SDGsなプロジェクト

九州の企業が取り組むSDGsプロジェクト

今こそ国産材の有効活用を! “日向モデル”がもたらす林業振興 →森林保護 →カーボンニュートラルの好循環。

Last Update | 2022.04.28

中国木材株式会社

中国木材株式会社
住所:広島県呉市広多賀谷3-1-1
TEL :0823-71-7147
http://www.chugokumokuzai.co.jp

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  • つくる責任つかう責任
  • 陸の豊かさも守ろう
  • パートナーシップで目標を達成しよう

ウッドショックと林業振興

 「ウッドショック」という言葉がある。2021年3月頃からその影響が出始めた現象で、日本向けの輸入材と原木の供給量が大きく減ったことで、木材の価格高騰や納期遅延などが発生している現象を指す。外的要因としては、米国や欧州、中国における木材需要が増加する一方で、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大により労働者が不足し木材の生産が思うように進まず、加えて国際海上輸送の遅延や物流費高騰などが挙げられる。内的要因としては、少子高齢化による人口減少の影響で国内の新設住宅着工戸数は4年連続の減少 (2020年) 傾向で、さらにコロナ禍による新設住宅の需要減が想定されていたが、実際は需要が堅調で木材の供給が不足する状況が生まれた。日本の (木材を) 買い付ける力は海外には遠く及ばず、また不足分を国産材で補える状況にもなく、需給状況を安定させることが難しい状態が挙げられる。そのため、木造住宅や木造建築の柱や梁などに使う輸入材が不足し、工期が遅れたり、そもそも着工すらできない木造住宅も発生している。
 林野庁によると日本の木材自給率は41.8% (2020年) で、2010年から11年連続で増加、48年ぶりに40%台に回復している。しかし、製材用材や合板用材は、いずれも約53%は輸入材に依存しており、国内の林業振興はやはり大きな社会課題と言える。加えて、日本の国土の約3分の2が森林であり、豊かな森林の管理・維持には災害防止や水源確保、生物多様性の保全といった重要な意味を持つ。

木材供給量および木材自給率の推移 (林野庁)
木材受給の構成 (林野庁)

 今回ご紹介する中国木材株式会社 (以下「中国木材」) は、広島県呉市に本社を構え、年商は1,175億円 (2021年) と、木造住宅の構造材メーカーとしては国内屈指の規模を誇る。山林事業は植林して商品化できるまで50年かかると言われるロングスパンの事業。中国木材が歩んできた歴史、そして50年先を見据えた取組みを見ていくと、国内の木材産業や林業、さらには森林保護・管理を軸としたカーボンニュートラルまで、SDGsのゴール15「森の豊かさを守ろう」達成へのヒントが見えてくる。

ベイマツから国産材へ

 中国木材は、1953 年創業。現取締役会長である堀川保幸氏の父・宇市氏が、製紙用パルプの原料となる木材チップの製造・販売を主業として立ち上げた。1960年代、日本は高度経済成長期に入り、木材チップは国産チップより輸入チップが主流となり、加えて国内の新設住宅着工戸数も増加の一途で、チップよりも住宅用構造材の需要が高まると予測した保幸氏は、主業を製材業へとシフトする。特徴的なのは、北アメリカ最大規模の林業・製材会社のウェアハウザー社と直接取引をしている点。自社敷地内に外港船の専用岸壁を建設し、北米の港と自社の港を直接結び、“一港積み一港降ろし”という輸送体制を確立、北米からの輸入材 = ベイマツを安定的かつ効率的に供給できる。ベイマツは、その特性から住宅用構造材や合板など幅広く活用されている。ちなみに、アメリカから日本に輸入されているベイマツ丸太の約88%が中国木材で使われ (2021年実績)、中国木材の製品供給量は、全国で1年間に建築される木造住宅40万戸のうち、約3軒に1軒が中国木材の製品を使用していることになるそうだ。

