いのかって言うと、病院のイメージというか、病院って全体的に白いでしょ。だから白色なんだそうです。ただ、白いプラスチック容器って、基本、再生ではない新品のプラスチックを使って作るんです。でもね、最初っから容器ごと燃やすことが決まっているプラスチックなんだから、再生プラスチックでよくないですか? ただ色が黒いってだけで、性能は一緒ですから」。そんなことから、再生プラスチックを使った感染性医療廃棄物専用のプラスチック容器の案内を始めたところ、次第に引き合いが増えてきたそうで、プラスチック製ハンガーに加え、大きな事業の柱になりつつあるそうだ。
 2050年までに海の中に存在するプラスチックの重量が魚の重量を超えるー海洋プラスチックごみの問題をわかりやすく表現したキーワードだが、身近にあるからこそ、その作り方や使い方、捨て方に注目が集まるプラスチック。問題の本質はプラスチックそのものなのか? それとも使い方・使われ方なのか? マルソー産業の取組みを知ると、今一度、きちんと考えてみるタイミングなのかもしれないと感じさせられる。

マルソー産業が製造・販売する感染性医療廃棄物専用のプラスチック容器。再生プラスチック製なので黒色。