SDGsなプロジェクト
九州の企業が取り組むSDGsプロジェクト
それが当たり前だったのでSDGsは新しくなかった。だから本来の業務にSDGsを乗せて推進する。
株式会社谷川建設
株式会社谷川建設
住所 : 長崎市岡町9-1
TEL : 095-848-3552
https://www.tg-k.jp
SDGs推進における社内コミュニケーションの重要性
株式会社帝国データバンクの「SDGsに関する企業の意識調査 (2022年) 」によると、SDGsに積極的な企業は52.2%で、前回調査 (2021年6月) より12.5ポイント増で、SDGs推進に前向きな姿勢を示す企業が増加していることがわかる。企業の規模別に見ると、SDGsに積極的なのは大企業で68.6%、中小企業で48.9%、小規模企業で42.0%となり企業規模間にその格差が生じている。業界別にみると「農・林・水産」が72.6%で最も高く、次いで 「金融」 (62.3%) や製造 (57.1%) が上位に並んでいる。また、現在SDGs推進に力を入れている企業にその効果を尋ねたところ、「企業イメージの向上」が37.2%でトップとなり、人材の定着率の向上につながり得る「従業員のモチベーションの向上」が31.4%、次いで「経営方針等の明確化」(17.8%)、「採用活動におけるプラスの効果」(14.0%)、「取引の拡大 (新規開拓含む) 」(12.3%) が続いている。また、SDGsへの取組みが「売り上げの増加」につながった企業も11.1%となり、 SDGsをビジネスチャンスとして捉え、実際に売り上げの向上につなげた企業も出てきている。
株式会社JTBコミュニケーションデザインの「SDGsと社員のモチベーションに関する調査 (2021年)」によると、勤務先の「SDGs達成の取り組みを評価できる」は21.6%、一方「今後、勤め先の会社はSDGs達成に取り組むべき」は48.3%で、自社のSDGs推進の取組みをもっと進めるべきと考えている企業人が多いことがわかる。勤務先のSDGs推進の取組みを評価できる理由には「推進本部を立ち上げ、進捗状況は都度全社員に広報されている」や「SDGsに関する全社員向け研修が、頻繁に実施されている」など、具体的に目に見える形で施策が実施・共有されていることが挙げられている。一方で評価できない理由には「宣言はしているが、具体的な数値目標が定められていない」や「取り組み作成がゴールになってしまい、社員全体にメッセージが届いていない」など、社内での情報発信不足が挙げられている。また同調査では「社員へのSDGs達成の告知や教育が実践されているほど、社員のモチベーションも比例して高くなっている」とされ、社内コミュニケーションによって、SDGs達成とモチベーション向上の相乗効果をさらに高めることが有効であると提言している。
多くの企業でSDGs推進の取組みが具体化されている中、社内における情報共有と価値共有をどのように進めるのか? というインナーコミュニケーションの重要度が増しているように感じる。今回ご紹介する株式会社谷川建設 (以下、谷川建設) は「やすらぎとくつろぎの住まい」をテーマに高品質な住宅を供給する総合建設会社。業界の特性から、SDGsへの関心は高く、特に社内における情報共有と価値共有には非常に参考になる点が多い。SDGsを推進していくことで改めて自社の理念や価値を深く共有できるという、その好事例と言える。
一番いい住まいってなんだろう?