中国木材株式会社 代表取締役社長 堀川智子さん

 このようにベイマツで大きな成功を収めている中国木材だが、近年、国産材の供給へとシフトしている。それはなぜか? 中国木材 代表取締役社長 堀川智子さんに伺う。「実は1990年代に、今回のウッドショックと同じような状況が生まれました。アメリカで、環境意識の高まりから、森林の木を切ることに制約が生まれ、ベイマツの供給量が減り価格が高騰したんです。私たちはベイマツの供給力不足を心配して、世界中を探し回りました。ラオスのマツ、南アフリカのマツを挽いてきてみたけれど日本では全然売れない。じゃあどうしようっていろいろ試行錯誤していると、ふと足元を見たら、日本には、戦後に植えられたスギやヒノキがたくさん育っていて、ちょうど伐期を迎えている。じゃあ、国産材やってみようって」。
 中国木材は、2002年9月、佐賀県伊万里港に隣接した伊万里工場を新設している。中国木材としては初の国産材の製材工場で、今後は国産材需要が拡大する予測があった。ベイマツ製材のコストを左右する要因の一つとして為替が挙げられる。どんなに高効率な設備と輸送体制を確立しても、為替が円安に振れるとコストは高くなる。為替は常に変動するので、安定的な住宅建材の供給のためには、為替に左右されない国産材の利用が重要になる。「20年前くらいに会長が言っていたことが、今、現実になっている」と堀川さんは言う。

中国木材の取引に使われている原木輸送船 世界最大級の原木船でベイマツを輸送している (中国木材提供)

 ベイマツから国産材へのシフト とはいえ、国産材をとりまく環境は決して楽観視できないのでは? 「国産材は、小さな事業者が全国でバラバラの基準で構造材を作っていて、ある商品の人気が出ると注文過多ですぐ欠品したり、値段が高騰したり、供給も価格も品質も安定しない場合が多いんです。だから大規模なハウスメーカーさんがその商品を採用すると、あちこちでクレームが起こってしまいます。それで住宅建設の現場では、安価で安定的に手に入るヨーロッパ材に人気が集まっています。特に『ヨーロッパ材は国産材に比べて強度がある』と、さも日本のスギが劣っているようなレッテルを貼られてしまって、それが流通業界、住宅業界で、実しやかに言われてしまい、わが社が一生懸命に国内産のスギを売りに行っても『ヨーロッパ材よりも安くないと買いませんよ』って言われてしまうような、そんな人気のないマーケットになったんです。じゃあ本当に国産材はヨーロッパ材より劣るのかというと、柱の場合、ヤング係数  [註1] はそこまで問題になりません。日本は高温多湿の国なので木材が腐れやすいんですが、逆に“腐れ強度”からすると国産スギの方がヨーロッパ材より強い。あたりまえですけど、国産材は日本の風土にあった素材なんですが、そこは強調されないんです。一方で原木の供給は、日本の林業が遅れていて伐採コストが非常に高いという課題を抱えています。たとえば、わが社が“工場まで運んでもらう”条件で原木を買うと、それが仮に13,000円とすると、8,000円、9,000円、下手すると10,000円が伐採コストと運賃で消えてしまい、山の所有者には3,000円くらいしか残らない。それだと伐採後に新たに植林する資金力が生まれないし、40〜50年かけて木を育ててもそんな値段しか付かないなら、子や孫の代にまで山を遺そうという気力が生まれません。だから、わざわざ海を渡ってきたヨーロッパ材よりも国産材のコストが高いというか、商品として競争力が足りないんです。国内では、これまでも、日本の林業が転換できるチャンスをいくつも見逃してきた歴史があります。わが社の伊万里の工場でも、累積損失が最大で76億円まで積み上がりました。2003年に稼働して13年間ずっと赤字 (笑)。だから、なかなか規模を拡大して、次の工場を作る決心がつかなかったんです」と堀川さんは振り返る。
[註1] 材料の弾性を表す指標の1つ。木材だけでなく鋼、コンクリート、アルミなどでも使われる指標。

