SDGsなプロジェクト
九州の企業が取り組むSDGsプロジェクト
食品残渣を活用したバイオマス発電事業。その未来を拓く地域に根ざした循環型企業。
株式会社協和工業
株式会社協和工業
住所 : 福岡県朝倉市杷木星丸408-1
TEL : 0946-62-2765
http://www.kkyouwa.com
バイオマス発電の現在地
今回ご紹介する株式会社協和工業 (以下、協和工業) は、土木建設、解体、運輸、真砂土採集など建設業を主要業務として発展してきたが、2005年 (平成17) から始めた産業廃棄物の再生処理事業が、ここにきて新しい企業価値を生み出している。地域に根ざした循環型企業の在り方のモデルケースとも言える彼らの取組みを通じて、バイオマス発電事業の“現在地”に触れてみる。
課題解決のためにバイオマス発電にチャレンジ
創業は1971年(昭和46)。「最初は中古のダンプカーを1台買ってきて、建設用の土や砂利の運搬やら販売から立ち上がった会社です。そこから知り合いの勧めで、土木や建築の分野で仕事をもらえるようになって、土木関連の事業を中心に発展してきて、2005年 (平成17) から始めた産業廃棄物の再生事業と合わせると、今は、売上は半々くらいですね」と言う協和工業 代表取締役 山下正勝さん。「産業廃棄物のリサイクルもね、土木や砂利販売は雨降りは仕事ができないから、『雨が降ったら休み』ってわけにはいかないので、天候に左右されない仕事として始めたようなもので…」と朴訥とした語り口で話をしてくれる。
「産業廃棄物は、その出し方や運搬の方法、処理の方法が、細かく規定されています。ウチはその処理の中で、『再生処理』と言われるリサイクルを中心にやってきました。産業廃棄物を加工して、再度使える状態へと戻すことですね。木屑はチップにして木質バイオマス発電の原料に、コンクリートは建設現場の基礎材にリサイクルして販売するのですが、初期の頃から食品残渣のリサイクルも手がけていました。この地域には近くに食品工場などが点在しているけれども、食品残渣の中間処理業者がほとんど無くて相談を受けることが多かったんです。食品残渣と言っても、一般的にはカット野菜の野菜屑だったり、ジュース工場の果物滓とかが多くて、近所の工場から持ち込まれるものもあるけれど、佐賀県の鳥栖の工場からとか福岡県の古賀市の食品団地などからも持ち込まれるものもあります。それで、最初は一般的な手法で食品残渣を堆肥化して再販売していました。ただ、なかなか肥料では売れない。肥料化してもあまり売れないから在庫が嵩んで、それを保管するために大きな倉庫を増設しなければならない。それに堆肥化はニオイの問題がつねにあるので、その対策もしなければならない。なにかもっと良い再利用法はないかと探していたところ、食品残渣がバイオマス発電に活用できることを知ったんです。それも、2010年 (平成22) 頃に東京で開催されていた大規模な環境展だったと思います。最初は専門のコンサルティング会社の力を借りて、はたして事業化できるのかどうか? しっかり調査しました。おかげさまで原料となる食品残渣を集めてくるのには自信があったし、新しいプラントを建てる土地も目処がついていましたが、やはり発電するためのプラントの建設費用が大きかったので、事前の調査はしっかりしました」と正勝さんは振り返る。とはいえ、相当な覚悟を持ってチャレンジしたのではないだろうか? 「…と言うよりも、このまま食品残渣を肥料化して大量の在庫を抱えて経費が嵩むことを考えると、バイオマス発電に投資した方が可能性があると思えたんですね。どちらかと言うと、現状の課題解決のために始めた事業です」と返ってくる。
地域に支えられた循環型企業へ
さて、そのような経緯で2014年 (平成26)、協和工業の関連会社として、食品残渣を原料にバイオマス発電を行う株式会社福岡バイオマス発電 (以下、福岡バイオマス発電) が誕生する。「食品残渣を原料とするバイオマス発電は、行政主導の施設については聞いたことがありますが、民間が運営しているところは数えるほどしかないと思います」と言うのは、福岡バイオマス発電 研究開発課兼調達課 課長 山下恭宗 (タカヒロ) さん。正勝さんの息子で、福岡バイオマス発電の事業で大きな役割を担うキーマンである。「バイオマス発電の仕組みは、とても簡単に言うと、生ゴミ (食品残渣) を発酵させてバイオガスを発生させて、そのバイオガスはメタンが主成分なので、それを燃やして発電機を動かす仕組みです。そもそもバイオマス発電自体が日本であまり浸透していないので、発電機などの機械類がほとんど海外製品なんです。世界的にはドイツが一番バイオマス発電が発展している国なんですが、発電機などの機械的なトラブルは頻繁に起こりますし、もちろんメンテナンスも大変です。あと、一番気を遣うのは排水問題ですね。集めてきた食品残渣は、発酵させるために固液分離 (固体と液体に分離すること) させます。そこで分離された廃液は、もちろんそのままでは排水できないので汚水処理をしますが、それが思った以上に大変な工程で、今でも、もっと良い方法がないかと研究を重ねているくらいです」と語る。
福岡バイオマス発電のプラントは、稼働して7年目を迎えている。原料投入量は160t/日、発電量は約15,000MWh (メガワット) で、一般家庭での消費電力に置き換えると約570軒分となるそうだ。「7年目ともなると、だいぶ安定して操業できる状態になってきましたが、まだまだですね。やはり、原料となる食品残渣を安定的に確保することが一番大切で、そこはまだまだ努力が必要だと考えています。お取引先からすれば (原料となる食品残渣は) 廃棄物なので、その処理にかける費用は1円でも安くしたいのが当たり前。カーボンニュートラルの観点から、企業の廃棄物処理に注目が集まりやすい社会的な風潮だとは言え、高いコストをかけてまで、あえてそれに取り組む企業はほとんどありません。私たちと一緒にバイオマス発電に取り組むことが、お取引先にとって、コスト面でも社会的意義的にも良い価値が生み出されるような仕組みにブラッシュアップさせていかないと、この事業は続けていけないと考えています。そういう意味では、バイオマス発電は地域で支えていただく事業だと思いますし、1社でも多くのお取引先の方と協働できるように、この取組みの意義や意味を広くお伝えしていく必要があると思います」と恭宗さんは語る。ちなみに恭宗さん、なんとバイオマスについてくわしく学ぶために筑波大学に進学し、卒業後はプラント管理の企業に2年ほど勤務して現職となっている。正勝さんの跡継ぎとして、そして地域に根ざした循環型企業の経営者として、自身の未来像を明確に見定めているように思える。正勝さんは言う「バイオマス発電は、国でも取り組まれている政策で、お客さまからの廃棄物を有効利用できるのは非常に良いことです。協和工業としても、企業としての役割が増えたと感じています」。
廃棄コストか参画メリットか?