谷川建設の創業は1971年 (昭和46) 。その歴史はすでに50年を超えている。「私たちは創立50周年を“第2の創業”と位置付けていて、あらためて創業者の理念に立ち返り、守るべきものは守り、変えるべきものは変えるというスタンスで、次の50年、つまり100年企業を目指してスタートを切ったばかりです」と語るのは谷川建設の代表取締役 谷川喜一さん。「私たちは、ワンストップでお客さまのニーズに応えたいと思っています。たとえば50年前に一緒に建てさせていただいた注文住宅は、お客さまがすでにお亡くなりになっている場合もあって、売却のご検討とか不動産資産の活用だとか、注文住宅を建築する以外のニーズが出てきています。その多彩なニーズに応えたいんですね。これは50年やってきたからこそ向き合えるもので、お客さまの今の生活シーンに合わせて『一番いい住まいってなんだろう』ってことを追求し、その答えを提案したいと考えています。私たちは元々、製材業を営む谷川商事の住宅部門がルーツの会社で、仕事の出発点は山なんです。山で伐れた質の良い材木を一番大切に扱ってくれる人に売って使ってもらいたい ーそれは熟練の大工の棟梁とかになるんですが、そんな棟梁がどんどん減っていく中で自分たちがその棟梁になろうということで生まれた会社なんです。私たちは、ずっと国産のヒノキにこだわって、それが一番優れた住宅の素材だと思ってやってきていて、木材の表面の美しさとか調湿作用とか殺菌効果とか、建材としてのヒノキの魅力はたくさんあります。素材の魅力だけじゃなく、私たちは自然のものを使いたい、無垢材を使いたい、お客さまには自然素材の中で暮らしてもらいたいという想いが強いんですね。だから『人に優しい家ってなんだ』ってずっと考えていて、それが注文住宅の建設だけではなく、お客さまの住まい方をどう提案していくかにまで事業の範囲が拡がってきたという感覚です」。
SDGsを通じて伝えられる価値がある
「SDGsについては、もちろん住宅メーカーなのでしっかり意識しています。SDGs推進はやっていかねばならないのですが、私としては、まず我が社が今までやってきたことの価値を正しく理解したい、それを学んでいく機会だと考えています」と谷川さんは続ける。「SDGsが国連で採択された2015年よりも前から、我が社は本業を通じて地球環境に配慮しながら社会に貢献してきました。それが当たり前でずっとやってきたので、その重要性に多くの社員が気付けていないのではないかと感じることが多くあります。私たちの仕事は、自分の家族や息子や娘たちに誇れる仕事なのに、それを実感できていないからちゃんと伝えられていないんじゃないかと。たとえば、私たちは家づくりで使った材木と同じ数だけの苗木を植林していて、年間で約40,000本ほどになります。2008年から続けていますので、もう15年近くになりますね。森林の循環を促すためには非常に重要な取組みだと思うのですが、その価値を全社員がきちんと理解しているのか? お客さまにきちんと自分の言葉でお伝えできているのか? 私はまだまだ足りないと感じています。カーボンニュートラルの視点で言えば、森林の木が成長過程でCO2を吸収して固定化し、その材木を使って住宅を建てることで、CO2を長期間固定化できます。私たちが国産材にこだわって住宅を建てることが、CO2削減 (固定化) に貢献していることを、我が社の社員が理解して、自信を持ってお伝えできているのか? 国産の材木を使って有効活用する、できるだけ使い切る、使った分を植林して森林の循環を進める育林をする。谷川建設の家を作ることは街中に森を作るのと同じ意味を持つんですね。そういったことを世間に訴えていく前に、まず社員一人ひとりが自分で感じて欲しいし、家族に伝えて欲しい。その上でお客さまや社外の人に伝えて欲しい。それが谷川建設の企業としての価値の高まりになるし、それは企業の広報だけでなく、従業員の言葉にこそ説得力があると思うし、そのためにSDGsが有効だと思います。私は、SDGsを推進することで、我が社が50年以上大切にしてきた“当たり前”の価値を、社員一人ひとりがしっかり理解して、自分自身の仕事の価値を知り、家族にはもちろん、お客さまに自分の言葉でお伝えできるようになることを目指しています」。
「木材の価値は、結局、それがすべて人の手による仕事だということに尽きます」。谷川さんの静かな語り口の中に秘めた熱が印象的だ。「先ほど申し上げたとおり、私たちの仕事の出発点は山の現場なんです。我が社の社員が、山の現場に行く機会は決して多くはないんですが、じゃあ誰が山の木を50年も60年もかけて育てているのか? どうやって伐ってどうやって運んでいるのか? その仕事の一つひとつは決して当たり前ではなくて、人の想いが繋がり、私たちの現場、この目の前の住宅に繋がっていることの価値をきちんと理解して欲しいと思うのです。それが、谷川建設の次の50年に繋がる、私はそう考えています」。