  • 本社工場 北米の港から直接運び込まれた原木
  • 本社バイオマス発電の様子
  • 本社工場の様子
中国木材 本社工場 奥に見えるのが外港船の専用岸壁

 戦後に植林されたスギやヒノキがちょうど伐期を迎え、国産材は今まさに換金時を迎えている。人気のヨーロッパ材と比較しても遜色ない特性があり、あとは安定的な量と質を確保して供給できれば、しっかりとしたビジネスになる。そのためには大規模な工場が必要だ。そんな想いを結実させ、2014年10月ついに中国木材は日向工場の操業を開始する。「伊万里に続いて、国産材の大規模工場を日向に作ることができたのは、実はFIT制度のおかげです」と堀川さんは言う。FIT制度とは、再生可能エネルギーの固定価格買取制度 (Feed-in Tariff) のこと。一般家庭や事業者が再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が買い取ることを国が約束する制度。中国木材は、FIT制度が2012年に施行される以前から、自社工場で木質バイオマス発電 [註2]  に取り組んでいた。「わが社が木質バイオマス発電を始めたのは2002年の郷原工場です。それ以降、本社工場、鹿島工場、伊万里工場と広げて、グループ全体では約7万キロワット規模の発電力を持つまでになりました。特徴的なのは、単一のバイオマス発電事業ではなく、いずれも木材加工事業と連動して木材資源を余すことなく利用している点です。原木の製品化率は約50%ほどで、残りは木材チップやおが粉や樹皮などの端材。端材は紙パルプの原料として販売できるものもありますが、売れないものは産業廃棄物のように費用をかけて処分せねばなりません。これらを有効活用するために設置したのが木質バイオマス発電所。端材をバイオマス発電の燃料に使って、木材の乾燥に必要な蒸気と工場稼働に必要な電気エネルギーに変換しています。最初の頃は電力自由化もされていない状況で、バイオマス発電で作った電気は安い値段でしか売れなかったのが、FITが始まって買取価格が3倍くらいに上がって急激に黒字化できるようになったんです。それがきっかけで日向工場を作る決心ができました」。
 堀川さんをして「日本の森林・製材業界の諸問題を解決する新たなモデル工場」と言わしめる日向工場とは、果たしてどのような特徴があるのだろうか?
 [註2]  バイオマスとは、動植物などから生まれた生物資源の総称。木質バイオマス発電は、生物資源である木材を直接燃焼したりガス化するなどして発電する再生可能エネルギーのひとつ。

日向モデルがもたらしたインパクト

 宮崎県日南市細島港。総敷地面積160,000坪 (東京ディズニーランドがすっぽり入る広さ)  の広大な敷地を持つ中国木材 日向工場。ご案内いただいたのは、中国木材 日向工場 副部長 林 亮司さん。「おかげさまでいろいろな企業や協会、自治体の方々から視察のお申し込みをいただくんですが『30分で説明してください』とか言われることも多くて (笑) 。まあ、この広さなんで、少なくとも1時間は必要で、きちんと見ていただくには2時間くらいはかかりますね」と笑顔で迎えてくれた。

中国木材株式会社 日向工場 副部長 林 亮司さん

 「日向工場の仕組みを、我々は勝手に“日向モデル”と呼んでいて、他の製材工場に比べて特徴的なことがいくつかあります。まず我々は、山から出る木材をすべて受け入れます。今までの製材工場は『欲しい太さだけを買う』んですね。ウチは大きいもの (大径木) から、製材できない小さいもの (小径木) まで全部受け入れます。だから山の方 (所有者) には『全部持ってきてください』って言っています。日本の山は、急勾配で大型のトレーラーが奥まで入れません。だから人間の手で伐採して、少し広い仮置場を作ってそこに重機を使って集めてきて、トレーラーに積み替えて運び出します。しかも、買ってもらえる大きさの木とそうでない木を現場で仕分けして、場合によってはトレーラーに載らないから短く切ったりなど、輸送するだけで効率が悪くコストもかかります。日向工場にはガバっと持ってきてもらって、ウチで仕分けるので、まず山から運び出す手間がかなり省けます。山からガバっと持ってきてもらったものを、日向工場の中ですべて料理して、その最後に出てきた木の皮とかおが粉とかがバイオマス発電の燃料になるんです。たとえば、梅雨の時期とか台風の時期なんかは、足元がぬかるんで重機が使えないから山から木が出てきません。日本は地形的にも気候的にも木材の安定供給がしにくい状況なんですね。これが国産材の利用が進まない大きなネックになります。供給が不安定だと価格が不安定になります。丸太が少ない時期は原木価格が上がって、住宅用の構造材の価格が上がる。逆に原木の供給が増えて価格が下がると、高く売りたいから山の人は伐採しない。だから国産材は供給量も、価格も、品質も安定させるのが難しい。日本のハウスメーカーさんが国産材が使いづらい状況が生まれています。そこを日向工場はすべてクリアできるように、まずは、大量の原木在庫を持つことで供給側の安定性を確保しています」。

