SDGsなプロジェクト
九州の企業が取り組むSDGsプロジェクト
九州各県の魅力ある「食・伝統・文化」を“ヒラク” 不動産会社の新たなチャレンジ
株式会社福住
株式会社福住
住所 : 福岡県福岡市中央区天神2-4-15
TEL : 092-712-0245
https://www.fukuju.co.jp
今回ご紹介する「株式会社福住」は、福岡市内を中心に、事業用不動産の売買仲介、企業の借上げ社宅の賃貸仲介、マンション・ビル管理など幅広い事業を展開する総合不動産会社だ。社会の流れの中で進化を遂げ続けてきた同社がこのたび、福岡市・天神の新天町商店街にポップアップ型ショールーム「交流文化創造拠点HiRaKu(ヒラク)」を開設した。2025年の創業50周年を前に、乗り出した新たなチャレンジとは―――。
事業用の売買仲介から総合不動産会社へ
「1975年に先代が創業、ビル用地や学校用地などの事業用不動産の売買仲介からスタートしました。弊社のように事業用の売買仲介をメインとした事業スタイルから、総合不動産会社になった企業はあまり多くないようです」と話す、株式会社福住(以下、福住)の 代表取締役社長、河野孝雄さん。
事業用売買仲介に加えて賃貸仲介、賃貸管理も手掛けるようになり、駐車料金の精算機と車をロックするロック版を設置した無人のパーキング事業をスタートしたのは1994年。その精算機で使えるのは100円硬貨のみで、お釣りも領収書も出ないような時代だった。
なぜパーキング事業だったのか? きっかけはバブル経済の崩壊。河野社長は「私自身はバブル崩壊の時にはまだ働いておりませんでしたので、諸先輩から聞いた話として申し上げます。当時、不動産の価値がどんどん下がって、不動産が動かなくなった(取引が激減した)そうです。弊社は法人仲介が主ですから、その仲介案件がなくて営業成績としては非常に苦しかったようです。その時代、法人売買仲介をしていた社員さんたちが、駐車場事業を始めたそうなんですが、その第1号案件が1994(平成6)年です。同業者の中でも比較的早い段階でスタートしています。現在では、コインパーキング事業が売上の4割程を占めるようになりました」と語る。
現在の天神本社に引っ越ししてからは、天神・大名地区を中心に商業ビルの開発事業も行うなど、立地を活かしてオフィスビル・商業ビルの仲介・管理も事業化している。
最近では、リフォーム需要の高まりと共にリフォーム分野へ参入、縁があって2016年にリフォーム会社「株式会社アシスト」をM&Aにてグループ化。居住用物件のリフォームはもちろん、築古ビルの大規模改修リノベーションもできる体制を構築するなど、社会の流れやニーズに対応しながら幅広く事業を展開してきた。
「先代は、天神で創業したので、最終的には天神にビルを建てたいというのが夢だったようです」と、河野社長。「先代社長も、『天神にビルを建てるぞ、みんなで頑張ろう』と社員にそう鼓舞しておりました」。
同社は事業の拡大に伴って少しずつ拡張移転をしてきている。天神1丁目で創業、そこから、東警固ビル、西鉄赤坂ビル、大名の親和ビル、薬院に自社本社ビル建築、そして1993年には新築の天神ツインビルへ移転。その後、現オフィスが建っている福岡市中央区天神の土地を購入し1999年に7階建てのビルを新築、「プリオ天神」と命名。区分所有のオフィスとして、2階と3階を所有し、そこに当時あった西新支店と天神ツインビルの本社を移転し、2フロアで本社を構えた。
「当社の仕事は不動産仲介そして不動産管理、そしてオーナー様の資産管理のお仕事がメイン。これは忘れてはいけない当社の原点だと思っています。主役はお客さまで、自分たちはあくまでサポート役、アドバイザー的役割の立場です」と語る河野社長。「ただ、そうは言っても社員さんへの光の当て方はとても考えます。みんな強い責任感をもって仕事をしています。お客様の資産をお預かりして運用を任せられているわけですから、とても使命があって尊い仕事をしているのだということを伝えないといけません。難しいけどやりがいのある仕事だと思います」。