社内のSDGs推進のためのエンジン
「SDGsを通じて自社の価値を再認識してほしい」という谷川さんの思いを具現化するために、谷川建設社内に生まれたのがSDGs推進委員会である。SDGs推進委員会は、4つの分科会グループと各分科会リーダーで構成され、委員会の管理・運営はすべて社員の自律性に委ねられ、部局横断的に活動しているのが特徴だ。谷川建設のWEBサイトにはSDGs専用コンテンツ『TANIGAWA's SDGs Logic』があり、いわゆる『SDGs宣言』だけでなく、社内におけるSDGs推進施策の具体的な進捗が公開されている。このSDGs推進委員会の座長を務めるのは谷川建設の西村和芳さん。「我が社で、SDGsに関する取組みが全社的に始まったのは2020年の3月からです。外部のコンサルティングを約半年間受け、その過程の中で、全社員を対象に、今後解決すべき重要な社会課題を抽出する作業を行いました。その結果およそ330個もの課題が出てきて、それをさまざまな視点や評価方法を通じて4つのマテリアリティ (自社に関わる重要課題) に収斂しました。現在はその4つのマテリアリティの解決を目指して、4つの分科会グループに分かれて取組みを進めている状況です。社員自分たちの中から生まれた課題なので、分科会での取組みは他人事にはできませんよね」と西村さんは笑顔を見せる。
4つのマテリアリティは「事業を通じた豊かな地域社会づくり」「社員が能力を発揮できる組織づくり」「温暖化を抑制する環境づくり」「誠実で透明性のある事業の推進」となっていて、それぞれの分科会は主幹部門と関連部門が担務して課題解決に向けた具体的な行動を考え実践していく仕組みだ。「このプロジェクトの活性化のために大切にしているのは『共通の目標』『協働意欲』『コミュニケーション』です。そのため、私たちはSDGs推進委員会を人材育成の場と捉え、それぞれのメンバーがいわゆるトップダウンではなく、ボトムアップというか、メンバー全員が自分自身の課題としていかに共有して自律的に行動するかがポイントだと考えています。特に各分科会のリーダーは、各分科会を管理・運営するために考えて行動していて、どのようにチームをマネジメントしていくかという課題解決能力を身につけていきます」と西村さんは言う。
それが当たり前だから、逆に進めやすかった
西村さんの「SDGs推進委員会を人材育成の場と捉え、特に各分科会のリーダーはどのようにチームをマネジメントしていくかという課題解決能力を身につけていきます」という言葉は、いわゆるSDGs推進を経営戦略に落とし込んでいく過程において、非常に大きな示唆に富んでいる。しかし、それをお題目として挙げることができても、実際に運用できるのだろうか? 谷川建設の4つの分科会グループがどのような動きをしているのか、もう少し詳しく踏み込んでみる。
まずは「温暖化を抑制する環境づくり」について。「これは商品企画の分野ではずっと以前から取り組んできたことです」と語るのは、この分科会のリーダーを務める商品企画部の萬歳直喜さん。「CO2削減だったり、森林資源の循環だったり、それこそ10年以上前から現場レベルで取り組んできたことなので、このテーマはとてもわかりやすかったですね。谷川 (建設) の家は木造なんです。森林の木を伐採して、その木が成長する過程で吸収したCO2を住宅にすることで固定化できて、さらに伐採した分だけ植林して新しくCO2を吸収していくという森林資源の循環については、『お客さまの建てられた家は、CO2削減にこれだけ貢献していますよ』って、独自に作った『CO2削減証明書』をお客さまにお渡ししてご説明をしてきてたくらいです。もともと、そういう素地を持った谷川建設なので、木造の家の持つ温暖化抑制効果は受け継ぎ維持しながら、今、我々の分科会が具体的に進めているのは谷川のZEH住宅 [註1] を増やすということです。太陽光発電システムを設置するイニシャルコストが高いことが課題なのですが、なんとか解決策を見出しながら谷川の住宅の50%のZEH化を目指しています」。
[註1] ZEHはNet Zero Energy Houseの略語。ZEH住宅は、①太陽光発電による電力創出 ②省エネルギー設備の導入 ③外皮の高断熱利用 などにより、生活で消費するエネルギーよりも生み出すエネルギーが上回る住宅を指す。