日向工場の仕組み =「日向モデル」の概要

「一方で、日向工場には加工材や集成材 [註3] など製品の仕掛かり品を大量に保有できるように35,000坪の専用保管場所があります。たとえば木造住宅の着工件数が少なくて製品 (住宅構造材) が売れない時期は、今までの製材工場では丸太の買い取り量を減らします。すると丸太の価格が下がってしまうから山からは丸太が出てこなくなって、逆に供給不足になって値段が上がるみたいに、市場価格がぐちゃぐちゃになります。我々が、製品が売れない時期でも丸太を買い続けられるのは、仕掛かり品を大量に保有することで常に多品種即納を実践できる状態にあるから。逆に、天候などの影響で丸太が出せない時は、ストックしていた仕掛かり品を使って、製品を安定的に供給できるんですね。コロナ禍で、特に初期の頃は、雇用調整助成金が出るから、丸太を切り出す人も製材工場の人も休業していました。働く人がいないから木材の供給が減ります。一方で、思いのほか木造住宅の新規需要が落ちなかった。テレワークや巣篭もりが増えて、都心のマンションで暮らすよりも郊外の一戸建てで暮らしたいって需要があって、建売住宅がいっぱい売れている。その中で他の製材所では原木の供給不足から製品が出せないからということで、ウチに注文が来てフル稼働した部門があったくらいです。我々は原木の供給側と製品の利用側との間に入って、住宅用構造材の供給と価格を安定化させるよう、緩衝材のような役割をしています」と、林さんは解説してくれた。日本の林業が慢性的に抱える課題ー つまり「安定的な量と質を確保して供給する」ことを劇的に解決する“日向モデル”は、業界に大きなインパクトを与えたことは容易に想像できる。
 [註3] 製材された板などを乾燥し、節や割れなどの欠点の部分を取り除き、繊維方向をそろえて接着して作る構造材。天然材に比べ、強度や安定性、耐久性など品質を均一にコントロールできる。

日向工場 中径木製材工場の様子
  • さまざまな太さの原木が積まれている原木ヤード
  • 大径木製材工場の様子
  • 中経木の製材の様子
  • 両サイドに木材乾燥機が並ぶ
乾燥加工工場の様子

 さらに、この日向モデルの特徴として挙げられるのが木質バイオマス発電である。「ウチは、山から出る木材をすべて受け入れて、全部使います。製品化できない小径木や、製材の時に出る樹皮やおが粉などを、工場全体から集めてバイオマス発電の原料として使っています。他のバイオマス発電所で、特に発電だけを単体で行なっているような場合は、発電の燃料としてPKS (パーム椰子殻) を海外から輸入して使っているケースが多いと言われています。わざわざ海外から船に載せて化石燃料を使って持ってきたPKSを燃やして電気を作るんですね。日向工場では、100%九州産の国産材を燃料にしています。製材工場と木質バイオマス発電事業は相性がとても良くて、特に発電の原料をわざわざ輸送コストをかけて持ってくる必要がないし、FIT制度のおかげで日向工場全体の黒字化につながっています」と林さんは言う。

  • 工場内で出たおが粉などはベルトコンベアで運ばれ集められる
  • 日向バイオマス発電所の様子
中国木材 日向工場 全景

 この日向モデルは、確かに日本の森林・製材業界をめぐる諸問題を解決する大きな装置である。しかし“山から出るものを全部受け入れ”たり“製品の仕掛かり品を大量に保管し”たりするには、広大な敷地とプラントを維持する収益確保が必要となる。日向モデルの理屈はわかるが、他社が簡単に真似ができるものではない。なぜ中国木材では実現できたのだろうか? 「それは経営者の理念の強さだと思います。かねてから、会長も社長も『日本の山を守る』『林業を再生させる』ことを当社の課題として挙げています。日本は人口が減っていて、今後はどんどん住宅の新規着工数が減っていって、日本の山の木が切られなくなると、山がダメになります。木が成長して、幹がいくら太くなっても、地中の根が力強く張るのは“木の成長期”の頃で、だいたい林齢30〜40年くらい。山の木が二酸化炭素を吸収する力も、やはり成長期の頃が一番強くて、林齢を重ねるとその力は弱くなります。だから適正な時期に伐採して、その後に植林して、山を循環させていかなければなりません。我々は、単に住宅用の構造材を作っているわけでなく、山を循環させて森林と林業を守るための事業だと思ってやっています (林さん) 」。
 ちなみに、宮崎県は、30年連続でスギの生産量日本一、2位に秋田県が続く。中国木材は、日向モデルの第2弾として、秋田県能代市に新工場を建設し2024年春の本格稼働を目指していることを発表している。