社員が働きやすい環境づくり
光の当て方として、福利厚生・人材育成に関する制度が充実している点が挙げられる。まず2015年に「婦人科検診補助」を導入。「子宮頸がんは若くてもかかる人が多く、さらには乳がんの罹患も多いということを知って色々調べました。自治体にもよりますが、例えば35歳以降、5年単位の節目で検診ができるクーポンを配布しているというような自治体があります。『その5年の間に病気になったらどうするんだろう』と単純に思ったのです。そこで、会社で補助してはどうかと考え、上限1万円を実費精算にして検診を受けやすくしました。病院指定はしていません。診断書も不要です。本人が診断を受けて問題があれば治療をしてもらえればいい。病気を発見するきっかけが作れればいいと考えました」。
翌2016年には、「社員福利厚生保険」という、会社の費用で医療保険を社員全員に掛ける制度を始めた。条件は入社から勤続半年が経過していること。生命保険なので就業時間外も適用になり、仮に勤務時間外に病気や骨折で入院した場合でも、持病の治療でも、入院保険が1日あたり数千円給付される。昨今では新型コロナウィルスに罹患して対象の期間は自宅療養を余儀なくされた社員全員にも給付された。さらに、退職時にはその保険を買い取って名義変更できるようにしているとのこと。保険は若いときにかけた方が掛け金が安いので、一から掛け直さなくていいのもありがたいという制度を構築した。
2018年には、保育事業にも参入した。当時、保育園に入れない「待機児童」の存在が全国的なニュースになっていた。2016年には、政府が待機児童の解消と、従業員の多様な働き方に応じた保育サービスの拡大を目的に「企業主導型保育事業」を創設。河野社長は、「よし、オフィスの2階を保育園にしよう」と考え、2018年4月に『ふくふく西通り保育園』をオープンした。現在、定員は30名、過半数は社員枠、もう半分は地域枠という国の条件のもと、かなりの方が利用している。そして、その運営は子どもをもつ女性社員に担当してもらっている。そのおかげで、課題点や親御さんの要望ももれなく聞き入れて、運営に役立てられている。
ただ実際にはオフィスだった60坪というスペースがなくなるので、結果的に既存の本社ビルをEAST OFFICE、近くの管理物件を1棟借りてWEST OFFICEとし、共にリニューアルして2022年に本社を2拠点化した。決して難しく考えず、直感的に動いてきた結果が今の姿だ。河野社長は目の前の課題をごく当たり前に解決したかのように当時を振り返る。
さらに2019年からは、従業員意識調査「モラルサーベイ」を実施。評価項目を全てオープンにして、全員が意見や要望を出しやすくした。「70人を3カ月かけて面接するなど、導入当初は面談する方もハードでしたが、やり続けることで、組織診断や職場の雰囲気など、全体で5点満点の4・1点まで上がってきています」。また毎年、新入社員研修「フレッシャーズキャンプ」を行い、優秀者をMVF(モスト・バリュアブル・フレッシャー)として表彰。2022年には年収の5%ベースアップを、2023年にはさらに2%ベースアップを実施。さらに2024年には、階層別に2~5%(最大5%)のベースアップを実施した。評価を数値化してクリアにすることで、それぞれが向かうべき方向が明確になり、よりやりがいを感じられるのではないだろうか。
「街ナカ社食」なる取り組みもある。リーマンショック後の2009年から、福住が筆頭株主として開局したラジオ局(コミュニティラジオ天神FM、通称『コミてん』)に併設するカフェを、社員食堂として500円で利用できるようにしている。一般価格との差額を店舗から同社へ請求してもらって後払いする仕組みだ。「天神には良いお店がたくさんあるので、協力店を増やして街の中に社食があるようにできれば、素敵なことではないか」と河野社長は話す。