同じくこの分科会のリーダーを務める株式会社谷川商事 (以下、谷川商事) の小柳伊佐義さんは続ける。「それが普通の仕事だったんですよね。それが当たり前だった。森林資源の循環も、端材をパルプにしたり木材乾燥用の燃料に活用したり、僕らがいつもの仕事の中で、当たり前にやっていたことがSDGsだって言われたんです。なんというかSDGsは“新しくなかった”んです。だから逆にわかりにくくしている部分も最初はあったんですよね。SDGsっていう世界的な基準ができました。でも、それって当たり前じゃない? って。でも『温暖化を抑制する環境づくり』っていうそのコアな部分が僕たちの当たり前だったからこそ、他のマテリアリティについても拡大して、推進できる状況にあったんじゃないかって思いますよ」。
さらにチャレンジの領域が拡がる
続いて「事業を通じた豊かな地域社会づくり」について見てみよう。リーダーを務めるのは営業推進室の勝屋琢也さん。「谷川 (建設) のコア事業は木造の戸建ての注文住宅事業です。特に国産のヒノキ材にこだわり、無垢材にこだわり、接着剤を使わないとか、化学物質を使わないとか、無垢材を使い切るとか、『谷川の家づくりは日本で、九州で家を作るにはこうあるべきだ』という思想の受け継ぎがあります。そんな家づくりが好きな人が集まっている会社だとも言えます。もちろん、伝統を守るだけでなく、昔の伝統文化を継承した家づくりだけど最新の技術も駆使しながら今日的な課題にも応えられる家づくり、それを目指しています。じゃあ、そのコアを活かしながら、家を建てるだけでなく、考え方や価値をたくさんの方と共有できないか? というのが、この分科会のテーマです。そのために取り組んでいるのが『顧客満足度の向上』です。長い年月にわたって安心して暮らしていただける谷川の住宅が、地域社会を豊かにできる方向性がないだろうか? 住宅だけでなく、土木や土地開発にも同じ精神で取り組むことで、新しい価値が産まれないだろうか? そのためにはお客さまの多様なニーズにどうやって応えていけるのか? どうやって顧客満足度を高められるのか? 現場レベルで試行錯誤している状態です」。
さらに「社員が能力を発揮できる組織づくり」の分科会リーダーは総務部 川上秀人さんだ。「僕は総務部所属なので、社員教育や働きやすい職場づくりが本業なんです。つまり分科会の取組みは、本来の業務にSDGsを乗っけて進めている状態ですね。そもそも総務の仕事は領域が広くて、突発的な事象に即応しなければならないことも多く、“取り組まなければ”とわかっていてもなかなか進めにくいような課題がたくさんあります。言わば潜在的に存在していた課題に、SDGsを媒介にして光を当てて顕在化させて、現状の仕事の延長線上に改善策を見出すような感じです。SDGsと連動させることで、自分の仕事の意味合いが周りの人にも伝えやすくなって推進力が高まる感覚がありますね。具体的には、人によっては忙しい時期に過重労働が発生したり、我が社はどうしても男性中心の社員構成比なので女性が意見を言いづらいとか、すでにKPIを設定して取り組み始めているテーマがあります。あとは採用についても、長崎は人口減少と高齢化が大きな社会課題で、特に若年層の県外流出が顕著なので人材確保が大変です。その分野でもSDGsに関する取組みは良い効果に繋がるのではないかと考えています」。
「誠実で透明性のある事業の推進」のリーダーは、SDGs推進委員会の座長で経理部長でもある西村和芳さんが務めている。「テーマはコンプライアンスです。ハラスメントに関する相談窓口を設置したり、全社員対象の調査やアンケート、勉強会などを実施して、法令違反発生件数ゼロを目指しています」と教えてくれた。さらに見逃せないのが、社内外のコミュニケーションや情報発信の領域にもリーダーを置いて取り組んでいる点だ。社外向けの情報発信は営業推進室の冨成安友美さんがリーダーを務める。「谷川建設のSDGs専用コンテンツ『TANIGAWA's SDGs Logic』を核にしながら、新聞などメディアの力もお借りしつつ発信をしています。SDGsについて発信する際は“押しつけ”ではいけないと思うんです。社外なら身近な暮らしのことに絡めてとか、社内なら身近は業務に絡めてとか、自分自身が具体的に感じたり行動したりしていることがSDGsの推進に繋がっていて、そのラインの一つとして谷川建設も事業を通じて貢献していることに共感いただけるような、そんな発信を心がけています」と語る。一方、社内向けの情報発信は商品企画室の圡手珠里さんがリーダー。