中国木材が山を買う理由

 中国木材が国産材活用を積極的に進めるのは、木材の安定的な供給源の確保はもちろん、日本の森林資源の保護と次世代への継承、カーボンニュートラル推進も大きな目的のひとつに挙げられる。そのため自社で山林を取得し、山林資源の管理を行っている。その現場のひとつ、長崎市の上戸 (かみと) 団地へ伺った。ちなみに、木材として利用できる樹木が集積しているエリアを“団地”と呼ぶそうだ。

中国木材が所有する上戸団地。きちんと間伐され林道も整備されている

 オランダ坂や大浦天主堂がある長崎市の中心街。そこから車で山の上の方へ移動すると、さっきまで住宅地だったのに、いきなり森林の風景に変わる。「こんなに市街地に近いのは特別ですよ。他の現場は、行くだけでだいたい1〜2時間です」と笑うのは中国木材 山林事業部 越智龍美さん。「上戸団地は、ヒノキがほとんどで、林齢40年前後の若い木が多いんです。ヒノキは50年経たないと用材として伐採できないので、まだお金になりませんね。ウチは、将来的にもっと自社の山を拡げたいという思いがあって、若い山でも買えるものは買おうというスタンスです」。
 一般に、山に苗木を植えてから木材として利用できるようになるまで40〜50年と言われる。市町村森林整備計画 [註4] において、その地域の標準的な伐採の林齢が定められていて、熊本県や長崎県では、スギが40年、ヒノキが45年なのだそう。「言い換えれば、40〜45年待たないとお金にならない。その間、森林を手入れする費用は出ていくばかりなんです。山に苗木を植えたら雑草や雑木が茂り始めますので、まずはそれを刈ります。『下刈り』と言って、最初の5〜6年は続けます。次に、苗木が育つ過程で、どうしても競争に負けてしまって思ったように育たない木がでてきますので、これを切ります。『除伐』と言って8年め頃から数年おきに行います。20年ほど経つと、樹木の直径が太くなり枝も張ってきて重なり合うので、林の中に陽の光が入りにくくなります。陽の光が入らない林は病気や害虫などの被害を受けやすくなるので、木を間引き、木と木の間隔を広げ太陽の光を入れます。これが『間伐』。間伐で出た木材は、間伐材として利用が進んでいて販売することができ、間伐にかかる費用には市町村からの補助金も得られるので、ここでようやく収入になるという状況です」と越智さんは解説してくれた。 
[註4] 対象となる民有林がある市町村が5年ごとに作成する計画。10年を一期とし、地域の特徴を踏まえた森林整備の考え方やゾーニング、森林施業の標準的な方法、森林保護等の規範等を定める長期的構想。

中国木材株式会社 山林事業部 越智龍美さん

 「今や、国内の林業は個人で続けていくのは難しいんです。自治体からの補助金がなければ、山林の維持にかかるコストは全額自己負担。伐期が決まっているから換金できるには50年後。その間はず〜っとコストばっかり出ていく状態。なので、私たちのような木材関連や住宅関連、製紙関連の企業が入って山の維持をしているんです」と語るのは中国木材 山林事業部 猪口秀信さん。この道30年のプロフェッショナルで、この上戸団地の管理担当者だ。「家の構造が昔とは違ってきたのも影響していますね。昔はおっきな家を作って、部屋から立派な柱が見えるように作っていたから、そのための木が必要だったんです。樹齢100年、200年の名木で作る柱に高い値段がついていました。でも、今の家は柱なんか見えない。建材で使うのは集成材が一般的です。集成材の方が品質も安定しているし強度もある。もう山の育て方が根本的に変わっているんですね」。