これらの制度や取り組みの中には、社員主導で行っているものも多いそう。男女・年齢問わず、やりがいを感じられるように働きやすい環境をつくり、会社一丸となって取り組んできた結果が、自然と「SDGs」につながっていると感じる。河野社長は、「良い制度や取り組みは弊社だけのものにせず、社会にどんどん広まってくれるとうれしい。逆に他社から学ぶことも多いし、いい取り組みは遠慮せずに真似をさせてもらっています。」と語る。
新天町に文化創造拠点「HiRaKu」をオープン
そして、福住が新たに手掛けるのが「交流文化創造拠点HiRaKu」だ。「コミてん」でも数年前から自治体イベントを開催してきた。加盟する福岡商工会議所の部会視察会で、河野社長が2022年10月に東京へ行った際、結婚式場などを運営する「株式会社 八芳園(以下、八芳園)」の井上義則社長との出会いがあった。そのご縁から、八芳園のポップアップ型ショールーム『八芳園MuSuBu(ムスブ)』と「コミてん(株式会社コミュニティパートナーズ福岡)」とで連携協定を締結している。
「福岡の宝物とも言うべき商店街「新天町」の物件との出合いもあり、『HiRaKu』を立ち上げることにしたんです。『HiRaKu』の名前は、第一線で活躍するクリエイターであるカジワラブランディング株式会社(福岡市)の梶原道生さんにお願いしたところ、『博多を外に、アジアに、“HiRaKu”(ヒラク)』をコンセプトに、名付けていただきました。八芳園は『MuSuBu』、つまり『むすんで―ヒラク』。そうしていろんなご縁を結んで、つながって、2024年1月にオープンしました」。
「HiRaKu」のスタートに向けて
「HiRaKu」を、福住と共同で運営するのが株式会社コミュニティメディアパートナーズ福岡(金山利治社長、福岡市)だ。同社は、コミュニティラジオ天神(通称「コミてん」)の運営も担っている。
「HiRaKu」を福住とコミてんが共同運営することについて金山社長は、「コミてんはこれまで地方創生の取り組みで行政と活動してきた経験がある。福住のメンバーは不動産営業が中心なので、イベント企画の経験はないが、広い人脈があり、地域の困り事やご相談、たくさんの情報が入ってくる。だから一緒に運営することでHiRaKuを通して街づくりを牽引していけるんじゃないか。福岡に来たらこんなものがある、こんな街に住みたいと思ってもらえたらと、ラジオでも街の雰囲気づくりを進めていけるのではないかと思いました」と話す。
福住の経営企画部課長代理で、HiRaKuスタッフを兼務する荒木勇蔵さんは、「新規事業なので少なからず不安でしたが、コミてんというパートナーがいてくれるので、やり方次第でいくらでもやれることがあると、楽しみの方が大きかったです。私たちも本業を通じてお聞きした地域の課題を解決したいというのがHiRaKuを立ち上げたきっかけの一つですが、弊社のミッションである『世の中に安心と喜びをお届けする』の通り、HiRaKuで前向きに課題を解決できると、もっと深掘りすることができるようになったと感じています」。
「HiRaKuの使命は九州の情報を集約し発信する、ここから情報がヒラク、もの自体が開花して、その先へと出ていくことです。九州という一つの島から本州・全国に、情報や人・伝統文化をHiRaKuで発信し、あとはそれらが自走できるようになるまでお手伝いできたらと思います。イベントをして終わりではなく、人と人が関わって交流が生まれる、文化創造できるところまで関わっていけたらと思います。そのためには情報発信する機会をどんどん多くして、まずHiRaKuファンを作って、ファン同士でも交流が生まれていくとうれしいですよね」。
さまざまなロスを減らす取り組み
