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【第4回】自社でSDGs経営を取り込むためのポイント ~攻めと守りの視点~

Last Update | 2021.02.25

SDGsの基礎知識④ 九州経済調査協会

公益財団法人 九州経済調査協会
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TEL : 092-721-4900
http://www.kerc.or.jp/index.html

 NCBと九州経済調査協会との協働でお届けする連載企画「SDGsの基礎知識」。どのようにSDGsを経営戦略に実装して、企業価値を高めるのか? その基本的な考え方や知識についてオリジナルレポートでお届けします。
 

 「SDGsの基礎知識」連載企画第4回をお届けします。前半2回では「企業にとってのSDGsとは? 」について、企業がSDGs経営に取り組む意義について (第1回) と、SDGs経営を実践するために、何から始めればよいのかとその情報源について (第2回) 、お伝えしました。
 後半2回では「企業がSDGs経営を取り込むためのポイント」として、第3回では土台について取り上げ、第4回となる今回は、攻めと守りの視点について焦点を当てます。
 

 土台   事業活動の持続可能性を支える  事業の“前提条件”に向き合う
攻め  新たなビジネス機会を獲得できる  取り組むことで、事業にメリットがある
守り  事業上のリスクを排除する  取り組まないと、事業リスクを避けられない

SDGs経営の攻めと守りの視点とは

 攻めのSDGsとは、SDGsを通じて新たな事業機会の獲得を進めることです。解決したい社会課題に対して、自社の持つ技術や知見、能力を活用して何ができるかを考え抜き、実行していくことが、新しいビジネスチャンスにつながります。
 そのような取組みを行っている事例として、大手電機メーカーのシャープ株式会社 (大阪府堺市) によるマスク生産が挙げられます。同社では20202月に、新型コロナウイルス感染症拡大によって発生した深刻なマスク不足を解決するため、異業種であるにも関わらず、短期間でマスク生産への参入を決めました。高いクリーン度が要求される液晶パネルの製造ラインをもっていたことから、既存の工場設備を活かしながら、同年3月からマスクの生産を開始し、11月には1億枚のマスクの出荷を行いました。その後も商品の改良や生産ラインの省人化・効率化を行い、もともとは社会貢献として始まったマスク生産を、稼ぐ事業に転換するために本腰を入れて取り組んでいます [註1]

  • シャープのマスク (公式HPより抜粋)
  • マスクを製造する工場 (公式HPより抜粋)

 守りのSDGsとは、周りが取り組んでいるのに、自分たちもやっていないと仕事自体が無くなってしまうという外部要因に対応することです。たとえば、今後強化が予想される規制やルール、投資家からの要請、他社に後れを取らないために取り組むといった動機のことを指します。近年では、若者世代もSDGsへの関心を高く持っており、人材の確保や消費者のブランドイメージの観点からも、SDGs経営に取り組まないことで他社と差がついてしまう懸念があります。​​​​​​
 九州地域において、SDGs
に着手するきっかけとして、まずは守りの観点から取り組んでいる企業が多くある印象ですが、そのような取組み自体が、実施していない企業と比べると、大きなアドバンテージとなります。

 企業のなかには、守りのSDGsから転じて、攻めのSDGsを取り組んでいる企業もあります。たとえば、建設業を営む地方中小企業のSUNSHOW GROUP (岐阜県岐阜市) では、もともと社内の企業風土や働きやすい環境が整っていなかったことから、決めた計画通りに物事が進められなかったり、社員の退職などが発生してしまったりしていました。その状況を打開するために、社内でアンケートを本格的に実施し、浮かび上がった一つひとつの課題改善に向け、社内の共通認識の形成や言語化に取り組みました。たとえば、子育て中の社員が子どもも一緒に勤務する「カンガルー出勤」を認めることで、子育て中の職員が働きやすくなり、また周囲の理解も進み、日常の勤務風景となっていったそうです。そういった取組みを進めていった結果、女性の社員比率も高くなり、社全体の半数を超えています。
 さらに従業員の職場環境を整えるだけではなく、本業においても、同社は積極的な事業展開を行っています。具体的には、低価格で高品質な注文住宅「SUNSHOW夢ハウス」を提供し、ひとり親世帯や外国籍の方など、経済面を含めてさまざまな制約に直面している人でも、マイホーム購入を円滑に進められるような支援サービスを展開しています [註2] 。このことで、SDGsに掲げられている貧困の削減や国内外の不平等を是正することに具体的に貢献しています。同社は、積極的にSDGsに向けて取り組んでいることが評価され、2018年に内閣府「第2回ジャパンSDGsアワード」で特別賞を受賞しました。
 2017年にダボス会議の有識者によって取りまとめられた報告書では、企業が持続可能な開発目標 (SDGs) を達成することで、世界で2030年までに少なくとも12兆ドルの経済価値がもたらされ、最大3億8,000万人の雇用が創出される可能性があるという試算 [註3] が出されました。そのような前向きな試算はあるものの、2030年までの取組みによって、わが国、ひいては九州地域に果たしてどれくらいの経済効果をもたらすかは、各企業や自治体による取組み次第ともいえます。
 そこで、今回のコラムでは、攻め・守りのSDGs経営のヒントとなる視点をご紹介したいと思います。
 