中国木材株式会社 山林事業部 猪口秀信さん

 猪口さんは続ける「山はね、1回でも人の手を入れてしまうと人間が責任を持って手入れをしないといけません。放っておくと山がダメになる。もちろん全部伐採してしまって裸地にした後で、植林を行わずに自然の力だけで再生を図る『天然再生』という方法もありますが、 それができる山はやはり限られます。人間が手を入れた山は、放っておくと陽の光が入らなくなり、木の根が張らなくなって山の役割ができなくなります。水が貯められなくなり、地盤が緩くなって災害の原因になるとか、いろいろ悪い影響が出てくる。だから、商売にならないからと言って放ってはおけない、責任があるんです」。
 この上戸団地の管理では、具体的な作業は地元の森林組合の長崎南部森林組合に委託をしているのだそう。森林組合とは、森林組合法によって設立され、森林の所有者が組合員となって組織されている。「長崎南部森林組合としては、約4,000名の組合員さんがいらっしゃいます。個人の森林所有者や、市町村、企業で森林を所有しているところなどが組合員です」と言うのは長崎南部森林組合 長崎支所 支所長 深川伸次さん。「組合の仕事の7割は間伐を中心とした森林管理事業で、残り3割は間伐材を中心とした木材の販売です。上戸の現場は、中国木材さんから委託を受けて管理業務の実務をしております。つい最近の間伐事業では、林道作りから始まってのべ14名ほどの現場作業者が携わっています。上戸は非常に手入れの行き届いた良い山ですよ」。

  • 長崎南部森林組合 長崎支所 支所長 深川伸次さん
  • 長崎南部森林組合 長崎支所

 「木材はその時の相場の影響を受けやすいので、将来的には自分の山から (木材を) 出せる比率を上げたいと考えています。わが社は、元々アメリカからベイマツを輸入して住宅材を作っていました。仕入れ先のウェアハウザー社は北米に広大な自社林を持っていて安定的に木材を出せる。ウチもそこを目指しています。最近のウッドショックがいい例ですが、いざという時に安定して木材を供給できるようにならないといけない。しかも日本は少子高齢化で人口が減っているから、国内の住宅事業は、おそらくあまり延びてこない。だから海外のマーケットも意識しなければなりません。海外との取引には安定供給は大事な要素になります」と越智さんは語る。
 「僕が林業に携わって30年。始めた頃に植林した山は、ようやく間伐できる状態になったくらい。だから完成形というか、伐採して出荷するのを見届けることはできないでしょう。山の仕事はそれくらい長い。だから“バトンの受け渡し”がとても大切です。その長い行程の中で、どっかで誰かが失敗したりサボったりすると台無しになります。その時に失敗すると取り返しがつかない。たとえばヒノキの枝打ちを失敗したら、木は傷だらけで内部が腐れて売り物にならない。でも、それは後になってわかるんです。1回の失敗が、10年後、20年後にしかわからない。ちょうど、その木を売るとき、その時期に当たった人が、その昔、誰かがやってしまった失敗の責任を負わされるんです。しかも、木の育て方にも流行り廃りがあって『今は、この育成方法が最新で流行です』って言われても、それが本当に正しいのか、極端に言えばその結果はわからないんですね。だから僕らは、今を信じてきちんとやるしかない。適当な仕事をしていると関係者はすぐわかりますよ。だから恥ずかしくない仕事をする。そうやって山を受け継いでいくだけです」と語る猪口さんの日焼けした顔が印象的だ。

 ここに堀川社長から教えていただいた話がある。「中国木材の年間販売量は179万立方メートルで、これを木材が吸収するCO2量に換算すると143万CO2トンとなり、これは53万世帯の年間のCO2排出量に相当するそうです。 宮崎県が約53万世帯、仙台市で約52万世帯ということで、私たちは、かなりの量のCO2を固定化できていることになります。もし、木材を製品化せず、発電などの燃料としてただ燃やしてしまうと木材が吸収したCO2は放出されてしまいますが、製品化することでそれまでに吸収したCO2は固定化されます。今、カーボンニュートラルが叫ばれていますが、森林はCO2の吸収源であり、伐採して製品化すれば吸収したCO2を固定化できます。伐採した森には新たに植林して、若い木がどんどんCO2を吸収していきます。私たちが取り組んでいる国産材の活用は、日本の林業を守り育て、その結果、健康に循環する森林が増えてCO2を固定化した製品が売れる。その好循環がカーボンニュートラルの実現につながっていく、そんな視点で捉えています。だから、日本の木造住宅、そして今後はビルのような非住宅においても、日本の森林で育った国産材で建てられ、日本の山が元気に循環していくようにがんばっていきたいと思います」。