恭宗さんが話すように「バイオマス発電は地域で支えていただく事業」の性格が強い。どんなに高性能な発電設備を整えても、原料となる食品残渣を安定的にしかも比較的安価で確保できなければ事業としては成り立たない。福岡バイオマス発電は、協和工業が元々手がけている産業廃棄物のリサイクル事業の恩恵で食品残渣の回収に長けているとはいえ、それでも地域の企業の理解と協力がなければ、バイオマス発電事業の持続可能性は担保できない。では、実際に福岡バイオマス発電と協働で食品残渣を活用している企業は、どのような視点でこの事業に参画しているのだろうか?
今回取材にご協力をいただいたのは、オエノングループ 福徳長酒類株式会社の久留米工場。大正時代に建てられたこの工場は、1946年 (昭和21年) から合成清酒・焼酎工場として本格的に酒類製造を始めており、赤煉瓦作りのレトロな建物が印象的。現在は本格焼酎の製造拠点として稼働している。「そもそも私たちの業界は、酒類製造の過程で排出される廃棄物の処理に関しては、比較的早くから取り組んでいる業界と言えます。久留米工場では焼酎を作っていますが蒸留残渣 (焼酎粕) が年間4万m3 (立米) ほど発生します。焼酎粕はいわゆる有機物なので有毒ではないのですが、それでもきちんと処理しなければなりません。私たちは蒸留残渣を飼料や肥料として、大分県や宮崎県、鹿児島県などの大規模農家と取り引きしたり、地域の農業と協働で資源循環の仕組みを確立しています」と教えてくれたのは福徳長酒類株式会社 取締役 久留米工場長 森山政広さん。
その結果、久留米工場で排出される蒸留残渣 (焼酎粕) は、飼料や肥料として活用されてはいたものの、需要状況次第では余剰粕が発生するため、一部は産業廃棄物として廃棄処分していたそうだ。そんなとき福岡バイオマス発電から、今回のバイオマス発電に関する相談があったとのこと。「元々、協和工業さんと少しお取引があったこともあって、福岡バイオマス発電さんからお声がけをいただきました。福岡バイオマス発電さんからすれば、私たちが年間を通じて安定的に (蒸留残渣を) 供給できることに注目されたのではないかと思います」と森山さんは言う。特筆すべきは、バイオマス発電に蒸留残渣を供給するにあたり、工場内の蒸留廃液濃縮装置を省エネルギー型に更新した点にある。蒸留廃液を濃縮装置で約3分の1の量に濃縮しバイオマス発電の燃料として供給しているのだ。「おそらく、福岡バイオマス発電さんからすれば、濃縮しなくても原料として活用できるんだと思います。ただ、いくら発電の燃料に活用すると言っても、私たちからすれば廃棄物ですから、その量は少ない方が良いんです。輸送するにも処理してもらうにも、量が少なければその分コストが抑えられます。それで試算してみると、濃縮装置を運用した方が、コストメリットが出ることがわかったので更新しました。ちなみに、濃縮装置の内部で発生した蒸気を圧縮して循環利用していますので、装置の稼働に必要な燃料使用量やCO₂排出量は大幅に削減されています」と森山さんは語る。その結果、久留米工場では、下図の通り、わずかに産廃処理していた余剰粕もバイオマス発電燃料に活用することで、約99%の蒸留残渣 (焼酎粕) をリサイクルできるようになったとのこと。
森山さんによると、オエノングループのサステナブルな取組みについて、一般生活者に知っていただく機会はまだまだ多くはないそうだ。一方で、一部小売店においては、環境に配慮した商品の取り扱いの強化が始まっており、福徳長酒類の取組みが今後評価されていくのではと期待を寄せている。カーボンニュートラルの視点からもバイオマス発電事業が、今後広く認知され事業規模が拡大することを願うばかりだが、廃棄物処理にかかるコストとバイオマス発電に参画するメリットを、どのようにバランスさせていくのか? 恭宗さんが語る「バイオマス発電は地域で支えていただく事業」と言う言葉に、大きなヒントが隠されているように思える。