「私は社内報の『SDGsだより』を制作しています。不定期ですが、この2年半で23号を発行しています。最初は、何を書いたらいいかわからないところから始まって (笑) 、今、社内で取り組んでいるSDGsに関するテーマを中心に発信しています。最近になって、社員の方からネタの提供が増えてきていて、内線がかかってきたり、社内を歩いているといきなり声をかけられたりで、『今度、こんなテーマで書いてください』とか言われたりするようになってきたんです。そういうリアクションがいただけるのは、私たちSDGs推進委員会の仲間がどんどん増えている感じがして、とても嬉しいです。絶賛、ネタ募集中なんで、そこを強調しておいてください」と笑顔を見せる。
どうだろうか。谷川建設のSDGs推進委員会の動きを見ていくと、彼らはSDGsを推進しているのではなく、それぞれの本業で抱える課題を解決していることがわかる。ポイントは、SDGsの視点から本業を見直して、解決すべき潜在的な課題を顕在化したり、本業の本質的な価値を再発見してさらに領域拡大したいテーマを課題化したり、川上さんの言葉を借りれば“本来の業務にSDGsを乗っけて進めている”ことだ。この視点や考え方は、自社でSDGs推進の動きを浸透させていく上で、大きなヒントになるのではないだろうか。しかも、彼らリーダーたちは口を揃えて「社内では、まだまだSDGsの取組みが浸透していません」と言うのだから、驚きである。
無垢材を余すところなく使い切る
谷川建設のSDGs推進委員会が取り組む4つのマテリアリティのうち「温暖化を抑制する環境づくり」に取り組む現場の一つとして、株式会社谷川商事の大村プレカット工場を訪ねた。「プレカットは、住宅建築に使う構造材を、事前に必要な大きさや形状にカットする工程のことです。昔は、腕利きの大工さんが自分の工場で材木をカットしてましたが、今は、プレカットが基本。構造材の品質を均一化できるし、輸送コストも軽減できます」と出迎えてくれたのは、分科会リーダーの一人、谷川商事の小柳伊佐義さん。「谷川建設が年間500棟ほど住宅を建てるんですが、谷川商事は、そのすべての木材資材を供給する役割を請け負っています。国産のヒノキ材にこだわり、無垢材にこだわってきた、『谷川の家づくり』に見合う品質を担保し、安定的に現場に送り届けることを続けています」。
「谷川 (建設) の家は、基本的に無垢材を使います。厳密に言えば100%ではないんですが、99%以上は無垢材を使って家を建てます。いわゆる集成材 [註2] は使いません」と小柳さんは話を続ける。「今は、住宅の構造材は集成材が一般的ですよね。その方が製品の質も均一だし、安定的に使いやすい。でも、谷川は無垢材にこだわる。だから扱いが難しいんですね。当然ですが、山から伐ってきた木は、一本一本違います。形も太さも曲がり方も全部違う。だから僕たちは、まず“木を読む”んです。これはどうやっても機械ではできない。人間の目で経験で、一本一本その特徴を“読む”作業から始まります。その上で、1本の木から、できるだけたくさんの構造材を切り出せるように、柱や梁、板などの用途に分けて、製材する位置や方向、手順を決めていきます。これを“木取り”と呼びますが、この辺の工程は、谷川らしい部分かなと思います。そこをいかにロスなくやるか。1本の木を余すところなく使い切るか、そこが人の目にかかってくる部分です。一般的には、丸太一本から建材を製材して、その歩留まりは50%程度ですが、僕らは60〜70%弱は使えていると思います」。
[註2] 製材された板などを乾燥し、節や割れなどの欠点の部分を取り除き、繊維方向をそろえて接着して作る構造材。天然材に比べ、強度や安定性、耐久性など品質を均一にコントロールできる。
「歩留まりもそうですが、無垢材を余すところなく使い切るという部分では、どうしても製材の工程で出てくる端材は、再生紙の原料として活用したり、後はウチの工場で木材を乾燥させるための燃料に使ったりしています。そういうのも含めて、無垢材を使い切るのは谷川の当たり前というか、昔から受け継がれてきた考え方なんですね。だから、SDGs推進委員会のみんなを取材していただいた時にも言いましたが、SDGsが“新しくなかった”んです (笑) 。『それ、当たり前に昔からやってます』って。ただ、逆に言えば、僕らがずっと大切にしてきたことが、SDGsという世界的な基準に照らし合わせると、やっぱりそれには意味があった、価値があったってことがわかって、自分たちの仕事の意味が、また深くなったなという感覚はありますよ」と小柳さんは笑って話をしてくれた。