HiRaKuでは今後、正規品ではない商品を集め、「不揃いの〇〇たち」と題したフェアを月に1回程度開催しようとの構想があるそうだ。野菜や魚、ガラス細工や陶器など、卸しから販売までの工程で生じるさまざまなロスに着目し、それらにテーマを設けて取り組むという。
生産物が加工品になるまでのロスにフォーカスすることで6次産業にもつながり、ゆくゆくは行政などとも提携しながら進めたいと考える。金山社長は「情報のロスも問題です。それによって物のロスが生まれるので、情報のロスをなくすために発信するのがラジオであり、商品の提供だけでなく情報発信するスペースとしてHiRaKuが存在する意味があると思います」。
今後については記念日や、記憶を風化させないための「震災の日」など、日付にちなんだ企画もしていくという。
九州の4自治体が参加したオープニングイベント
「HiRaKu」は、2024年1月にグランドオープン。オープニングイベントとして、福岡県香春(かわら)町、長崎県松浦市、熊本県、鹿児島県日置(ひおき)市の4自治体が参加する「九州 食・伝統・文化フェア」が3日間開催された。
香春町観光協会の西部事務局長は、「香春町は難読地名で、福岡県民にもなかなか読んでもらえない。イベント参加は、一人でも多くの方に『かわら』という町を知っていただけるチャンス」と考えた。「四つの自治体が一緒に盛り上げようという気運を感じた。ここでのご縁を大事に引き続き太く長く、いろんな活動をご一緒できたらと思います」と語る。
また、鹿児島県日置市商工観光課の田尻さんは、「日置市は、鹿児島県の中でも認知度があまり高くない。歴史的には、戦国武将である島津義弘が生まれた地であり、その辺りを推していこうと、PRの際に甲冑姿で登場する『ひおきPR武将隊』をつくって活動しています」と話す。出展してみての印象は、「自治体同士の関係ができ、今後もイベントやPRを一緒に出来たらいいなと思いました。今後また違うテーマでほかの自治体と参加できれば、無限に掛け合わせていける。それがHiRaKuの魅力」と話した。
これからも変わらぬチャレンジを
2025年に創業50周年を迎えるにあたり、河野社長は、「街づくりなんて大それたことは言えないし、そんな力もないです。でも世の中から必要とされる会社であり続けたいです。それと、強い会社にしたいですね。強くて優しい会社。財務体質や取引の中身などが強くてしっかりしていて安心していただけるという意味です。そしてかゆいところに手が届く社員の集団にならないといけない。そのためには、さらに一人ひとりのレベルを上げていく必要があると思っています。弊社のファンになっていただける方が増えていくような仕事をもっとしていかないといけない。その上でお客様に、地域に、社員に優しい会社でありたいと思っています。上を見ればきりがないですけど」と語る。
「それに、福岡はまだまだ面白いですよ。福岡で働く若い人達がたくさんいるというような地域全体の魅力、そして不動産業界全体をアピールしつつ、弊社は弊社なりの良い形を作っていけばいいと考えています。だから心を合わせてくれる人はぜひ一緒に盛り上げていきましょう」。
同社のコーポレートミッションである「自己と社会と環境に貢献していく」、これまで社として大事にしてきたこと、社員や社会や環境のために実践してきたこと。SDGsという「言葉」だけが独り歩きし、もてはやされているような側面も否めない今、改めて思うのは、そのために取り組んできたわけではなく、同社が取り組んできたことは既にSDGsだったのだということ。
社会に求められるものや、環境の変化を捉えつつ、必要な方向へ迷わず進み、会社として、社員一人ひとり誠実に柔軟に取り組んできた。それはまるで、しっかりと地域に根を張る幹から、強くてしなやかな枝葉がぐんぐんと伸び、実がなり、その種が風や鳥たちに運ばれて、また新しい場所で光を浴びて芽吹いていくようにとても自然で、当たり前の営みのように感じる。50年を過ぎても、同社はこれまでと変わらないチャレンジをし続けていくのだろう。