[註1] 日本経済新聞「シャープのマスク事業、社会貢献から収益化に本腰」(2021年1月11付)
[註2] 岐阜新聞「社会課題を事業と教育で解決」(2021年1月1日付)、2020『SUNSHOW GROUP SDGs REPORTWeb公表資料を参照
[註3] モニターデロイト編『SDGsが問いかける経営の未来』日本経済新聞出版 (2018)

時間軸のなかで、現状をとらえる

 2015年の国連サミットでSDGsが採択されてから丸5年が経ち、2030年の国際目標達成にむけて取り組む時間は、2021年で残り10年となりました。今年は2011年の東日本大震災から10年。そして2016年の熊本地震から5年という節目の年になります。10年後、あなたの仕事や日常生活はどうなっていると思いますか。あなたはどうなっていたいですか。10年を、1年、3年、5年と期間を区切って考えると、実はあっという間に過ぎていく期間かもしれません。

 時間軸で状況をとらえる際に、「現在」を起点に「将来」のことを考えるのがフォアキャスティング思考、「将来」を起点に「現在」を考えるのがバックキャスティング思考と言われます。従来は、現状から積み上げる方式で将来を予測することが多くありました。その背景には、人口や経済成長の変化、雇用システムの安定など、現状から将来を見通すことが比較的しやすかったことが挙げられます。しかし、今般の世の中では、社会課題は山積する一方で、現状を延長して見るだけでは、抜本的な解決にはつながりにくいケースが多くあります。そのため、ありたい未来の姿を起点として、それを実現するための新しいアイディアが必要です。

社会課題の解決(ニーズ)を起点としたビジネスを意識する

 従来の取組みでは、企業が事業目標を立てる際に、自社や業界の現状や過去のデータに基づいて、今後の事業目標を組み立てる方法 (インサイド・アウト・アプローチ) が主流でした。しかし、それでは、目標の設定レベルや、達成しうる内容に限界があります。
 そこで、今回お伝えしたいのは、アウトサイド・イン・アプローチという考え方です。先ほどご紹介したバックキャスティング思考とも似た考え方ですが、これは、社会的なニーズを踏まえて、自社が今何を取り組むことが必要かを検討し、それに基づいて目標を設定する方法です。それによって、これまで自社で設定してきた到達レベルよりも、さらに大きな目標の達成に向けて事業に取り組むことが可能になります。
 これがまさに、SDGsの掲げる17のゴールおよび169のターゲットが掲げている未来の実現に向けて、各企業が取り組むべきことを考えるというアプローチです。

『SDG Compass SDGs の企業行動指針 —SDGs を企業はどう活用するか—』より引用

 2021年が始まった今、2030年のありたい姿の実現に向けてどのようなアプローチがあり得るか、ぜひ考えてみてはいかがでしょう。

コロナ禍のSDGs経営

 新型コロナウイルス感染症拡大により、九州地域の社会・経済にも大きな影響が出ています。これはSDGsが謳われ始めた2015年時点では、誰も予測していなかった事態ではないかと思います。
 今般のコロナ禍によって、事業内容やコミュニケーションの在り方、生活様式の全般の見直しを余儀なくされ、従来の手法でのサービス提供が難しい場合の代替手段の検討や、従業員の働き方、社内外とのコミュニケーション方法について再考せざるを得ない状況となっています。現状を見直すことは、今後も残したいものや、工夫しうる代替手段、新しい事業形態を検討する機会でもあります。
 先のことが見通しにくい時期であるからこそ、現状からの積み上げだけではなく、将来からのバックキャスティング思考、社会課題などのニーズを踏まえたアウトサイド・イン・アプローチによって、思い切った変化を起こせる可能性があるのではないでしょうか。
 九州地域において、企業や行政・自治体、市民の皆さまによる、社会課題の解決に向けたSDGsの取組みが推進されていくなかで、2021年が、これからの5年、10年を考えるうえでの新たなスタートの1年となることを祈念しています。


公益財団法人 九州経済調査協会
調査研究部 研究員
平松朋子